第3話

「ええ〜?私とバディを組みたいですって〜?」


 ピッチャーマウンドで地団駄を踏んでいた女の子に声をかけると、女の子は僕を一瞥するなり不満の声を上げた。


「こういう時には完全に見た目モブじゃなくて、ヒーロー扱いのイケメンが声をかけてくるものじゃないの〜?」


「うーん、ごめん、僕も自分がキャラクター的には完全にモブ扱いになるなっていうのは分かっているんだけど、今いるこの『まほろびの世界』では灰色は僕だけだから、君がバディを組むのなら僕しかいないって事になるんだよ」


 僕の胸の穴の周りは灰色で、彼女の胸の穴の周りも灰色だ。

 僕はこの世界に来るようになってから、始めて同色に出会った事になる。


「嘘ついているとかじゃないよね?」

「嘘はついてないよ、僕はこの世界に来るようになって二年になるけど、灰色は君が始めて」

「ええええ!嘘でしょう!」


 女の子は自分の胸と僕の胸とを交互に見ると、その色が同色であるのを確認して怪訝な表情を浮かべた。


「まさか、私が可愛いから付き纏いたくなって、わざわざ胸の周りの色を塗り替えて来たとか?そういう事じゃないよね?」

「いや、色は変えられないんだよ」


 精神の特性を表しているって事だから、色は変えられない。

 ここは精神世界の中だから、イメージで色々な事が出来たとしても、胸の周りの色だけは変えられないのだ。


「私が可愛いからって声をかけてきても」

「そういうんじゃないから」


 確かに、彼女は可愛いらしい顔をしているかもしれない。

 クラスにいればたちまち人気者になれそう。

 二重で目がぱっちりと大きく、少しだけ目尻が吊り上がっているから猫っぽくも見えるし、すっとした鼻の下にあるふっくらとした唇は、熟れたさくらんぼのような色で魅惑的だ。

   

茶褐色のボブショートの髪は、あえてなのか、毛先がクルンとなっていて、可愛らしさを増長させているようにも見えた。


 この世界の僕らは、黒い全身タイツみたいなものに包み込まれているんだけど、これもイメージ次第で形を変えられる。

 僕は真っ黒のジーンズに真っ黒のTシャツ姿なんだけど、彼女は、まるでアイドルの衣装のような服装に変化している。

 短すぎるスカートの下から伸びる脚は、ほっそりとして長い。まさに、メインキャラ、言うなればヒロイン、みたいな感じの子だな。


「僕みたいなモブがさ、君みたいな陽キャな感じの子に率先して声をかけに行くように見える?」


 女の子はジロジロと僕を眺めながら言い出した。

「見えない、どっちかっていうと、影からこそこそ付き纏うストーカータイプ?」

 酷いことを言うな。


「とりあえずストーカーじゃないんだけど、ようやっと見つけた同色だから声をかけてみたんだよ。それは何故かというと、バディを組んだ方が生存率が高くなるからなんだけど」

「生存率?」

 女の子は怪訝な表情を浮かべた。


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