19. 夢と忠告
お父様に報告を終え、王宮の私室に戻る私。
けれども、部屋に入ってすぐ夕食の用意が出来たと知らされた。
ここに来てすぐの頃は陛下や王妃殿下と食事をするなんて畏れ多くて抵抗があったのだけど、今ではすっかり慣れて談笑に華を咲かせるようになった。
もしも、お二人が私に優しく接してくださらなかったら、今でも距離を置いていたと思う。
初めの頃は、私が精霊の愛し子だから優しくしてくれているものだと思ったのだけど、アルバート様によるとそうでは無いらしい。
陛下も王妃殿下も、私の内面を気に入って下さっている。
ちなみに、ここパレッツ王国にはこんな言い伝えが今も続いている。
『決して精霊の愛し子を虐げてはならない。虐げた者には不幸が訪れる』
精霊さん達と夢の中で話す機会があったから、その不幸の正体が精霊の気まぐれで行われる仕返しなのだと分かっているけれど、普通はその言い伝えが怖くて手が出せないはずなのよね……。
それなのに、王妃殿下は私の所作に問題があると、しっかり指摘して下さっている。
私のことを考えて下さっているという証拠はこれで十分。
王妃殿下以外の方々も、私に良くして下さっているから、ここ王宮にいる限り私の身に危険は及ばないと思っていた。
昨晩の夢の中で、精霊達からあんなことを言われるまでは。
朝食のために食堂へと向かいながら、夢の中でのことを思い出す。
あの時、ふと現れた闇の精霊さんはこんなことを口にした。
「シルフィーナの義母だっけ? あの女は危険だから、気をつけて。僕たちの加護があれば死にも怪我もしないけど」
それに続けて、ほぼの精霊さん達も次々にこんなことを口にしていた。
「どこかに閉じ込められたら、お腹が空いても耐えるしかなくなるの。だから油断はしないでね」
「魔法があれば抜け出せるとは思うけどね」
「火の精霊が言ってたわ。魔法を封じ込める何かが存在しているって」
「なんだって!?」
それを聞いて、すぐに精霊の加護は万能では無いと知ることになった。
もしも魔法を封じられて縄で縛られた……気を失うことも出来ないのだから生き地獄になると思う。
例えば火炙りの拷問をされても、加護のお陰で痛みはない。
でも、空腹や息を止めた時の息苦しさは今でも感じるから、そういった拷問をされたらと思うと恐ろしかった。
「あの女は赤ちゃんでも大人でも平気な顔して殺せる人だからね。本当に気をつけて」
「人攫いだって躊躇わない人よ」
「そんな人だったのね……。
忠告ありがとう。慢心しないように気をつけるわ」
夢はそこで終わったけれど、あの時に得体の知れない恐怖心は今も残っている。
少し歩くと、王家の方々が普段食事をとっている場所に着いた。
部屋から食堂までは、アルバート様と一緒に移動することもあるけれど、今日は私の準備が遅くなってしまったから一緒ではない。
でも、食堂に入ると笑顔で出迎えてくれた。
「遅くなってしまって申し訳ないですわ」
「まだ父上達が来ていないから、気にしなくて良いよ」
「ありがとうございます」
国王夫妻の姿はまだ見えないけれど、アルバート様の弟二人と妹一人の姿は見えている。
だから、その三人に挨拶をしてから席についた。
この後、陛下と王妃殿下も席についたところで朝食をとり始める私達。
今日も会話は途切れることがなくて、一人の時よりも心地よい時間になった。
朝食後は、いつものように訓練所になっている中庭に出て魔法の練習をして、それとは別に魔法が使えない時に備えて護身術を教わることになった。
そういうわけで、今の私は縄でぐるぐると縛られている。
外行きの重たいドレスに身を包み、転ぶと危ないからと床に倒れている私。
今はもぞもぞと身を捩りながら、縄から抜け出そうとしている。
「結び目は引っ張らないように」
「はいぃ……」
思ったよりも縄抜けは大変で、すっかり息が上がってしまった。
最初なのにしっかり縛られているから、両腕を自由にするだけでも一時間ちかくかかってしまった。
「最初にしては早いですね。ですが、実践する時には時間がありませんから、三分で出来るようにしたいところです」
「三分!?」
驚きのあまり声を上げてしまった。
でも、まだ腕が自由になっただけだから、身体を縛っている縄の結び目を解いていく。
全て解き終わる頃には、すっかり陽が登りきっていた。
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