21. 誰も得しない
画家さんと初めてお話をした時から二日が過ぎた日の昼過ぎのこと。
珍しくお父様に呼び出された私は、お父様の仕事場に来ていた。
今この場にいるには、私とレベッカとお父様だけ。
人払いをしているから、使用人の姿も無かった。
「今日来てもらったのは、一連の騒動について話を聞きたかったからだ。
今後の立ち回りにも影響するから、決して嘘はつかないように」
そんな前置きを挟んでから、私は今まで起きたことを説明するようにと告げられた。
今まで話してきたことだから、特に隠したりすることもなく全てを語った。
その後は、レベッカも同じように今までの出来事を話した。
そこで語られたのは、今回の騒動の発端がレベッカの意思だけでは無かったということ。
「つまり、エレノアに唆されたのだな?」
「はい。きっかけはお母様の言葉でした。でも、実行に移したのは私ですから……反省しています」
「今は事実だけを語ってくれればそれで良い。しかし、いくらレベッカが精霊の愛し子と呼ばれていたとはいえ、ガークレオンが簡単に靡いたことについては合点がいかない。
レベッカ、ガークレオンに何をした? 言いにくいかもしれないが、具体的に話してくれないか?」
今回の出来事はおかしなところが山ほどある。
公爵令息として育てられ、浮気することがどれだけ危険なことなのか分かっているはずの人が簡単に浮気したことは、その内の一つ。
「ガークレオン様には少し露出の多いドレスでお話ししただけです。いつも笑顔でいたら、少しずつ私を気に入ったみたいで……。でも、本人に聞かないと分かりません」
「確かに本人に聞くしかないが、たかがドレスと愛嬌だけで気を引けるとは考えにくいな……。
シルフィーナには申し訳ないが、クリムソン家の総意だった可能性がある。精霊の愛し子の力を欲したのだろう」
私が容姿以外の理由では求められていなかったことは知っていたのだから、今更傷ついたりはしない。
でも、レベッカとの婚約のために利用されていたと考えると、すごく悔しい。
ちなみに、精霊の愛し子に気に入られていれば、一生を健康的に過ごせる。怪我をしなくなる。死と無縁になる。
そんなお伽話が今もずっと言い伝えられている。
きっと、お父様もクリムソン家の方々も、そのお伽噺を信じているのね……。
口には出来ないけれど、私のことを大切にしてくれているはずのお父様は、心の底から私を大切にしていた訳ではないことに昨日のお昼に気付いてしまった。
屋敷での出来事をアルバート様に話してみたら、彼は違和感を感じたみたいで、私が大切にされていないかも知れないということを教えてくれた。
そもそも娘を愛していたら、仕事で忙しくても会いにくるはず。
お父様よりも忙しいという国王陛下がアルバート様に毎朝毎晩会っていたというのだから、おかしな話だったのよね……。
お母様が生きていた頃は、私はお母様と同じくらい大切にされていた。これはアルバート様も認めている。
けれども、今の私はお父様にとって一番大切な人では無い。そのことを理解した時は、悲しくて涙を流してしまった。
一体何がお父様を変えてしまったのかしら?
こうして話しているだけでは、何も分からないわ……。
「今の時点で出来るのは、シルフィーナに対して慰謝料を払わせることだけだ。だが、レベッカの件は他の貴族からの同意を得られないだろう。
今流れている噂のせいでな」
そんな言葉に続けて、今流れているという噂について説明された。
『シルフィーナはガークレオンとレベッカによって冤罪を着せられ、我欲のために婚約破棄された。
実際にシルフィーナを虐げていたのは、レベッカだった』
そんな噂が流れているのなら、加害者側にされているレベッカに慰謝料を払わせるというのは難しいかも知れない。
でも、暴力は事実なのだから、暴力を受けたことの慰謝料くらいは払わせられると思うのよね……。
でも、私の名誉は元に戻ろうとしている。
このことが分かっただけでも、少しだけ前に進んだ気がした。
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