第2話

「お前ら行くぞ!」


 でっかい武器を抱えて屋根の上を飛び移り『ほろび』にむかって移動を始めたのが、バディを組んだイケイケキャラの人達だ。


 精神世界でもある『まほろびの世界』へと送り込まれた僕らは、首まで覆う分厚い全身タイツみたいな黒いものを着用している。これは自分のイメージ次第で、色々と形を変える事ができるみたいだ。


この世界に移動してきた僕らの一番の特徴は、胸の部分がくりぬかれたように穴が空いている事だろうか。

その穴のまわりは赤、青、橙、緑、ピンク・紫、白・黒・灰色と様々な色で縁取られており、その色はその人の精神の特徴を表しているらしい。


 化物と戦うだけに、二人一組となって戦うことが推奨されるんだけど、お互いバディを組むためには、胸の穴まわりの色が重要になってくる。


 例えば、胸の穴の周りが赤(情熱的・行動力あり)だったら、バディを組む相手は同色か青(冷静・沈着)という事になる。

もしも橙(元気・お調子者)だったら相手は緑(おだやか・平和主義)、ピンク(華やか・優しい)だったら相手は紫(ミステリアス)、白(清廉潔白・理想が高い)だったら相手は黒(気難し屋・頑固)というように、8色だったら二組に分かれる事になるんだけど、灰色(あいまい)の場合だけ、バディを組むのは同色だけっていう風に決まっているそうなんだ。


 ちなみに僕の胸の周りの色は灰色、今まで同色の奴に出会ったことがない。


この世界で生き残る為には二人行動が必要最低限だっていうのに、いまだにバディを見付けられない僕は、ここでもやっぱり、運のない孤独なモブキャラ扱いという事になるんだろう。


「「新人はここに集まれ!死にたくなければここに集まるんだ!」」


 今日も、市営野球場の方から拡声器を使った大きな声が響いている。

この世界には入って来た新人は右も左も分からないから、死なない為の色々な説明をしてもらう事になるわけだ。


 ここは精神世界となっているため、イメージで武器を作ることになる。

 例えば僕の場合なら、手を出してイメージをすると、手の中に水色の刀が握られた。

 幸いにも小学3年生まで剣道を習っていたから、武器をイメージすると、意外と簡単に刀が出て来たってわけ。まあ、イメージの世界だからねえ。


 ちなみに、イケてる人たちの武器は銃とか、長剣とか、バトルアックスとか、自分が好きなゲームで出てくる武器なんかを使っている事が多いらしい。

やっぱりイメージの世界だからね、普段から想像できるような物っていう所が重要になるみたい。


 真っ黒くて巨大な化物が『ほろび』で、小さめの化物を『ほむら』と呼ぶ。


敵も僕らも思念体で、敵は僕らを殺すためにやってくるし、僕らも奴らを殺さない事にはこの世界から解放されないわけだ。


 今居る世界は僕らが住んでいる街並みそのものだけど、結局は精神世界だから、色々と細かい齟齬があるらしい。


そして、もし、ここで死んでしまったら、実際の世界でも死ぬという事になる。


 とにかくこの世界で多い色は赤とか青とか緑とかかな、初めてこの世界にやって来た人間は、市民野球場でまずは自分のバディを探すことになるんだけど、


「嘘!嘘でしょ〜!灰色なんていないじゃん!何処にもいないのに、バディを組めとか無理じゃない!冗談やめてよ〜!」


僕の目に、ピッチャーマウンドの上で地団駄を踏んでいる一人の女の子の姿が入ってきたのだった。


 まほろびの世界は他にいくつも存在するらしいんだけど、僕らがいる世界は中学生が多いみたいだから、きっと彼女も同じ年齢くらいなのだろうな。


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