第28話 におうのですっ

 その頃ガレオは、砕け散ったアンドロイドの残骸を足元に見詰め顎に掌を添えて考えにふけっていた。その元に狼人種ワーウルフの部下達が集まると、慌てた様子で報告を急いだ。


「ガレオ様。ご報告が御座います。コレより上階の居住区にて清掃車が故障しておりまして」


「清掃車? 」


「はい。その故障の原因が何かしらの布を清掃中に巻き込んだ事によるものらしく、その布と言うのが女神様のお召し物と酷似しているとの報告でして」


「成る程。それでは急いで向かいましょう。何としても犬人種カオン達よりも先に女神様を保護しなければなりませんね。警備員も増員して下さい。犬人種カオン達が邪魔をするようであれば船を傷付けない程度に戦闘も許可します」


「はっ――― 」


「それとミュー様が女神様である事を他の者達に知られては大騒ぎになります。あくまで迷子の少女の捜索と称して各階の警備へ伝達を。それとお召し物が見つかったのであればミュー様の事ですから、またきっと全裸でしょう。ですからその旨も伝えて捜索するように伝えて下さい」


「畏まりました」






 ゴミの山から見つけ出したぎだらけの生臭いボロボロのフード付きのコートを着込み、浮遊する球体の警備ロボにまたがながら、ふよふよと広大なゴミの集積場内を進んでいる。球体の裏側には何故か、先程確かに非常階段付近で投げ飛ばしたはずのカエル清掃員A君が張り付いている。


「ゲイコ デゲーコ デ メッコ ゲレーロ 」


 蝙蝠こうもり達と暴れまわる最中に1体だけ警備ロボを捕縛した。それが今股がって居る球体である。カエル清掃員A君は頭をゴミ山に突っ込んだ状態で発見したが、面倒そうだったので救助を拒否し、ふよふよと通過してやり過ごそうとした時に、待ってましたとばかりに球体の底に張り付いてきた。


「ノロノロすんなッ 出口まで早く案内しなさいよぶっ壊すわよ」

 

 跨いだ警備ロボを素手でガンガン叩きながら急かす。


「最大出力デス。重量オーバーでコレガ限界デス」


「ゲレッコ レロレロバ~ 」


「オメーが張り付いてきたからじゃねーかッ 降りろコラ」


 短い脚で何とか蹴り落とそうとするが、裏側に張り付くカエルには届かない……


「ゲレロレロレロ ベロベロベ~ 」


「チッ――― 」


 フワフワと高度を上げて行くと吐き出されたダスターシューター出口付近に鉄扉を発見し、近づいて行く。点検用の扉であろうそのドアノブを回してみると、意外にも簡単に扉は開かれた。それっとばかりに入り口に飛び込むと球体が入り口にガンッと引っ掛かり、勢いでミューとカエルが扉の中に放り出された。


 べちゃりとミューがつんのめり「ぐへぇッ」と声を漏らすと、相変わらずカエル清掃員A君はボヨンボヨンと弾む度にゲロッゲロッと鳴きながら消えてった。


 何とか扉に入り込もうと画策する警備ロボを「じゃあな」と見送ると赤錆に覆われた通路を振り返らずに進む。突き当りの梯子はしごにノロノロとへばりつき先を行くカエルをムンズと捕まえるとポイッと後ろへ投げ捨てた。


「ゲレロ ゲレ~ 」


 カエルはやはり先程と同様に弾みながらゲロッゲロッと鳴きながら振り出しへと戻って行く。


「さっきから邪魔なんだよッ ついてくんな」


 せ返る程の蒸気に長い梯子はしごの先が霞む。繰り返す単純な作業が体力を奪い汗が滲み始めた頃、漸く天井を塞ぐ鋳鉄ちゅうてつ製の鉄蓋マンホールへと辿り着いた。


 プルプルと震える筋肉を自ら鼓舞すると鉄蓋を押し上げ、隙間から辺りを見回す。小さな飲食店達が吐き出す煙に派手なネオンが反射し、幻想的な街並みを浮かび上がらせていた。


「めっちゃ旨そうな匂いなんだけどッ 此処は何だか楽しそうね」


 周りに悟られぬ様に鉄蓋を半分ずらすと、ズリズリと穴蔵を抜け出し、路地に身を隠し腰を落とした。


 フードを深く被り煙を吐き出す小路を歩き出すと、銃を携えた警備兵が交差する通りを慌ただしく走り抜けていった。


「ヤバッ」


 慌てて踵を返し反対方向へと走り出した途端に、瞳を掠める何かと出会い頭にドシンとぶつかり、勢い良く何かがゴロンゴロンと転がって行く


「うにゃぁ」


「イタタたッ」


 腹部を抱え我に返ると、目の前で小さな子がひっくり返って居る。


「ごめんッ 大丈夫か? 」


「うにゃあ 目がぐるぐるなのですっ」


 手を差し伸べて気が付いた。小さな子には頭に愛嬌のある耳がちょこんと付いている。


 ―――獣人か……


「怪我は無い? 」


「大丈夫なのですっノンは頑丈なのですっ。おねいちゃんゎ平気なのですか? うげぇっ――― 」


「大丈夫じゃないじゃん‼ ほらッ やっぱりどこか痛いんでしょ? 」


「違うのですっおねいちゃん――― くっ、くちゃいです‼ 」


 小さな子は必死に鼻を塞いでいる。

 

 ―――ガーン―――


「ちっ違うのッ こっこれには訳があってねアタシはいつも臭い訳じゃないのよ? 」


「おうちが無いのですかっ? 」


「いやッ 無いわけじゃないんだけど、そっそうね今は無いかも」


「困ってるですか? 」


「うーん…… 」

頭をポリポリとかきむしると、返答に困り冷や汗が額に滲む。


 グゥとミューのお腹が鳴ると、ノンと名乗った猫人種クロットの女の子はビックリした顔を見せ、まん丸な目を見開いた。


「おねいちゃんお腹ペコリなのですっ? 」

小さな耳がピクピク踊る。


「そっそうねッ ペコリかも」


「ぢゃぁノンとお風呂行くのですっ。そのあとご飯行くですっ綺麗にしないとお店入れないですっ」


「えっ? 嫌ッ 急いでるし悪いからいいわよッ」


「ダメなのですっ困ってる人を見つけたらじいちゃんに助けてやれって言われてるのですっお風呂屋さんの場所ゎ知ってるので行くのです」


 ミューの返事も聞かずに手を引くと、小さな猫人種クロットの女の子はシュタタと走り出した。

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