34. 混ぜ合わせたもの

 話し合いの後、エレノアの処刑の時が明日になることが告げられた。

 最初は暇を持て余していたから神話を読んでいた私。


 でも、その中に気になる記述を見つけてしまったから、そのことについて急いで調べている。

 私と同じように暇していたアルバート様を巻き込んで。


「あったよ」

「ありがとうございます」


 アルバート様が差し出してくれたのは、歴代の貴族の顔写真が乗っている本だった。

 調べたいことはこの本と、もう一つ。絵具を混ぜ合わせたら何色になるのかが分かればいいのだけど……。


「絵具の方は、画家に聞いた方が早そうだ。この前会った画家を読んでみるよ」

「迷惑にはなりませんか?」

「彼は王城で暮らしているから問題ないよ」


 そうして呼ばれた画家さんは、なんだか機嫌が良さそうだったから、迷惑では無いと分かって安心した。


「……髪色が両親の色を受け継ぐというのは皆さんご存じだと思います。でも、その色が絵の具を混ぜ合わせる時と同じ受け継ぎ方をするという記述を目にしまして、確認しようと思ったのです」

「ああ、確かに何かの神話に書いてあったな。言われてみれば、思い当たる色はいくつかあるような気がする」

「私は両親の色を混ぜたら子の髪色になるのか、調べれば良いということですか?」

「ええ。お願いできますか?」

「もちろんでございます」


 そうして、画家さんを交えて歴代貴族達の髪色について調べることになった。

 私とアルバート様には絵の具の知識なんて殆どないから、画家さんに頼るしかないから、快く受け入れてもらえて良かったわ。


「ここは母対父を三対一で混ぜるとこの色になります」

「こちらはどうでしょうか?」


 本のページを捲って、次の写真を指差す私。


 ちなみに、この本は最近つくられたばかりのものだけれど、似た内容の本が三年に一回作られている。

 その中から今回は十冊ほど持ってきている。


「父対母を六対一くらいで混ぜた色ですね」

「これは……父親の色がそのまま出ているだけか」

「それは父の色に母の色を少しだけ入れると出来上がる色ですね。あとは、白色も半分くらい入っています」


 こんな風に調べていくと、神話の記述は半分くらい正しいことが分かった。

 残りの半分は、両親の色に黒色か白色のどちらかが混じっていることがあるということ。


 どうしてこんな風になったのか調べてみると、魔法の力が影響しているらしいということが分かった。

 両親よりも精霊に愛されていると白色が、愛されていなかったら黒色が混ざっているみたい。


「これはシルフィーナの家なのだが……」

「シルフィーナ様は母君の色がかなり強いですね。白は九割といったところです」


 お母様譲りの髪色だと思っていたけれど、少しだけお父様の色も入っていたのね……。

 今まで思っていたことと事実は少し違ったらしい。


「そうでしたのね……」

「ええ。それほど精霊に愛されているのでしょう。

 ところで……このレベッカという方は、本当に養子なのですか?」


 ふと、そんなことを口にする画家さん。

 私が気になっていたことが突然話に上がって、少し驚いた。


 少し前に、この画家さんの絵を見せてもらった時、空色と黄色を混ぜると若草色になると教えてもらった。

 その色の組みあ合わせは、私の両親の髪色とレベッカの髪色と同じだったのよね……。


「私も同じ疑問を持ったので、調べていますの」

「左様ですか。他の組み合わせでも同じ髪色が出来ることはありますが……」

「その可能性も考えないといけませんね……」


 私の予想が当たっているのかはまだ分からない。

 でも……。


「今のレベッカ嬢なんだけど、シルフィーナが十歳くらいの時に似ている気がする。

 昔の写真は持ってきているか?」

「部屋にありますので、取ってきますね」


 そう口にしてから立ち上がると、アルバート様も立ち上がってこんなことを口にした。


「僕も一緒に行こう」

「ありがとうございます」


 画家さんに断りを入れてから、王宮に向かう私達。


 私の部屋に着くと、屋敷から持ってきていた昔の写真をいくつか取り出してアルバート様に見せてみた。


「やっぱり似ているな。目元が分かりやすい」

「言われてみると、面影はありますわね……」

「顔まで似ていたら、血がつながっていることは確実だと思う。このこともエレノアが関わっていると思うから、後で拷問して吐かせよう」


 そう口にするアルバート様。

 私は頷くと、彼と一緒に画家さんが待っている部屋に戻った。

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