第7話 お風呂
ロビンくんがいつものようにアクアキャットに遊ばれている。
「こら。止めろって」
なんだか嬉しそう。
これだからペットは嫌いになれない。
大変なことも多いけど、アクアキャットは楽しそうにしている。それだけで元気がもらえる。
でも今日はサラちゃんの非番なのよね。
ロビンくん、ごめん。
心の中で謝ると、わたしも食事の用意を始める。
「今日、なにか静かだと思えば、サラさんがいないのですね」
ああ。やっぱり寂しいよね。ごめんね。
「うん。やっぱりいた方がいいよね?」
「へ……。ああ。まあ……」
困ったように頬を掻くロビンくん。
どうしたのだろう? 即答じゃないんだなんて。
「今日はわたしと二人だけだから忙しいよ」
「はい! 大丈夫です。むしろ望むところです!」
望むところ? 何が?
「じゃあ、デビルスネークとハイスピノサウルスと、あとアクアキャットの食事の用意よろしくね!」
「はい! よろこんで!」
なんだか急にテンションが上がった気がするけど、大丈夫だよね?
しばらくして動物たちのうんちの世話をする。
下世話な話しかもしれないけど、ペットを飼う上で一二を争うほど面倒なのがそれだ。
彼らはところ構わずするものも多い。
ネコやイヌのように頭のいい動物ばかりじゃない。
むしろ覚えてくれない方が多い。
掃除をしてぬれタオルで拭いてあげたりする。
そして商品としておいている以上、身体の匂いも消さなくちゃいけない。一二を争う中の二つ目がお風呂である。
動物によっては拒絶するものも多い。
もともと水浴びをする習性があればさほど暴れないが、習性がなければ暴れる。
一応、《ビーストテイマー》の能力を使えば会話はできるけど。
でも、それを使っても彼らはすぐに忘れる。
動物ようの、天然由来のシャンプーを使って、身体を洗う。
そのとき、わたしは水着を着る。
フリルのついた可愛らしい水着だ。
そしてロビンくんも一緒に水着を着て、洗う。
「こら、アクアキャット。大人しくして」
ネコ科の動物は水を嫌うことが多い。
ちなみにロビンくんに懐いているけど、理由は分からない。
アクアキャットに聞いても話を逸らされるのだ。
汗腺から水を吹き出す特性のあるアクアキャットは、湿気の多い地帯に住んでいる。水を出すことで匂いを消したり、寄生虫を流したりしている。その代わり、大量の水を飲むので、給水器が必要になってくる。
お風呂も嫌いじゃないから、ロビンくんは手慣れた様子で洗っている。
アクアキャット可愛いんだけど、なぜかわたしは相手にしてくれないのよね。
ロビンくんをとっちゃうとでも思われているのかな?
それはないって。
それよりも真剣に仕事しなくちゃ!
わたしはデビルスネークの身体をぬれタオルで撫でてあげる。
《嬢ちゃん、ありがと》
《いえいえ。どういたしまして》
そんなやりとりをして、動物たちとお話をする。
可愛い子が多いけど、だいまおーのようなやんちゃな子も多い。
《おおー。水だぁ!》
ごくごくと水を飲み始めるだいまおー。
《うまい。うまいぞー!》
《それが飲み終わったら、身体洗うからね?》
《おお。かゆいのだ!》
水を飲み終えただいまおーは素直に身体を洗わせてくれる。
ポイントは動物たちが乗り気になったときだ。その時を見逃してはいけない。
うまくやれば動物たちも嫌がらずに洗わせてもらえる。
「アリスさん。そのシャンプーとってください」
「ん。これ?」
「はい」
手を伸ばしてシャンプーボトルを差し出す。
それを受け取るロビンくん。
「ありがとうございます」
「ふふ。ロビンくん、鼻に泡ついているよ」
わたしがタオルで拭うと、顔を赤らめるロビンくん。
「あ、ありがとうございます」
照れているように顔を逸らす。
「可愛いなぁ♪」
テンションが上がっているわたしはどうやら変なことを口走ったらしい。
「ん」
ロビンくんは聞きそびれたのか、それともなんて言えばいいのか、分からない様子だ。
これじゃあ、サラちゃんに申し訳が立たないよ。
しばらく無言のまま作業をするわたしとロビンくん。
もう。もう、もう! なんなのよ。この空気。
なんだか沈黙が嫌いじゃない。
そんな感じがする。
洗うのを終えると、今度は乾かさなくちゃいけない。
ペット用のドライヤーで吹き付けると、苦手な子もいる。
だからお菓子やオモチャで釣って、それでも無理ならケージの中にいれる。
これでも動物のことを思っての行動。
いくら《ビーストテイマー》の能力があるからと言って、言葉が通じないこともある。
乾燥させていると、水着の彼も手伝ってくれる。
「それ、新しい水着?」
「はい。似合っていますか?」
「似合っている似合っている」
「なんだか投げやりだなぁ」
がっかりするロビンくん。
「そう言われると、アリスさんも新しくないですか? 可愛い」
「かっ。女の子にそう簡単に『可愛い』って言っちゃだめ」
それはサラちゃんに言いなさい。
「そうなのですか? 女の子はすぐに可愛いって言うのに」
「自分で言うのはいいけど、他人に言われるのは……」
「あー。自分が両親とかをひどく言うのはいいけど、他人はダメ、みたいな?」
「うーん。ちょっと違うけどね」
男の子に可愛いと言われると勘違いするよ。
それにしても……。
「ロビンくん、けっこう鍛えているんだね」
「はい。隠れマッチョです」
「ははは何それ!」
マッチョのしそうなポーズをとるロビンくん。
それがなんだか可笑しくてつい笑いを浮かべる。
「これなんてどうです?」
よく分からないポーズをとるロビンくん。
「仕事しろ」
「「はい」」
お母さんに怒られて、わたしたちはドライヤーを手にする。
動物たちも不満げに見える。
「ま、綺麗になりましたね。香りもいい」
「本当だね。これで当分はもつかな?」
表ブースに動物たちを移動させる。
今日もお客さんはこない。
と思っていたら、
「こんにちは!」
お客さんが来た。
見た目は綺麗なお姉さん。ちょっと色っぽい。
なんのお仕事している人だろう。モデルさんかな?
そう思えるほどには端正な顔立ちをしているし、衣服が似合っている。
「こちらは珍しい動物を扱っているとお聞きしたのですが……」
「いろんな動物を扱っていますが、国の許可が必要な子もいます。気をつけてくださいね」
「はい。分かりました」
「どんな子をお探しですか?」
「ええっと。懐いてくれて、ときおり甘えてくれる子。できれば哺乳類がいいわね。前はワンちゃんを飼っていたので、近い子が欲しいです」
「そうなると、今はアクアキャットくらいしかいませんが……」
ロビンくんのお気に入りなんだよね。
「まあ。アクアキャットがいらっしゃるのですね! わたくし、ネコも好きなのです!」
「ちなみに予算は?」
「5000まで大丈夫よ」
「分かりました。必要になってくる備品や食事などがあるので、よく考えてから購入するようにしています。二三日後にまた来店してください。それまでに準備します」
「あら。そんなことしなくていいのに」
不満げに呟くお客さん。
「わたくしには実績があるというのに」
「大丈夫です。またすぐに会えますよ」
わたしはケージに入ったアクアキャットを見せて言う。
「決めたわ。お金は?」
「900エメラルドになります」
「まあ、安い!」
命は平等という人がいるけど、それはまやかしだ。
実際には命の取引をするのがペットショップ。
お金で動物を売り買いする職業だ。
決して褒められた仕事ではない。
それでもペットに魅力を感じるのは人間のエゴだろうか?
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