第7話 王子様と私(スバルサイド)


 桜の季節も終わる頃、私の学年が一個上がる。     

 登校前に公園の桜並木を歩いてると、桜の木は青葉となり、地面に視線を向けると花びらが絨毯のように敷き詰められていた。

 

 校門をくぐると新しい気持ちと共に一年間お世話になるクラスを確認した。 一覧には気になる名前を発見。白河桜華一のイケメン石田大和と友達の福島北斗。

 あと学園一の嫌われ者で北斗の元カレ黒田勘九郎までいる。あったことはないからどんなやつかは知らないけど、噂によると女を物としか扱わない悪人づらの危険な男らしい。

 こういう輩とは関わり合いたくないので私はいつものように営業スマイルでやり過ごすことになるだろう。

 イケメンは善、それ以外は悪という一般女子達の考え方には賛同しかねるが、かっこいいは全て許される気もする。もし私が崇拝する朗読王子様が浮気性でも許すだろう。


 私は校舎へ入る。

 廊下、ガラスに映った自分の姿を確認して若干曲がったネクタイをまっすぐに直す。  

 おしゃれ程度に色を抜いた明るめの髪の毛を手ぐしでクイクイと整える。


 私の名前は加藤統星(カトウスバル)。

 学園ではカリスマアイドルまたはカリスマ優等生としてもてはやされているが、素はそんなにいい子じゃない。どちらかといえば仮面をつけた優等生、それがしっくりくる。

 活発な性格押し殺し、大人として優雅に振る舞う私かっこいい! を美学している普通の学生だ。

 聴いていた王子様の朗読劇を名残惜しいがとめて、「おはよう!」カリスマ優等生の新学期が始まる。


 ——新学期もスムーズに進み、しばらくのうち、友達の福島北斗から相談を受ける。


 夕方の誰もいない教室は普段より大きく感じた。


「北斗どうしたの? だいぶ思い詰めているけど。演劇で辛いことでもあったの?」

「大好きな彼とよりを戻したいけど取り合ってくれない」


 泣きじゃくる北斗、私のハンカチを渡す。

 どういった経緯なんかは教えてくれないので詳しく聞いてないけど、彼女の言い分に元彼である黒田勘九郎の露骨な態度に腹が立った。パッとしない見た目の分際で女遊びが激しくて最低野郎とは噂で聞いたことがある。何度も女を捨てたとか。

 でも、恋愛関係経験ゼロの私に相談されても明確な答えがなかった。 それでも頼りにしてくれてるんだからなんとか協力してあげたい。


 今度、黒田勘九郎へ直接問い詰める必要性があるようだ

 友人に相談されたら解決してあげるのがカリスマと言われてる私の役目。

 相手は全く良い噂を聞かない。果たして私で太刀打ちでできるのかわからないけど、 北斗まで捨てるつもりだったら学園の女子全体で黒田を追い出す必要性があるかもしれない。


 まあ、そんなに一途に好きな人を思い続けるのは羨ましくはある。

 恋愛経験がないから尚更。

 そんな恋愛が遅れている私にも気になっている人がいた。

 放送部の朗読の王子様。

 部活にはどこも入っていない。私は役付じゃないけど生徒会のお手伝いをしている。そんな私が興味を持ったのが放送部。あの王子様がいるから。でもファンが多いので大騒ぎになっちゃうので先生の紹介がないと入ることができなかった。

  

 お昼休みに流れる放送部のラジオ番組風放送のひととき。その中で人気ナンバーワンパーソナリティがいる。

 学園全女子の心をたった一人で鷲掴みしたイケボ。別名王子様ボイスで疲れた心をみんな癒やされた。特に王子様が朗読する恋愛物の朗読劇は恋心を刺激されて乙女にされる。


 『——皆さんお元気でお過ごしでしょうか? 新しい一年が始まって何かと馴れない日々が続きますが、僕も新緑の香りに胸が踊り、スバメの巣を見かけると思わず笑顔になります。よく布団の中に入り込んでくる姉も、暖かくなり寝心地が良くなった反面、起きられなくり目覚まし代わりに僕を使ってくるので困ってます』 


 王子様のお姉さんが羨ましい。役代わって。


 運命だった。管楽器のような弾んだ音と弦楽器のチェロのような優しい響き。スピーカーから流れる甘い甘いボイス。この声に惚れた。

 この声の為なら今日も頑張れる気がした。


『ここでリスナーからの質問コーナーです』


 Q: 王子様はどうしていつもこんなきれいな声をしてるんですか? 


『どうしてだろうね、 別にトレーニングとかはしてないですよ。ただ皆さんに想いを込めて演技しているだけです』


 ああー! 私だけを想って⁉


 Q: 王子様は普段どんなことをしてるんですか?


『そうですねー。朗読用のシナリオを書いたり本を読んだり、実は喫茶店でアルバイトもしているんですよ』 


 嘘!? どこどこ場所教えてよ!?


 Q: 好きだよとつぶやいてください。


『君のことが大好きだよ陽輪、もう離したくないな』


 あー! カスヤンが抜け駆けしたー! 信じらんないー!


 友達でクラスメイトの糟屋陽輪が嬉しさのあまり地ベタで転がっていた。女子達の嫉妬の視線を一身に浴びて。


「王子様、今日も素敵だったね統星」

「そう? まあまあじゃない」


 だが私は自ら創造したカリスマ優等生。一般女子高生のようにキャピキャピとはしゃいでいい立場じゃない。生徒の模範で、皆の味方でなくてはいけない。だから心を殺す。ニュートラルが一番。

 王子様のことを共有できる友が欲しいところだが、当面まだ秘密の推しである。

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