第5話

 私、星野陽奈は赤ちゃんの時から子供タレント事務所に所属をして、子供服売り場のチラシに出たり、赤ちゃん用品のチラシに出たりしていたわけ。


 小学生に上がってアイドルを本格的に目指す事になって、いわゆる地下アイドル的活動を何年かしたんだけど、売れるでもなく、注目を浴びるでもなく。


 みんなに注目してもらうためにって事で、まずは撮影会っていうものに参加するようになったんだけど、体操着姿や水着姿を知らない男の人達に写真で撮ってもらう事に違和感を感じたの。


 ある時、川遊びをする所を撮影するっていう事で、お母さんと撮影場所まで移動する事になったんだけど、水鉄砲を持つのはおじさんたちで、私は水を散々かけられたの。おかしいよね?


 そうしておじさんの一人が、

「ヒナちゃん可愛いね!おじさんの今の一番の推しはヒナちゃん意外ありえないよ!」

と言って、私を自分の膝の上に乗せてきたの。お父さんやおじいちゃんの膝の上に乗るのは分かるけど、なんでおじさんのお膝の上に座らなくちゃいけないの?


 お母さんはニコニコしているだけで答えてくれないけど、私は何で、こんな思いをしなくちゃいけないの?


 中学生になってからは、とにかく色々嫌になっちゃって、お風呂場で発作的にカミソリを掴んだんだよね。


 それで、たぶん病院に運ばれたんだと思うんだけど、気が付いたらこの世界。

 何処かの街の中みたいで、夜だから街灯の光が煌々と周囲を照らし出している感じ。何処かの住宅街に居るのは分かるんだけど、そこが何処なのかはわからない。


 野球場の方でアナウンスしているみたいで、ライトで照らし出された野球場の中へと進んでいくと、私と同じように全身真っ黒の衣服を着ている人たちが集まっている事に気がついたの。


「とにかく、ここではバディをまず組んでもらう!今すぐ胸の周りの色と同色の者か、対応色の者と二人一組になるように!」


 演壇に立つピエロがメガホン片手に大声を上げているんだけど、そこで、まさかな〜と思ったのよね。


 最近、SNS上でも話題になっている『まほろびの世界』というところでは、夜な夜な、真っ黒い何かと戦い続けるとか何とかで、特に自殺経験者はその場所に行きやすいとか何とかで、そこで戦って死んだら現実世界でも死ぬとか何とか?

 厨二の奴らが作り出した妄想がバズっただけだと思っていたんだけど・・・


「ねえ!君可愛いね!良かったら俺とバディを組まない?」

「はい?」


 肩を叩かれたので振り返ると、背も高く、そこそこ顔立ちも整った男が私を見下ろしながら笑顔を浮かべていたんだけど、

「ああ、残念、灰色かよ」

と言って、すぐさま顔を顰めたのだった。


 男の胸の穴の周り色は青、私は灰色。

「灰色じゃバディ見つけるの絶望的じゃね?かわいそ!」

 途端に興味がない感じで、他の女の子に声をかけに行ってしまったんだけど、

「どういうこと?」

と、一人でつぶやいちゃったわよ。


 確かに、青とか橙とか、緑とかピンクとか、紫とか白とか色々と居るんだけど、灰色って本当にいないのよ。

 周りがどんどんペアを組んでいく中で、私だけがどんどん取り残されていく。


 どうやら厨二の妄想そのままに、巨大な化物を倒しに行くって事になるみたいだけど、一人で立ち向かうとか無理じゃない?


「嘘!嘘でしょ〜!灰色なんていないじゃん!何処にもいないのに、バディを組めとか無理じゃない!冗談やめてよ〜!」


私がピッチャーマウンドで地団駄を踏みながら大声を上げていると、一人の男子が近づいて来たのよ。そうしてその男子、おそらく同じ年齢だとは思うんだけど・・・


「大丈夫だよ!一応、ソロで2年、ここで生存しているから、このレベルだったら大丈夫だから!」


胸の穴の周りが灰色のその男は、長い刀を手のひらの中から取り出すと、あっという間に、足太真っ黒化け物の体を真っ二つに切り裂いてしまったのだった。


 真っ黒のTシャツに黒のジーンズ姿の男子なんだけど、化け物から飛び散る漆黒の飛沫を浴びながら刀みたいなものを肩に担ぐと、そのまま、見上げる高さの化け物の方へと走り出す。


 化け物の方も迫ってくる刀男の姿には気がついている様子で、頭上に振り上げた巨大な手を地面に向けて振り下ろす。土煙が上がる中、刀男が潰されたのかどうかが分からない。


「怖い・・怖い・・怖い・・怖い・・・」


 座り込んだまま震え上がっていると、後ろからツンツンされたのよ。

 振り返ってみれば、真っ黒い塊の化け物が私の後ろに居て、

「キャーーーーーーーーーーッ!」

私の叫び声と共に、化け物が一瞬固まった後に、後方へとひっくり返る。


 ひっくり返った化け物を踏みつけにして、手に持っていた拳銃の銃弾を撃ち込んでいくのはポニーテールの女の子で、

「大丈夫だった?」

と、優しく声をかけてくれたの。


 胸の周りは橙、残念!灰色じゃないのね!


「灰色!雑魚相手に手間取ってんじゃないよ!」

 ポニーテール女子が土煙の中へ向かって大声を上げる。


「てめえがきちんとしねえから、何人か新人が死んでんじゃねえかよ!この愚図!」


 ポニーテール女子は、勝気な瞳の可愛らしい子なんだけど、刀男への塩が凄すぎる。


「いやあ、そんな事言ったって、丘を登るのを止めてくれないからこうなっているわけで」


 土煙の中から現れた刀男は黒い飛沫だらけ、どうやら化物は仕留めたみたいだけど、見た目がグロテスク過ぎるので、野球場に残った人たちがドン引きしているのが良くわかる。


「大物はうちらがやるから小物はお前みたいなソロの役目だって言ってんじゃん?その小物を逃して被害出して、それで反省の色がないとはどういう事なんだ?」


 ポニーテールに銃口を向けられた刀男は、それでもニコニコ笑いながら、

「ねえ!見てよ!そこの子!なんと灰色なんだよ!」

と、私の方を見ながら言い出したのだった。

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