17. レベッカside 許せない人
「それは本気で言っているのか?」
お義姉様から子を授かる方法について聞かされた私は、五日前にガークレオン様から言われた言葉を思い出した。
忘れようとしていたのに、忘れられなかった記憶。
あの日、月のものが訪れなかった私は不安になってガークレオン様に打ち明けた。
返ってきた言葉は私を蔑むような口調で、寒気がした。
「本気で悩んでいます」
「まだ交わっていないのに子が出来る事なんて……。いや、まさか……浮気か?」
聞こえないように言っている様子だったけど、私は耳が良いみたいですべて聞こえていた。
でも、浮気を疑われる理由なんて分からなかった。
男女で抱きしめ合えば、子を授かるのだとお母様から教わっていたから。
お
今なら、ガークレオン様に浮気をしていたと疑われてしまう発言だったと分かるけれど、あの時は分からなかったの。
「他に仲が良い男がいるんだろう? その男に相談してくれ。俺はもう関わらない」
「どうしてですか……? あんなに私のことを愛していると言っていたではありませんか」
「自分の胸に聞くんだな」
そう突き放されてしまった。でも、私にはガークレオン様しか頼る人がいなかった。
お母様に相談すればいいと思われるかもしれない。でも、そんなこと出来るわけがない。
貴族の慣習にすっかり染まってしまっているお母様のことだから、私が結婚する前に子を授かったと知ったらどんな風に怒られるか分からない。
それに、お母様は私のことを道具としか思っていない。
大切な娘のはずなのに、愛情なんて感じたことは無いのよね。
だからって許されることではないけれど、使用人にもお義父様にも愛されているお義姉様が羨ましかった。
お義姉様は初めて会う私のことを最初から受け入れてくれて、優しく接してくれいていたのに、それが同情だと思うと悔しかった。
だから……。
「シルフィーナを追い詰めなさい」
お母様の言葉に従って、お義姉様が持っているものを全部私のものにしようとした。
公爵家に入る前の私だったら着ることなんて出来なかった綺麗なドレスも、光り輝く宝石も、使用人さん達の愛情も、全部私の物にしていった。
婚約者のガークレオン様だって、お母様に言われた通り、少し胸を押し付けて上目遣いで話しかけたら私のものになってくれた。
お義父様からの愛情だけは奪えなかったけど、そもそも家に居ないのだからどうでも良かった。
今までの行いが私に返ってきたのかもしれない。
でも、ここで相談出来なかったら……。
私に頼れるのはお義姉様しか居なくなってしまう。
そんなの、プライドが許せなかったから、ガークレオン様に縋った。
「お願いします。私にはガークレオン様しか頼る人がッ……」
「子を宿したお前はいらない!」
視線が天井を向いて、息が詰まる。甲高い変な声が出てしまったけど、それを恥ずかしく思うよりも先に顔と背中に痛みが走った。
私は、ガークレオン様に顔を叩かれ、勢いよく突き飛ばされていた。
「子を宿したお前はいらない! 浮気女、もう二度と俺の前に顔を見せるな」
肺が痛くて、息が出来ない。声も出せない。
涙で歪む視界の中からガークレオン様が消えるのを、私はただ見ていることしか出来なかった。
でも、治癒魔法で怪我を治して落ち着いたら、怒りが湧いてきた。
怒れる立場ではないことは分かっているけど……。
浮気をした自分のことを棚に上げながら、私を浮気女と言えるその正確が腹立たしかった。
そんな男からお義姉様を引き離してしまった私のことも許せなかった。
そんな風に思っていたのに、月のものが訪れない恐怖からは抜け出せなくて、お義姉様に相談してしまったのよね……。
本当に、私って馬鹿よ。
こんな私に今でも優しくしてくれるお義姉様を妬むのは、もう止めにしようと思った。
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