第23話 魔王サタン!!

「実は――」

 わたしの殺した中に同級生がいたことを告げ、その憎しみを買い、死にそうになったと告げる。

「……そうか。ならばその殺そうとした同級生も殺さねばなるまいな」

「そんなことをしているからいつまで経っても戦乱が続くのです! 考え直してください。そして、わたしと一緒に動物をでましょう」

「愛でる? 我が、か? ククク……!」

 何がおかしいのか、サタンは哄笑する。

「あはは。面白い面白いぞ。小娘!」

 哀れむようにサタンを見つめる。

「あー。だが、お前には死んで欲しくないんだよ」

「わたしも、まだ死ねません。動物たちが待っています」

「立場をはき違えるなよ。小娘一人亡くなったところでたいした影響はない」

 冷たく言い放つサタン。

 だが、ここで負けてはいけない。

 わたしはわたしの理想を体現する。

 それまでは死ねない。

「アニマルセラピー。あなたも愛を知るべきです」

だと? ふざけたことを言うな。この世はすべて暴力で支配できる。そなたの力も同じだろう?」

「違います! わたしは無理矢理従わせたくない! 彼らの自由意志に任せるのです」

「だが、そうやって世界は平和になったのか?」

 サタンは重い腰を上げて、腰に携える剣の柄に手をかける。

「わたしは信じたい。みなの平和を望む心を」

「完全なる自由はモラルの欠如。所詮、バカ者どもは犯罪を、世界を壊す。負の感情に支配されて、ミスを犯す。ならば、最初から更地にしておけばいい」

「違います! 話し合えばきっとわかり合えます!」

「我一人、説得できないのに、か?」

「くっ……!」

「全ての人間に逆らう気すら起こさせない。その力を示す。その上で共に平和について考えよう?」

「それでは遅すぎます! 流さなくていい血が流れます!」

「彼らは自分勝手な考えで生きている。人類は心を変革させる必要がある。そのためには力で導くしかない!」

「暴力で人の心は変わりません。憎しみを生むだけです」

「なら、話し合いで解決できると、本気で思っているのか!?」

 声を荒げるサタン。

「はい……!」

 力強く頷くと、サタンは剣を鞘から引き抜く。

「だから、を知ってください! 動物たちに触れあえば、少しは変わります!」

《サタン。アリスが来ているんだって!?》

 現れたのはだいまおーくん。

《お気に入りのベッドに穴空いたのだ! 治してくれ!!》

「今、話していたところだ。だいまおー」

 サタンが苦渋の表情を浮かべる。

《サタンいい奴だぞ。いじめるな!》

《ごめんなさい。話し合っていたのです》

《そうなのか。良かった。一緒に仲良くなろう!!》

《ええ。わたしもそれがいいと思うわ》

《分かった……》

「え?」

「だが、人類すべてに希望を与えられるかな?」

 サタンは不適な笑みを浮かべる。

「はい。与えてみせますとも」

「……分かった。その覚悟があるのだな」

 覚悟。

 ロビンくんも言っていた。

 覚悟がある、と。

 覚悟があるかは分からないけど、でもこのままじゃいけないと思う。

 なら――。

「はい。わたしは生きて未来を作っていきます」

「……」

「過去から学び、今を生き、そして未来へとつなぐ――それがわたしの願いです」

「ふっ。分かったよ」

 剣を鞘に収めるサタン。

「俺も、焼きが回ったな……」

《だいまおー、少し待て。従者メイドを呼ぶ》

《分かったのだー》

 だいまおーくん。元気でやっていたんだ。

「で。どうすればいい?」

「サタン様はまずペットショップで遊んでもらいます」

「……なめているのか?」

「デモンストレーションです。パフォーマンスです」

「ああ。領民に示す。そこからか……」

「はい!」

「参ったね。こりゃ……」

 頭をガシガシと掻くサタン。

「分かった。着替えてすぐに行くから待て」

「分かりました」

 わたしは謁見の間から出てすぐそばにある待合室で待機する。

 一時間後。

 ノックの音が聞こえる。

「はい」

「すまんな。公務になるとそれなりの服が必要なんだ」

 先ほどのゴテゴテした衣装ではなく、動きやすく、それでいて品のある服装になっていた。

「行きましょう。サタン様」

 わたしとサタンは衛兵に誘われながら、外にある広場へ向かう。

 広場はすでに領民でいっぱいだったが、ロビンくん一人で対応しているらしい。

 わたしはサタン様を案内し始めると、領民が一斉に驚いたような顔を見せる。

 このような場に現れること自体、珍しいのだろう。

 そして領民は怯えていた。

 これで少しはイメージアップできるといいのだけど。

「ふ。嫌われているな」

「そうですね。今度からは好かれる努力をしましょう」

「好かれる。なるほどな。その考えはなかったよ……」

 サタンはまたも苦笑を浮かべる。

「俺の母は厳しい人で、生まれてすぐに暴力を振るってきたんだ」

 サタンは訥々とつとつと語り出す。

「今にして思えば、酷い家庭環境だったよ。父は仕事で忙しくしていたし、一緒にいる母は狂ったように宗教に邁進するし」

 ホーンラビットがサタンに甘えてくる。

「愛なんて教えてもらえなかった」

 その子を撫でると頬を緩めるサタン。

「だが、だいまおーと触れあって、よく分かった。人の心も、動物の心もきっと大事にしなくちゃいけないんだって」

 サタンはマグマドッグを優しく撫でる。

「俺、何をしていたんだろうな。親と同じ暴力か」

 自嘲気味に笑うサタン。

「本当は終わりにするべきだった。そうだろ? アリス」

「はい。そう思います。憎しみからは何も生まれません」

「生まれるさ。自己満足という名の自己肯定が」

「そ、それは……!」

「俺は一番最初に母を殺した。暴力と暴力でぶつかり合った。でも自己満足だけ得られた。でも、愛情はもらえなかった。愛とはなんだ?」

「お互いを慈しみ、大切にすること、だと思います」

 わたしは毅然として言う。

 彼にはこの方が合っているように思えた。

「そうか。その言葉をもっと早くに知りたかったよ……」

「……」

 言葉に詰まる。

 あまりにも重い。そして悲しい。

 だから、人を見下すようになっていたのだろう。

 見下しては何も見えないというのに。

 わかり合えれば、平和になるのに。

 誰もそれを選ぼうとしない。

 だから、彼は諦めてしまった。

 愛を届けるのを忘れてしまった。

 動物たちはそれができる。

 愛を伝えることが。

 みんなを幸せに、平和にすることが。

 そっか。

 わたし、流されてペットを好きになったんじゃなくて、もともと好きだったんだ。

 そしてペットと一緒にいるとき、幸せなんだ。

 だからペットショップの店員になった。

 そしてお母さんを手伝っている。

 それにいじめられてでも、続けられる。

 きっとこれが愛なんだ。

 そっとサタンを抱きしめる。

「もう。大丈夫です。サタン様」

「母の声で、言うな……」

 サタンが大粒の涙を流す。

 ポツポツと、地面に浸透していく。

 悲しみではない。辛いわけでもない。

 それでも涙は流れてくる。

 嬉しいから。

 救われたから。

「サタン様は頑張ったのです。がむしゃらに」

嗚呼ああ

「だから、もう少しお休みなさい」

「そうするよ。ありがとう、アリス」

「……魔王様、いくらなんでも平民のアリスさんをたぶらかさないで欲しい」

 ロビンくんが苛立った顔でこちらを見やる。

「ほう。貴様、この我に意見するとは、見上げた根性だな」

「アリスさんは僕の希望なんだ。そう簡単に籠絡ろうらくさせるものか!」

「ほう。このアリスを好いているのだな?」

「そうだ!」

「ククク。面白い。愛で我に意見するとは……!」

 ひとしきり笑うサタン。

「まあいい。アリスのことは今度の機会にしてやる。ロビンと言ったか? 貴様が案内しろ」

「お、おう!!」

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