第6話
僕みたいなカースト最下位みたいな奴の扱いが酷いのは何処の世界に行っても同じなんだけど、それで僕のバディが嫌な思いをするようになっちゃったら、それはまずいって事になるよね。
「あのさ、今までソロだって事で散々馬鹿にしてきたけどさ、僕もこれでバディが見つかったって事だよね?」
イケてるグループ所属のミサに僕は銃口を向けられたまま笑顔を浮かべる。
「だからさ、そこは尊重してくれないと」
「なんでお前みたいなクズを尊重しないといけねえんだよ?」
僕の首元に巨大な斧の刃先が向けられる。
イケてるグループ所属のトウマが殺気だった瞳で僕を見下ろしてくる。
「今すぐここで殺してやってもいいんだぞ?」
「トウマ、やめろ」
こちらの方へ歩いて来たのは荒幡健太で、リーダー的存在のヤツなんだ。
背が高くて、野球をやっているから体付きもしっかりしているんだよな。顔は言うまでもなく男まえ、韓流アイドルって感じの顔立ちだ。
健太は僕と、僕のバディとなった女の子を見ると、
「ハハハッ!まさか灰色が現れるとは思わなかったな!」
と、嬉しそうに目を細めながら言い出した。
「それじゃあ、バディも現れたし俺たちと狩をするって事になるわけか?」
「まさか!」
冗談じゃない、モブの僕が煌めきヒーローズに入れるわけがないよ。
「彼女は新人だし、僕はまだまだ雑魚担当を続けるつもりだよ」
「でしょうね」
「だろうな」
ミナとトウマが蔑んだ目で見てくるのは何故だろう?
「まあ、とにかく、今日はこれで終わりそう?」
遠くで『ほろび』が最後の雄叫びを上げている。
全てを殺し終わったら、元の世界に戻れる仕組みになっているんだ。
今日は野球場にほろびが現れた所為で、何人か死んでしまったけれど、そんな日もあるから仕方ない。
「ねえ・・ちょっと!どういう事なの!意味がわからないんだけど!」
僕のバディが、瞳に不安と怒りを混ぜ合わせながら僕を見上げくる。
「説明する時間がどうやらないみたいんなんだけど・・・」
空を見上げると、うっすらと空が白み始めていた。
目が覚めたらベッドの中だ。
そうするとやっぱり、これはただの夢なんだって思いたくなるのは仕方がない事だよね。
「はあーーーーっ」
大きな溜息を吐き出すと、とりあえず布団から抜け出す事に決めた。
僕の部屋は2階にあるんだけど、制服に着替えて1階の洗面所で顔を洗うと、弟の颯太が飛び込んで来て声をかけてきた。
「お兄ちゃん!おはよう!」
颯太は小学4年生で僕は中学2年生、うちは男二人兄弟っていう事になる。
洗面所からキッチンに移動すると、パンを焼いていたお母さんが、
「おはよう」
と、声をかけてきた。
ちなみに、お母さんが一日のうちに僕に声をかけて来るのは『おはよう』『おかえり』『宿題やった?』の3つだけだ。
「お母さん!おはよう!」
弟の颯太がお母さんに笑顔を向けると、くるりと振り返った母親が満面の笑みを浮かべて言い出した。
「颯太!おはよう!ぐっすり眠れた?」
態度の差が歴然なのは、母の中でのメインキャラが颯太であって、僕がしがないモブキャラだからだ。
モブの僕はさっさとチーズとハムがのったパンを食べて、牛乳をごくごくと音をたてて飲み干すと、
「ごちそうさま!」
と言って立ち上がる。
「ええええっ!お兄ちゃん早すぎる!」
颯太が不服そうな声をあげたけど、構っていられない。
「颯太はゆっくり良く噛んで食べなさい」
お母さんの甘ったるい声が僕に向く事は、絶対にない。
僕の家のメインキャラは颯太となるため、お父さんとお母さんがモブである僕に深く関わる事はない。
この世の中はメインキャラ、サブキャラ、モブキャラの三種類に分けられるんじゃないかと思うんだけど、僕は学校に行ってもモブキャラだ。
まほろびの世界でもリーダー的存在となる健太は、実は小学校からの同級生。
家も近いって事になるんだけど、もちろん彼と個人的に遊んだことはない。
僕よりも早い時期にあちらの世界へと強制移動させられるようになったらしく、その事で何度か話し合った事もあったけど、今では教室でも声なんかかけて来ない。クラスのライングループにも入れてくれない。
どうやら健太は僕の事が好きじゃないみたいなんだな。
まあ、どうでもいいけど。
そんな訳で、学校でもボッチな僕は、黙々と午前の授業を受けて、黙々と給食を食べて、黙々と午後の授業を受けて、放課後は帰宅部なので、そのまま帰宅・・はせずに、駅前の方へと移動をした。
学校まえの坂道を下りきったところにある信号を左にまがり、そのまま進んで行けば駅前大通りへと出る。この通りを左折して少し歩けば万穂病院の前に出る。
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