第10話: ※高月視点
僕は明澄さんに、心奪われていた。
母を早くに亡くした影響からか、僕は他人と一定以上に近づかないようにしていた。
それでいて人前では仮面を被り、道化を演じて『それなりの関係』は築いていた。
そうすれば、孤独ではなかったし、仮に彼らが僕から離れていったとしても傷は浅いと、そう思った。
道化の僕を好いてくれる女の子もいた。
けど、それは本当の僕じゃあない。
何人かの女子と付き合ってはみたものの、皆一様に『思ってたのと違う』といって離れていった。
勝手に好きになったクセに、勝手に離れていく。
全く、勝手なものだ。
でも、僕は傷つかない。そのための仮面だから。そのための道化だから。
なのに――
彼女に出会ってから、僕は変わってしまった。
何としてでも彼女を手に入れたいと、強く、強く望んでしまった。
大学入学初日。桜吹雪の中、構内を颯爽と歩く彼女に一目惚れをした。
彼女はいつも一人でいるようだったので、外堀を埋めるのは難しい。
そこで、わざとペンを忘れたフリをしてお近づきになろうと画策したりもした。
しかし、ガードの堅い彼女はその身を更に堅くするように、ギターを背負ったガーディアンを雇い始めた。
あのガーディアンを崩すのは容易ではない――そう感じた僕は、学祭の時に一人でいる所を狙って、玉砕覚悟で告白してみた。
案の定、玉砕した。
それでも、どうしても彼女を欲した僕は諦め切れなかった。
あれだけ傷を負うのを忌避していた道化が仮面を剥ぎ取り、もう一度告白をするくらいには。
全く、自分でもどうかしていると思う。
けれど、それだけのリスクを背負ってでも、手に入れる価値のあるように思えたのだ。
彼女は凛として美しく、それでいて優しくユーモアがあった。
もしかしたら、心のどこかで彼女と亡くなった母を重ねていたのかもしれない。
病弱だった母は病魔と闘って、臆せずに逝った。
何にせよ、僕は彼女を諦めない。目下やることはあるけど、それはそれだ。
公園で彼女と話して、益々誰のものにもしたくないと、強く感じた。
もう、なりふりなんて構っていられない。
ガーディアンだろうと何だろうと、打ち破ってみせる。
道化から仮面を剥ぎ取ってくれる彼女と、共に歩ける人間になりたいから――
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