第28話 トップアイドル・アイリーン!!

 ペットショップ《フロンティア》を潰そうとしている人がいる。

 そんな話をロビンくんが言ってきた。

 その真相を知るために尋ねる。

「どういうこと?」

「ビートやラルクが親のコネを使って広告代理店を抑えたり、圧力をかけているみたい。だからこの新装開店も知らない人が多いんだ」

「そう、なの……?」

「なんだ。火事で大変じゃないのか?」

 いきなり声をかけてきた青年。いや、

「魔王サタン!」

「そっちの小僧は覚えているぞ。確かアリスの恋人だったな」

「僕はお前に負けないっ!」

「ふん。その目、気に入った。あとで我が王城にくるがいい」

「え……」

 拍子抜けするロビンくん。

「え。いや、ええ……?」

「戸惑うな。我にだって野望があるのだ。そのための手駒は必要だ」

 手駒。

 その言いかたに引っかかりを覚える。

「……それはアリスさんのためになるのか?」

 魔王サタンに対してすごむロビンくん。

 こんなロビンくんは見たことない。勇ましい。

 サタン相手にも物怖じしないで、堂々と話している。

 それが意外だった。

「まあいい。それより今はどうなっておる?」

 状況説明を求めるサタン。

「ええと……」

 襲撃されたこと、すぐに再建したこと。そして店を潰そうとしている人がいること。

「なるほどな。だが、我はネオ・アニマルの件で訪れたのだ」

「え。どうして?」

 わたしはその話を聞いて、目を見開く。

「おかしいと思ったのだよ。あれだけ愛情をそそいでペットを育てていたのに」

 それはそう。

 わたしは一番にペットのことを考えている。

 それに嫌いである能力のビーストテイマーで動物たちの声は聞いている。

 だからそんなに悪環境ではないと思う。

「まあいい。俺はだいまおーのご飯を買いにきたのだ」

 ぷいっとそっぽを向いて呟くサタン。

 なんだか頬が赤い。

「まあいい。ネオ・アニマルの件、こちらに任せてくれ」

「え。でも……」

「気にするな。俺の大事なお店だ」

 そう言って本当にドラゴン用の食事を買い、立ち去っていくサタン。


「あー。ここね! 噂になっているペットショップは!?」

 サタンと入れ替わり立ち替わり、訪れる女の子がいた。

 髪を横にひとまとめにしていて、水色の瞳をした端正な顔立ちの女の子。

 まるで西洋人形のような、そんな顔立ち。

 見覚えのある顔立ち。

「アイリーン様のお通りよ! 道を空けなさい」

 アイリーンという少女がこちらに向かってくる。

「へぇ~。制服も可愛いじゃん!」

「ええっと。もしかしてアイドル《ミラクル☆ガールズ》のアイリーン様?」

「そうよ! 我が前にひれ伏しなさい!」

「ははー!」

 そういて触れ伏すわたしの彼氏。

「え。ロビンくん!?」

「ごめんなさい。僕ドルオタなんだ。それに一番最推しの最高なアイリーン様なら……」

「おい!」

 わたしは荒っぽい声を上げて、無理矢理立たせる。

「う、ごめん」

「ふーん。そういう関係なんだ?」

「わたしのロビンくんになんてことさせているのよ!」

「え。アイリーンの問題?」

 アイリーンは困ったように指を自分に向ける。

「ま。アイリーンの顔が美しすぎたのね!!」

 なんだかインパクトの強い子だな。

 それに一人称があれだし。

 痛い子なのかな。

 お姉さん心配になっちゃう。

「はいはい。それまでにして」

 わたしは手を叩いてロビンくんとアイリーンの間に身体を滑り込ませる。

「それで? 何しにきたのよ?」

「ふふーん。分かっていないのね。アイリーンの所属するペットショップ《ライブ》と同じ好環境と聞くわ。負けているの許せないんだから!」

 そんな噂が――っ!?

 嬉しい。

「そんな笑みも吹き飛ばして上げるわ! だってアイリーン様だもの!!」

「は、はぁ……」

「これは戦線布告よ。アイリーンが勝ったら、このロビンくんを溺愛しちゃうんだから!」

「渡しません!」

「なら、今度の《ネオ・アニマル》に参加しなさい。そこで売り上げで決着つけるわよ!」

「え」

 返事を聞く前に立ち去っていくアイリーン。

 とんでもないアイドルというのは分かったけど、なんであんなに躍起になっているの。

 やりにくいんだけど。

 あと《ネオ・アニマル》は諦めているのに。

「どうすればいいの?」

「……僕がどうにかします」

「できるの?」

「はい。変わりに三日の猶予をもらいます」

「それはいいけど……」

 ロビンくんは肝心の行くのかを教えてはくれない。

 どういうつもりなのだろう。

「その作戦、行けるの?」

 怖ず怖ずとしつこく訊ねるわたし。

「ふっ。大丈夫です。大船に乗った気持ちでいてください」

「ロビンくん……」

 かっこいいなわたしの彼氏――でも。

「敬語になっているよ?」

「あ! ええとまだ抜けていなくて……。たはは」

 乾いた笑みが浮かべるロビンくん。

「さ。行きますよ」

 幌馬車にはなぜかこの町特産の野菜や果実を載せて移動を始める。

 ちなみに貴重な鉱石も運んでいる夜盗に襲われないか、心配するレベルである。

「こんなに早く出かけなくてもいいのに」

「だって善は急げって言うよ」

「それは、そうだけど……」

 わたしは困ったように頬を掻く。

「ははーん。このアイリーン様と戦うのが怖いのね。そちらのお嬢様は!」

「む。わたしはアリス。アリス=ロードスター。ちゃんと名前でいいなさい」

「ふーん。このアイリーンに逆らうんだ?」

「わたし、あなたのファンじゃないので」

「じゃあ。虜にして あ げ る♡」

「いや、そんなこと頼んでいないから」

「今世紀最大のアイドルであるこのアイリーン様のライブを間近で見られる幸福を胸に抱きなさい!」

 そう言ってマイクを手にして、歌唱を始めるアイリーン。

 歌も踊りも上手だけど、心に引っかかるところもない。

 わたしが冷めているだけかもしれないけど。

 でもひいき目なしなわたしが見ていても、かなりのクオリティの高さだと思う。

 まあ、アイリーン自身が可愛いし、見ていて飽きないけど。

 こんな美少女がいるのが驚きだね。

 ワンフレーズを歌いきり、次のアップテンポに移るアイリーン。

 この歌声。なんだか懐かしく感じる。

 《フロンティア》の外で歌って踊っていたので、周りに人が集まりだしていた。

 路上ライブみたいになっている。

 でもこの子なんでこんなに寂しそうに歌うんだろ?

 アイドルならもっと可愛く、素敵で、キラキラしたものじゃないのかな?

 まあ、わたしの勝手なイメージだけど。

 さびもいいけど、歌詞もいい。

 胸に突き刺さるものがある。

 これは努力を重ねてきた人への思いだ。

 その者たちへの祝福だ。

 そんなことを思いつつ、路上ライブは終わる。

「どうよ!!」

「えーっと。まあ、いいんじゃない?」

 素っ気ない態度になるのはロビンくんがデレデレしていたせいだろう。

 あの顔を見ただけで腹が立つ。

「えー。このアイリーン様の曲を好きにならないの!?」

「だって男好きの良さそうな歌だったし? 女子の視点はなかったよね?」

「だって女子アイドルの狙い所は若い男性だし……」

 ぶーっと頬を膨らませて怒りを露わにするアイリーン。

「まあ、可愛いけどね」

「ふぇ? そ、そう?」

 満更でもない様子でこちらを見るアイリーン。

 自分で自分を可愛いと認識している人の目だった。

 でもなー。何か欠けている気がするんだよね。

「でもまあ、今度はあなたのペットショップを見せてもらいたいものね」

「ふふーん。いつでもいらっしゃいなー」

 気軽に言うけど、アイドルとの両立はどうしているのだろう。

 アイドルって忙しいイメージがあるのだけど?

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