まほろびの歌 〜アイドル志望の君とモブの僕〜
もちづき 裕
第1話
「うぉおおおおおおおおおおおおん」
また街中にほろびの声が響き渡った。
夢の先に導かれた精神世界。
「うぉおおぉおおおぉおぉおぉおぉおおおおおん!」
3階建ほどの高さがある化け物は何もかも真っ黒で、体格も太かったり、細かったり、中肉中背にみえるものと様々いる。
肩を脱臼したように手がだらんとして長く、この世界にさまよいこんでいる僕らを捕まえてやろうと、純白の目をギラギラと輝かせている。
奴らはとにかく真っ黒で、口の中は真紅、目は白い。
化け物の名は『ほろび』といい、この世界の事を『まほろびの世界』というらしい。
僕は夜、眠っているとこの世界にやって来る。
この世界に来るようになったのは2年くらい前のことで、その時には、僕と同じクラスの荒幡健太も『まほろびの世界』へと来ていたらしい。
僕にとっては明らかに夢の中の話なんだけど、どう考えても、健太と僕が見た夢は全く同じだから、
「なんで同じ夢を見ているんだろう・・・」
と、尋ねると、
「お前、この事は親とか先生とかには言わない方がいいぞ」
と、健太が言い出したのだった。
「お前さ、自殺未遂したことがあるだろう?」
「・・・・・」
「実は俺もあるんだ」
僕は健太の言葉に驚いた。
「なんか色々と嫌になっちゃって、塾からの帰りに車に自分から突っ込もうとしたんだよね」
健太の場合は車にはぶつからず、自転車でそのまま崖とも言えるような急斜面を落っこちていって、足の骨を折って一ヶ月ほど入院となったらしい。
「その間に、チップを入れられたみたいでさ」
いつもは髪の毛に隠れてよく分からないんだけど、と言って、額よりも5センチほど上の部分に触れている。
「お前も同じ場所にあるだろう?多分、入院中に入れられたんだろうな」
確かに、僕の額から上の部分の皮膚の下に、小さな硬い何かが指先に触れた。
「これがある所為で、俺たちは夜に寝るとあの世界に行く事になるわけだ」
僕の家は万穂山と呼ばれる小さな山を切り崩して宅地開発した住宅街にあるので、坂の上に規則正しく並ぶような形で家が連なっている。
だから、平地にある駅前通りは自分の家から眺める事が出来るんだけど、舞台は毎回、駅前から万穂タウンまで続く一帯で、特撮映画っていうのかな?ヒーローと宇宙人が戦う舞台をうちの街で再現しました的な?そんな感じで、僕らは毎回『ほろび』相手に戦わなければならない事になる。
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