20. 混ぜ合わせると

「今日はここまでに致しましょう」


 縄抜けを教えてくれている侍女さんにそう言われ、私はアルバート様の元に戻った。


「私の方は終わりました」

「僕の方もちょうど終わったよ」


 彼も縄抜けを試していたみたいで、最後の結び目を解いてから返事をしてくれた。


 それからは普段通り王家の方々と昼食を頂いて、そのまま中庭に出ることになった。

 でも、普段私達がお茶をしている場所に、私が一度もあったことが無い殿方が座っていた。


 大きな白い板を立てかけて、絵を描いているのだと遠目からでも分かった。


「あの方は王家お抱えの画家さんでしょうか?」

「そうだよ。写真のように忠実に、それでいて美麗に仕上げてくれるから母上が気に入っている」

「そうなのですね。近くで見てみても大丈夫でしょうか?」


 王妃様のお気に入りと聞いて気になってしまったから、アルバート様にそんなことを尋ねてみた。

 絵はまだ半分も描かれていないけれど、どんな風に描かれているのか気になったのよね。


「もちろん。僕も気になっていたから、一緒に行こう」

「ありがとうございます」


 彼にエスコートされ、その画家さんの斜め後ろで立ち止まる私達。

 画家さんは私達に気付いたみたいで、振り向いたと思ったら頭を下げてきた。


「殿下、お久しぶりです。そちらのお嬢様はシルフィーナ様ですか?」

「久しぶりだね。彼女はシルフィーナで合っている」

「初めまして。シルフィーナ・セレストと申しますわ」


 簡単に挨拶を済ませ、絵を描くところを見学させてもらえることになった。

 でも……。


「大変申し訳ないのですが、今は色が混ざらないように乾かしているところでして……。代わりにと言っては難ですが、絵について簡単に説明させていただきますね」

「助かりますわ。色々と気になっていることがありますの。後で質問してもよろしくて?」

「もちろんでございます。では、まずは今描いている絵について説明させていただきます」


 そんな前置きを挟んで、説明を始める画家さん。

 今回は王妃様からの依頼で中庭を描いてるのだと教えてくれた。


 写真が存在していても、絵にしか表現できない美しさがあるから絵を描かせる貴族は多い。

 今回は中庭の植え替えの前に、今の雰囲気を残しておきたいという王妃様の要望らしかった。


 既に描かれているのは、空と王宮の建物だけ。

 これから草花が描かれる場所はまだ真っ白のままになっている。


「……道具については以上ですが、何か疑問はございますか?」

「ええ。絵の具が五色しかないみたいですけど、どんな風にこんなにたくさんの色を作っているのですか?」


 今さっき絵の具を見せてもらったのだけど、白と黒、それに青赤黄の合計五色しかなかった。

 でも、絵にはもっとたくさんの色がある。混ぜているというのは分かるけれど、どんな風に混ぜているのか気になった。


「混ぜ合わせて使っています。例えば、この空の色は青と白を混ぜ合わせて作り出します。王宮の柱の色は、黄色と白を混ぜ合わせて明るくして使っています。

 そして出来上がった二つを混ぜ合わせると、こんな風に黄緑色――若草の色になります。先に青と黄色を混ぜてから、白色を混ぜても出来ますが、絵の具が余ってしまった時は今お見せしたように混ぜています」


 実際に絵の具をパレットの上で混ぜ合わせて見せてくれる画家さん。

 たったの五色しか使っていないはずなのに、パレットの上には両手でも数えきれないくらいの色がある。


「今はお見せ出来ませんが、キャンパスの上で描きながら混ぜ合わせることもあります」

「そうなっていましたのね。丁寧にありがとうございます」

「いえいえ、満足していただけたようで何よりです」


 そんな風に絵について色々なことを聞いている内に絵具が乾いたそうで、それからは邪魔にならないように、草花が描かれていく様子を静かに見つめていた。

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