第3話✒出発の時

「起きて。起きてってば。ガラスペンさん」

体がゆれる。ヒロコちゃんが覗き込むように俺を見ている。今は頭なんてないけど頭がぐわんぐわんする感覚。

(起きた。起きたよ。起きたからゆすらないで)

「良かった。おはよう。ガラスペンさん」

(おはようヒロコちゃん。今何時?え、まだ7時じゃん。俺さっき寝たところなんだけど)

夜は全然眠れなかった。あまりにも衝撃的すぎることが多くて興奮してしまったのか、まったく眠くならなかった。

「さぁ、行きましょう、ガラスペンさん」

まだ顔も洗ってないし、ご飯も食べてないんだけど。あ、ガラスペンだから必要ないか。

ヒロコちゃんは俺の体をひょいっと持ち上げると布にくるもうとする。

(えっ、待って待って?なにしてるのヒロコちゃん!?)

「そのままカバンに入れて割れちゃったら困るから布に包もうとしているんだよ」

(えっえっ、待って突っ込むところが多すぎてよく分かんないんだけど、俺準主役的立ち位置なのに旅の間カバンの中なの!?)

「ガラスペンを持ったまま冒険に出る人なんている?両手が使えないと効率悪いでしょ」

(そもそも大多数の人は地図を片手に冒険に出たりしない)

「まぁそういうことだから」

ヒロコちゃんは容赦なく布を被せてきた。

うっ、息ができない……。くるし……くない。苦しくないな。そうだ、俺はガラスペンだった。呼吸しないじゃん。ラッキー


ゆっさゆっさと体が揺れる。重圧を感じる。どうやら俺はリュックの下の方に詰められたらしい。俺、一番上じゃないの!?てゆうかどんなけ荷物詰め込んだらこんなに重くなるのさ。もう、心も体もポキッと折れちゃうよ?ガラスペンだけに。


シーン


(ねぇ、ヒロコちゃん。ヒロコちゃーん)

できるだけ大きな声を出す感覚で念じる。

隙間から光がさした気がした。

ごそごそと荷物をあさるような音。

(うわっ。眩しい)

「ごめんなさい。眩しかった?」

(あ、うん。いや、でもそれより前に謝って欲しいことがある。

まぁでも俺の声が届いてよかった。死ぬところだったよ)

「俺の声?ガラスペンさん、私のこと呼んだの?」

(呼んだよ。だからカバン開けたんじゃないの?)

「ううん。今丁度1つ目のインクが手に入ったから報告しようと思って」

(もう手に入っちゃったの?7つしかないインクの一つをもうゲットしちゃったの!?しかも、準主役の俺ナシで!?)

「いつも行く文房具屋さんに500円で売ってたの。ラッキーだったね」

(文房具屋さんに売ってるインク集めるだけなら誰でも良くない!?いや、誰でもいいから俺たちが選ばれたのかもしれないけど)

「じゃあ先を急ぎましょう」

(待って。待って。だから、一番底に入れちゃだめだってぇ。大切なものなんだろ、ヒロコちゃーん。おい、ひろこ、ひろこー)






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