第29話 機関士募集中
―――まぁ、まさか逃げた奴が風呂に入ってるなんて思わないかッ……
もう一度言って置くが此処は戦艦の中である。場所は居住区の下の商業区の更に下の階にある、広大な敷地に人工的に木々が植樹された、緑豊かな森林公園と呼ばれる自然環境園の端に造られていた。
遥かに高い天井には人工太陽が日差しを創り出し、植物を育成させる条件を整えている。時間により昼夜を迎え、太陽系惑星の環境に近い条件に
―――自然環境が豊と言えば……
環境が破壊され砂漠化が進む惑星が多い中で、緑豊かだった太陽系惑星の研究が盛んに行われているとAIから学んだ事を思い出した。
あらゆる方面で機械化が進む一方で砂漠の砂は機械にとって脅威となると言うことなのだろう。自然を犠牲にし、先人達の教えを放棄し、環境を壊してまで手に入れた機械化促進の波は、結果、惑星全体の砂漠化を生んでしまう事となった。
―――何とも皮肉なもんだ……
そんな事を考えながら湯に浸かり湯煙を仰いで居ると、本当に幼女なのかと思うほどに育ちの良い双丘がミューの目の前で嫌味に揺れた。
「 ―――チッ」
「ねぇ? ノンって言ったっけッ? アンタみたいな小さい子がこの戦艦で何やってんのよ? 親が軍人なの? 」
「小さい子ぢゃないのです。猫人種ゎ元々小さいから幼く見えちゃうです。ノンゎ大人なのですよっ」
たわわに実る双丘を両手で持ち上げ、まるで
―――こんッ ガキャァ……
「そッそうですか…… それは失礼…… 」
「ノンゎ探検してたのです。探検家になるのですっ」
「へぇ、探検家ねぇ。でも腰にいっぱい提げてた工具は? 」
目の前をカエルがゲコゲコ泳いでゆく……
(顔が同じだからさっきのヤツとの判別がつかない)
―――まさか追って来たのッ?……
(イヤイヤ。んな訳ねぇ~かッ 色味が若干違うし)
「こう見えて機関士なのです。凄いのです‼ 整備しかやらせて貰えないけどっ」
耳がドヤァとピンと立ったり、ショボンと下がったり忙しい子猫ちゃんだ。
「機関士が探検家だっけ?に、なりたいなんて変わってるわね」
「でも、師匠のじいじがうるさいのですっ だから逃げ出してやったのですっ」
「あらら。じゃあ今頃師匠は困ってるんじゃないの? 早く戻った方がいいと思うけどッ」
茹で上がったカエルが腹を見せて流れて行く……
―――アレって助けた方がいいの? ねぇ誰か早く教えて……
此処で何故かミューの頭の中で何かが閃いた。
「じゃあさッ アタシの船で冒険に出ない? 探検したいんでしょう? アタシの船の修理を手伝ってくれたら色々な所に連れてってあげるわよ? 何なら機関士募集中だし」
排水溝にゴゴゴと詰まるカエルをムンズと引っ張り出すと、ポイと投げ捨てる。カエルは景気よくボヨンボヨンと弾む度にゲロッゲロッと鳴きながら脱衣所に消えてった。
「気になって話になんねぇんだよッ」
「気になるのですっ その話、気になるのですっ」
ザバーと勢いよくノンが立ち上がると、嫌味な双丘が揺れる。ギリリと悔しさを飲み込むと、程よく大人の笑みを溢し続けた。
「探検家ってのは何なのか良く分んないけどッ アタシは船も持ってるし、これから
探検家なんて言う職業については学んだ記憶が無い。職業なんて概念自体がキッチリと明確に定義されている訳ではないこの世界に於いて、遺跡巡りの基本となる職業は次の様に学んだ。共に共通なのは金さえ積めば雇える事が出来るという事だ。
【
【運び屋】(逃がし屋とも呼ばれる)宇宙機持ちで、何でも運ぶ
【始末屋】(殺し屋)金で雇われ主に要人等の暗殺を生業とする
【傭兵】戦士、剣士、
【
【ジャンク屋】盗品や不用品を修理して低価格で販売する
【噂屋】(情報屋)僧侶が多い
【
【
【
【冒険者】考古学者
【
【
【
※現在荷物持ちは四つ足のアンドロイドが主流だがレンタル代が高い。
「
ノンの瞳が輝きを増す。
「大体合ってるけどッ 墓荒らしって言わないで
「かっくいいのですっ」
「実は此処に来る少し前にちょっとした遺跡を偶然見つけて
「凄いのですっ。遺跡なんて見たこともないのですっ。ワクワクなのですっ」
「どう? 専属の機関士になってくれたらお給料も払うし、アンタの言う探険だって出来るわよ? 因みに機関士としての経験はどの位なの? 」
「中型機の機関士やってたのですっ じいじにも負けないのですっ」
「アタシの船は
「任せるのですっ」
―――全部修理しなきゃならない事は黙っておくか……
「じゃあ決まりね。そうと決まればコノ戦艦から脱出するわよ」
「えっ⁉ 脱出ってなんですかっ? 」
「うん。アタシ今、此処の戦艦の連中に追われてる身だから」
「えぇ―――――⁉ 」
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