第4話

「どういうこと?生存率ってどういう事なわけ?」

「あーー・・君、まさかだけど『まほろびの世界』について知らない人だった?」

「え?まほろびって?ネットで話題の?」

「そうそう・・」


 市営野球場の周囲は小さな森に囲まれているんだけど、その森の木々が踏み潰され、大木の何本かは引っこ抜かれた状態で、漆黒の夜の空を飛んでいく。


「グォオオオオオオオオオッ」


 大概、一晩に『ほろび』は5体ほど現れるんだけど、今日はそのうちの一体が丘を登ってこちらの方までやって来たらしい。


「キャーーーーーーッ」

 僕のバディが隣で尻餅をついた。驚いて呆然と『ほろび』を見上げていた新人が、大きな手に掴まれて口の中へと放り込まれたからだ。


 全身真っ黒で、目だけが白くてギラギラ光っているほろびがネチャネチャと音を立てながら咀嚼をすると、その口の端から一本の足が飛び出してくる。

「わあああああ!」

 その近くに居た新人が、腰が抜けた様子で這いつくばると、森の中から飛んできたほろびによって勢い良く踏み潰される。


 踏み潰したほろびが2メートル級、もぐもぐ咀嚼しているほろびが4メートル級。

 今日は、新人潰しで野球場にほろびが訪れるほど出現数が多いみたいだ。


「助けてーーー!」


木に登って逃げた奴が4メートルのほろびの手の中へと握りこまれ、血で濡れた口元へと運ばれていく。


「嘘でしょう!嘘でしょう!嘘でしょう!死にたくない!死にたくない!死にたくない!私は死にたくない!」


 僕の足元でへたり込んだバディが、涙を流しながら絶望の声を上げている。


 この世界は、かつて、自らの命を断とうとした人間が送り込まれてくる精神世界。

 足元で座り込んでる子みたいに『死にたくない!』って考えてもらうために作られたプログラムなんじゃないのかなと過去、考えたこともあるんだけど、そういう訳じゃないみたいなんだ。


「助けて!助けて!」


 木に登っている所を捕まえられた新人が『ほろび』の口の中へと放り込まれていく。

 心底嬉しそうに食べるんだけど、こいつら本当になんなんだろうな。


 この化物の存在意義が今もって僕にはわからないんだけど、兎にも角にも、ここで死んだら現実世界でも死ぬから、何とかしないといけないわけで、足の腿の筋肉が嫌に発達した形のほろびがこちらの方へとジャンプして近づいてきたものだから、

「いやあああああああああ!」

僕のバディはとにかくうるさい。


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