18. 対立の兆し
レベッカがガークレオン様に突き飛ばされたことが本当なのかは分からない。
でも、今のレベッカが嘘を言っている気配は無かった。
公爵令嬢としては大問題なのだけど、レベッカは隠し事が苦手だから、嘘を言っていたらすぐに分かってしまう。
「まさか怯えられるとはね。何かした覚えはないんだけど……」
「殿方を怖く感じているのかもしれませんわ」
この部屋に来た時から感じていたレベッカの怯えの原因に気付いて、そんな言葉を返す。
怪我は治せても心の傷は治せないのだから、今の状況は不思議ではない。
ガークレオン様に切り捨てられた原因は浮気と勘違いさせてしまったレベッカにもあると思っているけれど、彼に浮気を咎める資格は無いわよね……。
私の目の前で浮気をしていたのだから。
それに、懐妊しているかもしれない人を突き飛ばすなんて、許される行為ではない。
そんなことを平気でしてしまう人とは別れて正解だったと、今更ながら思った。
「……となると、僕はここにいない方が良さそうだね」
「レベッカに話したいことはもう終わりましたので、私もご一緒しますね」
アルバート様にそう言ってから、レベッカに向き直る。
「嫌がらせのことはまだ許してないから勘違いはしないで欲しいのだけど、今はレベッカの味方だから。相談ならいつでも聞くわ」
「あんなことをしてきたのに助けてくれるのね……。本当にごめんなさい」
今はお礼を言って欲しかったのだけど、嫌がらせのことは反省している様子だから何も言わなかった。
この後すぐに、私はお父様の仕事場に向かった。
お仕事の邪魔になってしまうかもしれないけれど、レベッカがガークレオン様に捨てられたことはすぐに報告した方が良いと考えたから。
「お父様、レベッカの件で報告がありますの」
「進捗があったのだな? とりあえず座りなさい」
軽く頭を下げてから、ソファに腰掛ける。
向かい側にお父様が座ったところで、私は本題を口にした。
「レベッカが懐妊している可能性は無くなりましたわ。それから……」
報告したのは、レベッカが子を授かっていなかった事とガークレオン様に暴行された上で見捨てられた事の二つ。
前者は好ましい知らせだけれど、後者はその逆。
下手をしなくてもクリムソン家との関係が悪くなってしまう出来事だから、お父様の表情は優れなかった。
「クリムソン家には慰謝料を請求しよう。シルフィーナの時は王家との関係を深めるきっかけになったからと黙っていたが、娘を二人も傷物にされては黙っていられない。
シルフィーナ、それでも良いか?」
「ええ。お父様のお気に召すようにお願いしますわ」
クリムソン家は王国一の商会との繋がりが強く、もしも関係が拗れてしまったらセレスト家の取引先は無くなってしまうかもしれない。
でも、仮にそうなってしまうとしても。
お父様はクリムソン家と争うことを選びそうだった。
そうしなかったら、セレスト家が他の家から舐められる事になってしまうから。
それに、今は取引先を失ったとしても、新しいアクセサリーやドレス、それに高級な食材を手にすることが出来なくなるだけで領地経営には影響しない。
困るのは、今も屋敷で暮らしているお義母様とお父様だけ。
お父様は基本的に贅沢をしないけれど、お義母様は贅沢ばかりの生活だから、大変になるわね……。
私の知ることではないから、気にはしないけれど、助けを求められたら面倒だと思ってしまう。
「不便をかけるかもしれない。こんなことになってしまって済まない」
「悪いのはクリムソン家ですわ。お父様が気に病む必要は無いと思います」
「そう言ってもらえるのは助かるが、無理があったら言って欲しい」
「分かりましたわ」
口ではこう言ったけれど、義母の異変にクリムソン家との対立を考えると、頭が痛くなりそうだった。
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