32. エレノアside 効かない呪い
シルフィーナが木箱の中から脱出する少し前のこと。
エレノア・セレスト──またの名をエルザ・ローズマダーは、計画通りに進む物事を見て歓喜していた。
今の彼女の手元にある透明な球状の魔道具には、二つの赤い点が示されている。
この魔道具の正体は、罪人を追うときによく用いられるものだ。
使い方は簡単で、追いたい人物の名を三人まで言ってから起動すると、一番遠い場所にいる人物が球の端に示される。
これを使えば、王都からでも罪人に追いついたかどうかが分かる優れものだが、一つ問題があった。
悪魔と契約し、魔法の力を失ったエレノアは魔導具を使うことが出来ないのだ。
だから使用人に頼るしかなかった。
幸いにも公爵家には子爵家出身の侍女もいるため、エレノアには扱えなくても魔導具自体は使うことが出来る。
「さて、そろそろ対価を要求しましょう」
「今回は何を求められますの?」
「今回はシルフィーナに呪いが効かないという情報だけですから、血を三滴ほど頂きましょう」
実は呪いというものは、魔法と似ていて悪魔に魔力を渡すことで、対価として効果を発現させるものだ。
だから呪いに対する対価を求められることはない。
しかし、エレノアが契約した吸血鬼という悪魔は、血を欲した時に情報を自ら提供し、対価として血を要求するという手を取っていた。
この悪魔は血を得ることが出来れば他のことは何でもいいのだ。
ちなみに、エレノアから自発的に悪魔にお願いをしたのは、十八年ほど前に「姿を変えて欲しい」という一件のみだった。
その時の対価は血をティーカップ一杯分。
エレノアにとって、その対価は安いものだった。
「分かりましたわ」
悪魔の要求に応じ、腕を差し出すエレノア。
これから針を自ら突き刺し、血を滲ませるのだ。
その頃、魔導具に示されている点は距離を縮めていて、ついに重なり合った。
重なり合った点が輝きを増すことはなく、一つだけしか写っていないように見える。
そのせいで……。
「やっと、やっと死んだわね! これでシルフィーナは悲しむわ!」
エレノアは点が一つ消えたものと思い込んで歓喜する。
けれどもそれだけでは満足できていなくて、シルフィーナが悲しむ姿を直接目にすることで心を満たそうと考えていた。
しかし翌日。
騎乗での移動でシルフィーナ達が距離を取っていたから、再び点が二つになった。
「どうして生きているのよ!?」
慌てたエレノアは再び呪いの力を使い、アルバートを騎士団に殺めさせようとした。
その時、タイミング悪く食事のために呼び出され、一度目を離した彼女は点が重なり合う様子を見ることは無かった。
だから……。
「今度こそ死んだわね」
再び一つになった点を見て、エレノアは満足そうに息を吐いた。
そんな彼女が絶望する時は、そう遠くないのにも関わらず。
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