第14話 1番槍

 ―――これより本艦は敵本体殲滅の為。共に自爆する―――


 高次元の熱変動を感知したバケモノは危険を察知すると集中攻撃に打って出た。機体下部から突き上げられた無数の触手により船体はもろくも貫通し、各電気系統が切断されると、全ての活動が停止状態に追い込まれた。破損したマザーの頭脳は活動停止を余儀なくされ、指令系統を失ったハンザ―ヘッドは到頭とうとう自爆する事さえも叶わぬ状態へと成り果てた。


≪こレ…… までデすか…… スミませン ます……ター≫


 空気が膨張し衝撃波が砂を巻き上げる。大きな閃光が走り爆音と爆風が追い風となってシルミド達を襲った―――


「シルミド―――‼ 」


「あぁドローンの映像で見えてたぜバックス。少し遅かったみてぇーだな。あのクソヤロー俺達の前でなぶり殺しにしやがった、許せねぇ」


「ブレイン周りの生体反応は? 」


≪アリマセン≫


「全滅か――― 」


「運が悪かったと言えばそれまでだが、目の前で宇宙機乗り同業が嬲り殺されたのを黙って見てるほど俺ぁクソ出来ちゃいねぇ」


「シルミド⁉ 」


 アクセルを踏み込むと全開で加速する。砂の上を滑らす様にバギーを操ると、唸り叫ぶエンジンは怒りを示し、その許容範囲を軽く超える。シルミドが加速を促した跡は砂埃のトンネルを形成し更に加速しバケモノへと肉迫する。


「クソ悪ぃなテメェら俺も…… 一番槍祭り…… 」


 ―――参加だ―――


「流石リーダーそうこなくっちゃアチキは男っぽいの嫌いじゃないよ」

ジュレーヌは湧きたつ血潮に堪らず心踊らす。


「コヨーテ1了解。援護に回りやす」


「了解。悪ぃなギャラッシュ。気分がクソ悪くてよぉ」


「リーダーがクソッて言い始めたらもう誰も止められねぇっす。後ろは任せて欲しいっす」


 シルミドはウィングジェットを背負うと爆薬の時限信管を起動する。近づく程にその巨体が露わになると、先程の残虐非道な行為に奥歯を鳴らす。ギリギリまでバギーを全開で突っ込ませると、夜空に蠢く触手達がシルミドを出迎えた―――


「ギャラッシュ――― 」


「了解‼ 迎撃しやす。そのまま行ってくだせぇ」


「任せた‼ チャッピー来てるか? 」


 ビリビリとヘルメットのシールドに飛び込んでくる砂混じりの風圧に目を見開きながら、先を爆走するシルミドのバギーに、尋常じゃない縦揺れの中必死に追い縋る。シルミドが猛烈な加速度で作り上げた砂のトンネルにバギーを躍らせると、ブレるハンドルに抱き付いた。


「斜め後ろぉ――― 早ぇ~よシルミド追い付けねぇ」


「先に行くぞ―――」


 全開走行中のバギーの正面に、自ら故意に針金で括り、束にした手榴弾を2つ数えポイと投げると、ドガンと爆風でバギーがバケモノ目指し飛び込んだ。タイミングを計りウィングで夜空に飛び出すと、最早一瞬で火炎に包まれたバギーがバケモノを強襲する―――


「先ずは挨拶だ――― 」


 時限信管により導かれた爆薬がドゴンと起爆すると、バギーと共に吹き飛び暗闇に派手な閃光を生んだ。それを切っ掛けに攻撃に火が付き、次々と後続のジェットウィングが舞い上がる。


「ギシャァァァァァ――― 」


 不意打ちを喰らったバケモノの表皮には炎が燃え広がった。


「アンタがシルミドか? 惚れ惚れする突っ込みだぜ。CNコールネームカルンのバージだ初撃祭りには3人参加する。マークは3本の短剣だ」


「了解だ。触手が思ったより厄介だからな気を付けてくれ」


「カルン隊 了解――― 」


「こちらシルミド。コヨーテIMアイアンメイデンは此奴の注意を引いて触手を間引いてくれ、それとヘイト管理を頼む」


「風見鶏IMのロイドだ。俺の機体はアーマード盾持ちだから俺を中心に各IMは初撃祭りの勇者確定まで共闘頼む」


「おぉ、そりゃ助かるぜ! こちらシルミド。コヨーテIMはロイドのIMと勇者確定まで共闘。一時的に決定権をロイドに譲渡する」


「コヨーテIM隊了解――― 」


「こちら風見鶏フテマだ。シルミド此奴弱ってねぇか? 一体どうすりゃ狂獣インセインをこんなに追い込めるんだ? 」


 シルミドは迫る触手をジェットウィングで躱し乍ら魔力オーラブレードソードで弾く。


「全くだ、狂獣インセインは最低でも100人単位の重装備の部隊で時間を掛けてやっと倒せる大物だ。それをたった一隻の船が此処までヤツを追い込めるとは到底考えられねぇ、あるとすりゃあ1人居たのかもな」


「何がだ? 」


「チャッピー‼ 今だ斬り込むぞ」


「応――― 」


「フテマが何を期待してるのか判らんが、恐らく居たのかもしれん、一発で戦況をひっくり返せる程の存在が」


「それってまさか――― 」


「あぁ俺には魔術使いオーラハンドラー位しか思いつかねぇ」


「そんな存在が…… 」


「さぁな。今となっちゃあ誰にも分からねぇ」


 ウィングジェットを巧みに操り狂獣の頭部を目指す。防衛線を突破してきたシルミド達に向けてその攻撃はより一層激しさを増した。


 ―――複数の触手がシルミドを同時に襲う―――


「シルミド―――‼ 」


 チャッピーが悲痛な叫びを投げかけた刹那、シルミドはチャッピー目掛けてアンカーバズーカーを放つ。脚に絡みつくアンカーにパニックになるチャッピーをよそにニヤリと牙を覗かせるとそれを起点に急降下を始めた。


「連れてってやるぜ勇者の領域に」


「こっ‼ このキチガイめぇぇぇぇぇしぬうぅぅぅぅぅ」


 触手が次々と二人を掠める中、勢いよく着地すると後ろからドチャリとチャッピーが落ちて来た。


 ―――シルミドが頭を取ったぞ―――


『マジありえねぇ。チキショー触手が多くて入り込めねぇってのによ』


『遅れを取るな何の為に賞金稼ぎハンターやってんだ』


 ―――各チームを鼓舞する無線が慌ただしくなる。


「はぁはぁやっと追いついたぜシルミド」


「あぁ良くここまでついてきたな、此処はこいつの頭だ。先ずは振り落とされないようにアンカーバズーカで2本左右にワイヤーを張れ、後はそのブレードを此奴こいつにぶっ刺せばチャッピー、お前が勇者だ」

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