第18話 移動ペットショップ!
移動ペットショップの二軒目。
近くにあるビジネス街。
そこには多くの建物が建ち並び、様々な魔導公社が賃貸契約で仕事をしている。
その地主はそうとう儲けているだろうなーと考えながら、ケージを用意する。
逃げる子もいないので、その中に動物たちを移動させるのは楽だった。
代わる代わる立ち寄ってくる大人たち。
「でもお世話が大変でしょう?」
とある女性が言う。
「そうですね。命ですから。でも、可愛いですよ?」
「それは分かるんだけどね……」
困ったようにうなる女性。
まあ、確かに仕事との両立はけっこう難しかったりする。
でも。
「この子はケージの中を一週間に一回、掃除してあげればいいだけです。食事も自動で補給できる、こちらの商品がオススメです」
時間になると、扉が開くタイプのご飯入れがあるのだ。
「なるほどねぇ。色々と進んでいるわけね」
女性客は感心したように呟く。
「なら、この子、もらっていこうかしら?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
わたしは契約書を持ち出し、ハウマッチドッグを女性客に引き渡す。
名前はミリアリア。
食事やおトイレなどの説明を終えたあと、
「ありがとうございました!」
お礼を言い、ぺこりとお辞儀をする。
得られた10万の金貨を財布につめて、ロビンくんとハイタッチする。
その間にも動物を見に来た男性を相手する。
隣でロビンくんがサポートしてくれる。
商売は順調に進んでいっている。
それにしても、意外と人通りが多いし、注目を集めている。
イベント会場を借りてしているのだけど、人が多い。
だから目に触れる機会が多いのだけど……。
動物たちにとってはけっこうなストレスになる。
ただでさえ、見知らぬ人と触れあうのだから。
《ぬおおお。汗臭い!》
ダークカメレオンは男性客に抱きしめられながらも、そんな声を叫ぶ。
「この子はなんて言っているんだい?」
男性客が困ったように曖昧な笑みを浮かべる。
「あー。ちょっとストレスが溜まっているみたいですね。少し休ませます」
そう言って男性客からダークカメレオンを返してもらい、ケージに戻す。
やっぱり動物のお世話って大変。
今日は客も多いし、早めに切り上げよう。
「ロビンくん。そろそろたたむ?」
「もうちょっと待ってください。そろそろ帰宅ラッシュと重なります。動物の魅力を伝えるなら、そこを活用しない手はありません」
「そっか。そうだよね。だね、ロビンくんの方が商売上手かも」
「褒めても何もでませんよ」
「頼りになる後輩ね♪」
「ぅう。あう」
なんだか様子のおかしいロビンくんだけど、気にしても答えは見つかりそうにない。
「さ。最後の一息、頑張ろう!」
わたしはロビンくんの背中を軽く叩く。
「そうですね」
しばらくするとロビンくんの言った通り帰宅ラッシュが始まり、多くの人が移動ペットショップに来てくれた。
みんなが笑顔で動物たちと触れあう。
そんな彼らを見ているのが微笑ましく、嬉しく感じる。
やっぱり動物には不思議な力がある。
人を癒やす力。
それは《ビーストテイマー》とは対極の力。
わたし、この能力を捨てたい。
もういらない。
だってこんなにも満足なんだもの。
辛いこともあったけど、今は幸せだから。
きっとそれでいいのかもしれない。
もう償えるだけの事はできないから。
罪を背負って生きていく。
それができるのはわたしだけなんだ。
誰かに引き渡したくても、できない。
これは一生わたしが背負わなくちゃいけないこと。
それがたまらなく辛い。
でも、誰にも言い訳できない。
できるはずがない。
「ほら。アリスさんも少し休んで」
ロビンくんが水筒を渡してくる。
優しいな。
帰宅ラッシュが終わったんか、客が引いていく。
その間に休みを設けてくれたみたい。
「うん。ありがと」
そう言ってわたしは椅子に座り、水分補給する。
それにしてもロビンくんも働き詰めで休ませないと。
「そろそろ交代ね」
「大丈夫ですよ?」
「いいから。先輩命令です」
「はい」
ロビンくんは渋々と言った様子で椅子に座る。
「もうさすがアリスさんです」
「え?」
「だって、こんなにも動物が好きなんだもの。うらやましいなー」
素のロビンくんを見た気がする。
あどけなく笑い、優しく声をかけてくれる。
そんな心の優しい子なんだと思う。
ロビンくん、いい子だな~。
つくづくそう思う。
優しくて、力持ちで、そして芯の通った男の子。
そんな印象がわたしの中にある。
いつからかな。
こんなにもロビンくんのことを見るようになったのは。
なんだか、恥ずかしいね。
視線を逸らし、動物たちに目を向ける。
と、ホーンラビットがいないことに気がつく。
「た、大変!! ロビンくん!! ホーンラビットがいない!?」
わたしは慌ててロビンくんに話しかける。
「ええと。ホーンラビットがいない?」
冷静なロビンくんは推理でもするかのように思案顔になる。
「二つ考えられます。一つは誰かが連れ去った。もう一つは自力で逃げ出した」
「ど、どうしよう……」
「落ち着いてください。ちょうど店をたたもうと思っていたところです。まずは他の子を幌に乗せましょう」
「う、うん」
わたしとロビンくんで他の動物たちを幌に乗せる。
「アリスさんは《ビーストテイマー》ですよね?」
「……それがなにか?」
嫌味に聞こえて、辛い。ぐちゃとトラウマに塩を塗られたような――。
「だったら、この子たちに頼んで空から探してもらいましょう」
そう言ってロビンくんはネットフクロウやカワグチインコ、サイコーオウムに指を指す。
「あー。そっか。分かった。やってみる」
わたしはビーストテイマーの能力を発揮し、動物たちと心を通わせる。
《捜索? やってやるわい》
《ふん。おれにできないことはない》
《
理解したトリたちは、四方に飛び回り、ホーンラビットを探しにかかる。
「じゃあ、次はマグマドッグの鼻を使いましょう。ホーンラビットの匂いは分かりますか?」
「うん。彼の下に敷いていたタオル。これなら匂いがついていると思う」
《この匂いを追いかけてほしいの。できる?》
わたしはマグマドッグに話しかける。
《へへい。おれっちに任せておきなよ! 泥船に乗ったつもりで》
それはちょっと不安かな。
《うん。ありがと》
《アリスちゃんのお願い、おれっち叶えてあげたいし!》
《ふふ。口がうまいね》
《へへ。じゃあ行くぜい!》
マグマドッグが歩きだすと、嬉しそうに尻尾を振る。
わたしはその後についていく。
ロビンくんはトリたちの帰りを待つことにしたらしい。
マグマドッグについていくと、隣町の繁華街にたどり着く。
こんなところに、連れ込むのはどういった気持ちなのだろう。
わたしはドンドンと不安になりながら追いかけていく。
ホーンラビットは額に角の生えたウサギみたいな子で、大人しく警戒心が低いことでも有名だ。
それにわたしが《これから会う人には優しくして》と言ってしまった。
だから客としてきた人には警戒心を解いている可能性だってある。
それに安らぐとすぐに眠る。
抱きかかえてお持ち帰り……なんてことも可能だと思う。
《こっちだ》
マグマドッグはそう言い、建物の一階に入っていく。
ええ。ここ廃墟だよ?
そう思ったけど、何があるか分からない。
どうしてこんなところに……。
ボロボロに崩れた外壁。傾いた床。ひび割れた柱。
こんなところに、なぜ?
わたしは不安に思いながらもマグマドッグについていく。
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