26. ガークレオンside 未練
シルフィーナが拉致されるという事件から数日前のこと。
クリムソン家にエレノア・セレスト公爵夫人が訪れていた。
エレノアが面会を求めたのは、義娘の婚約者だったガークレオンだった。
「本日はどういったご用件で?」
平民上がりとは思えない、優雅なカーテシーを見せたエレノアに声をかけるガークレオン。
そんな彼の問いかけに、エレノアはこんな言葉を返した。
「ガークレオン様がシルフィーナに未練を抱いていると耳に挟みまして、今回はシルフィーナを貴方のものにするための提案に参りましたの」
「なるほど。詳しく聞かせてください」
シルフィーナに未練を抱いていると公言した覚えの無いガークレオンは、エレノアの発言を怪しみながらも話だけは聞くことにした。
そんなガークレオンだが、シルフィーナに未練を抱いているのは事実だった。
今の彼が置かれている状況は、かなり悪いものになっている。
両親からは婚約を破棄したことを咎められ、また「精霊の愛し子だから」という理由で選んだレベッカは交わったことが無いのに懐妊したかもしれないと言っていた。
人のことを言える立場ではないガークレオンだが、レベッカを切り捨てることを決意した。
しかし、同世代で婚約していない伯爵家以上の令嬢は居なかった。
子爵家以下であっても精霊の愛し子であれば迎え入れるつもりだったが、そもそも精霊の愛し子は珍しい存在。
そんなわけで、ガークレオンが望むような結果は得られなかった。
そして、こんな風に思うようになった。
(シルフィーナはほとんど笑うことが無かったが、顔は良かった。体の方も出過ぎず引っ込みすぎず、理想だった。
彼女を捨てるなら、抱いてからにすれば良かった。ああ、そうだ……)
この時点で最低な思考をしている彼は、直後にはこんなことを思っていた。
(どうにか王宮から連れ出して、既成事実を作ればいいんだ。そうすれば厄介な王家も彼女を見捨てる)
そんな愚かなことを考える彼は知らない。
シルフィーナが愛している者以外が下心で乱暴しようとした時点で、精霊の怒りを買って死に行く可能性があることを。
だから、エレノアの提案には乗り気だった。
「私には王宮の護衛を無力化する力がありますの。貴方が望むのなら、王宮からシルフィーナを連れ出せるようにしますわ」
「なるほど。しかし、貴女がそこまでする理由は無いはずだ」
「これから話すことは、くれぐれも他言の無いようにお願いしますね」
「分かった」
ガークレオンが頷くと、エレノアは自らの生い立ちを語り始めた。
「私はユフィアナを恨んでいますの。私の大切なものを奪った人だから。
でも、ユフィアナが死んでもこの気持ちは晴れなかった。あの女の娘のシルフィーナが不幸になればこの恨み晴れるはずだから、こうして貴方に提案しているのですわ」
「詳しく聞いても良いか?」
「浮気するような人は信用できませんから、これ以上は話せませんわ」
「そうか」
そこで一度話は途切れ、考え込むガークレオン。
一方のエレノアはというと、気付け薬を周囲に振りまいてガークレオンの意思を誘導しようとしていた。
そして……。
「貴女の力を借りることにします。
しかし、その力をすぐに信じることは出来ない。手始めに、一度この屋敷の中にいる衛兵を無力化して見せてくれ」
「一時間ほど頂いてもよろしいですか?」
「なるほど、準備に時間がかかるのだな」
その後、屋敷内にいる衛兵全員が揺すっても目を覚まさないほど深い眠りに落ちた様子を見て、ガークレオンはエレノアの言葉を信じることになった。
それから二人は密談を繰り返し、シルフィーナを拉致するために計画を練っていった。
シルフィーナ達には呪いの力が届かないことを悟ったエレノアによって、眠り薬を使っての対策も考えられていた。
(ようやく俺のものに出来る)
計画実行の日、ガークレオンが怪しい笑みを浮かべていることに気付く者はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます