第30話 開催《ネオ・アニマル》!

《再調査依頼》

 そう書かれた書類が届く。

 ネオ・アニマルの調査がまた行われるらしい。

 でもいつ頃来るのかは分からない。

 期限も残り少ない。

 だからこそ、いつも通りの接客を心がけるべきだろう。

「いらっしゃいませ~」

 アクアキャットのトリミングにきた青年。

 ここではトリミングやペットホテルのサービスも行っている。

 むしろ、それがメインで食べていけている。

 動物たちは珍しいこともあり、原価がかかる。だから高くなりすぎないように注意している。

 そんなこともあり、トリミングはけっこうな値段がする。

「マリアさん。よろしく」

「分かったわ」

 トリミングの資格は18歳を超えていないと取得できない。

 だからマリアさんに頼む形になる。

 わたしはまだ16。

 あと2年で取得できるようになる。

 それまでは見習いとしてでしか参加できない。

 それが若干悔しい。

 トリミングが終わると、受付でネチネチと質問攻めをしているお客さんがいる。

 対応しているのはロビンくん。

 なんとか答えているみたいだけど、すごく辛そう。

「お客様。どういったご用件でしょうか?」

 わたしは間に入って訊ねる。

「いや、ここで買ったオモチャが喉に詰まって、危うく死ぬところだったんだ」

「そちらのオモチャはお持ちでしょうか?」

「あんな危ないもの、すぐに捨てた」

「では、レシートはありますか? すぐに確認しますので」

「……もういい」

 小さな声でそう言い、ブツブツ文句を言いながら立ち去るお客さん。

 その後ろ姿を見届けてからロビンくんに向き直る。

「すみません。ふがいなくて」

「いいのよ。あなたはお客様を大切にしすぎる傾向にあるし」

「ごめん」

「いえ。悪いことではないの。気にしないで」

 人には向き不向きという言葉がある。

 だから適正のある者に任せればいい。

 わたしはそう思う。

 仕事は適材適所なのだ。

 できることだけでいい。

 みんなで助け合っているのだから。

「みんなに頼ることも覚えて、ね?」

「はい」

 しかしあんなところを調査されていたら……。

 大丈夫だと思う。

 ロビンくんは対応を間違っていたわけでもないし。

 そう納得させると次の仕事に取りかかる。

 一日でやらなくちゃいけない仕事が多すぎる。

 商品の発注や、予約の受付も実は仕事としてある。

 休む暇もないほど、働いていたわたし。

 今でもそうだ。

 でもお母さんがほとんど済ませていた。

 だからわたしはお母さんを尊敬しているし、逆らったこともない。

 お母さんみたいな立派な大人になるため、頑張っている。


「合格通知が来たわよ!」

 翌日の夜。

 みんなを集めて、お母さんがそう告げる。

 ネオ・アニマルの結果が届いたのだ。

「しかし、今から準備ですか?」

「あら。ロビン君は不服そうね」

 マリアさんが煽るように呟く。

「まあね。動物たちにはストレスになるし、そもそも参加する意義があるのかな?」

「でもここで認められたら、支援金ももらえるよ」

 この間の火災でかなりの借金をおった。

 だからこれからはお金も気にしなくてはいけない。

「困ったときの相談相手にもなるんだってね」

 サラちゃんがさらりと補足説明する。

「まあ、そうだけど……」

「はいはい。でも動物たちにはストレスになるわね。ストレスに強い子だけを選出しましょう?」

 お母さんがまとめだす。

 そうなると幌馬車を動かせるロビンくんと、責任あるわたしが一緒に行くのは決定事項だろう。

「あたしも行く」

 意外にもサラちゃんが手を挙げる。

 わたしとしては経験を積ませようと思うけど。

 でも彼女は動物があんまり得意じゃない。

「大丈夫?」

「あたし、いつまでも助けられる側じゃないもの。あたしだってみんなの役に立ちたいんだよ!」

「で、でも……!」

 わたしが反論を言いかけたところで、お母さんが肩をつかむ。

「覚悟はあるのね?」

「……はい!」

 お母さんの発した言葉に少し震えるが、すぐに毅然とした態度をするサラちゃん。

「なら行きなさい」

「はい」

 わたし、ロビンくん、サラちゃんの三人でネオ・アニマルに行くことが決まったのだ。


 ☆★☆


「ほら。動物を乗せて」

「は、はい」

 ロビンくんの声に応じるサラちゃん。

 ちなみにネオ・アニマルは王都で開催されるイベントだ。

 幌馬車で四日はかかる。

 途中で食材や水などを補給する必要もある。

 わたしたちは動物たちの様子を毎日観察しながら王都へ向かった。

「はぁぁん! アイリーン様!」

 おかしくなったロビンくんはほっといて、わたしはケージを並べる。

 その隣でサラちゃんが怖がりながらも動物たちを運んでいる。

 サラちゃんの恐怖心が彼ら、動物に伝わっているのだけど。そのことを告げても、怖いものは怖いらしい。

 困ったものだ。

 ざわつく会場の端、一番奥でわたしたちのお店の支店が開かれる。

 ちなみにアイリーンのペットショップ《ライブ》はイベント会場の表側、外のすぐ傍で開いている。

 お客さんが一番近くを通るルートに開かれているのはかなりの利点である。

 それにアイリーンも《ビーストテイマー》だ。

 わたしほどではないにしろ、動物たちと心通わせる数少ない力の持ち主だ。

 これでは勝ち目などない。

 ちなみにアイリーンに一方的にふっかけられただけで、こちらとしては受けてたつつもりも毛頭ない。

 負けると分かっていて、挑戦する必要もない。

 ただロビンくんが鼻の下を伸ばしているのを見ては腹が立ってしょうがない。

 ムカつくから、ロビンくんには冷たくしよう。

「ご、ごめん。遅れた」

 ロビンくんは焦ったように言う。

 そこに冷笑を浮かべると、ひぃっと顔を背けるロビンくん。

「も、申し訳ないです! はい」

 すっかり身をちぢ混ませるロビンくん。

 すかさず、椅子を用意しわたしを座るようにうながす。

 こんな雰囲気でお客さんがくるのだろうか?

 疑問がふつふつと湧いてきた。

 でも、ネオ・アニマルか。

 夢の舞台に立ててわたしはすごく嬉しい。

 いつか、ここでペットショップを開けること。

 それも数ある夢の中の一つの夢だった。

 あとの仕事はロビンくんに任せよう。

 冷徹な顔を向けていると、ロビンくんはせっせと働くのだった。

 サラちゃんがドン引きしているけど、ロビンくんは気にした様子はない。

「こんなやつやめて、あたしと暮らさない? アリス」

「それは……。少しだけ悩むわね」

「そ、そんなー!!」

 ロビンくんがしょぼくれたように声を上げる。

「それが嫌なら、すぐに働きなさい」

「は、はい!」

「なんだかなー」

 サラちゃんが困ったように頬を掻く。

「あたし、勝ち目ないじゃん」

 そう言うサラちゃん。

「ま、勝ち負けなどいいのよ。それよりもそろそろ開催だよ」

 会場の真ん中で主催者が声を高らかにして、各ブースに対して宣言をする。

《全ての人に安らぎと、癒やしを!》

 そう言って開催される《ネオ・アニマル》。

 これから始まったのだ。

 そして予想通り、お客さんはペットショップ《ライブ》に引き寄せられる。

 アイドルであるアイリーンがいるせいも大きいのだろうけど。

 こちらにはヘタレのもやしっ子と、動物嫌いな百合っ子。

 それにベテランのわたししかいない。

 何か策でもあれば良かったのだけどね。

 どうしたものか。

 開催日程は三日間行う。

 その一日目は二人の集客で終わってしまった。

 このネオ・アニマルで沢山の人を集めたかったのに。

 それに知名度もあがれば、こっちのものだったけどね。

 幸せを届けるのに、わたしのお店である必要もないか。

 でも……


 面白くないんだよね。


 わたしは指をかじり、妙案を思いつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る