第13話 出産。そして、命名。

 まだまだ春には遠く寒い。一月の終わり、夜も明けきらない刻。


 その日、ミカンちゃんは、とっても元気な牡竜ぼりゅうを出産した。



 産まれた牡竜ぼりゅうは、皮膚は漆黒で、たてがみは宝石のように青く輝いていて、皮膚とたてがみは同色であることが多いドラゴンには珍しいミックスだった。


 なにこれ、超カッコいいんですけど。


 ミカンちゃんもブラックヤマト君も美形だし当然といえば当然だけど、子竜なのにすでに顔がカッコいい。親バカかもしれませんが、超イケメンです!


 ペロペロとミカンちゃんに舐められながら、おっぱいを飲んでる様子が天使&天使すぎて、永遠に見てられそうだった。


 尊いの玉手箱やぁあああ! ありがたすぎて、ほんと拝むぅ~!!!



 さてさて、急に一年間も時間が飛んで、ビックリされた皆様こんにちは。


 私がこの地に来て、約一年半が経ちました。光陰矢の如しですね。


 飛ばした一年間の間に、『龍堂レーシングドラゴンファーム』で起こった出来事ですが、まず繁殖用牝竜ひんりゅうが二騎増えました。これは私がオーナーじゃなくて、牧場所有のです。


 ドラゴンは出産後、半月ほどで次の妊娠が可能だけど、私がミカンちゃんにそんな無理させるの嫌だなーって話をしたら、エイジさんが牧場の経営も良くなってきてたのもあって今年の夏に購入してきました。


 この子達の種付けももうすぐなので、来年はもっとドラゴンが増えそうです。賑やかで良き。


 あと、新居が出来上がりました。柴犬義父のこともあるので、半二世帯住宅な感じです。そんなこんなで去年は分割賞金一億六千万円のうち、一億二千万円くらい使いました。は?


 竜主ドラぬし生活、一瞬で金溶けてく。ジーマーで。


 でも、また一億六千万円チャージされたので、オールオッケーでーす!


 今年こそは、余剰金を低リスクな投資信託などに回したいところですが、子竜を競技に出すまでにかかるお金がかなりヤバそうです。


 以上、誰に報告しているのかわからない説明、終了。



 放牧地をミカンちゃんと一緒に駆け回っている子竜ちゃんを眺めつつ、私は毎日ニヨニヨしている。時が経つのは早いので、毎日ニヨニヨしてたら、産まれてあっという間に半年が過ぎた。


 エイジさんから「生後半年で、離乳の時期だよ」と言われてはいたが、ミカンちゃんと子竜ちゃんの仔別れがツラすぎて私はオイオイ号泣し、その日は柴犬義父と同じくらい飲んだくれた。


 なお、当の本人たちは結構ドライで、つつがなく仔別れは完了してしまったが。


 その後も子竜ちゃん、すくすくと成長し、エイジさんが大切に育ててくれているお陰か、人懐こくてとっても可愛い。母であるミカンちゃんからウンコキックは遺伝しなかったようで安心。競竜けいドラ場で、観客にウンコキックされたら、さすがに困る。



「ユズさん、そろそろ名前決めて、登録しないと」



 子竜ちゃんが一歳になり、新たに買った繁殖用牝竜ひんりゅうたちがそれぞれ牡竜と牝竜を産み、ミカンちゃんが次の子を妊娠した頃、エイジさんにそう切り出された。


 そう。私はまだ名前を決められていなかった。なぜならば、気がついてしまったからである。競争竜には、今後ずっと父と母の名前がついて回ることを。


 父 ブラックヤマト

 母 ミカン


 ミカンの字面!! エイジさん、わかってたなら、なぜあの時、止めてくれなかったのだ! めっちゃ笑ってるだけだったぞ、あの人!


 「母 ミカン」絶対にみんなから笑われるやつやん。いや、ミカンちゃんは可愛いけど。せめて、「アクアブルー」とか「スカイサファイア」とかシャレオツな正式名つけておけば良かった。


 この子については後の祭りだが、せめて次世代には、かっちょいい父の名を残してやりたい。


 私は、牧場を駆ける彼の様子を眺めた。父親譲りの黒い体躯が疾走すると、母親から受け継いだ青いたてがみが残像のように印象的に目に残る。


 まるで、稲妻のようだ。


 ……。

 …………。

 ………………。

 サンダー………………。


 そして、がなければ、私が竜主ドラぬしになることもできなかった。


 サンダージャックポット。


 え。めっちゃカッコいいじゃん。私、天才じゃん!


 電光石火の大当たりって感じで、縁起もいい気がするし!



 意気揚々と、エイジさんに名前が決まったと伝えに行く。私が自信満々で名前を告げると、予想に反して彼は渋い顔をして、なぜか指を折って何かを数えた。


「ユズさん、残念だけど……、競争竜の名前は9文字までだよ。11文字だね、サンダージャックポットだと」


 ガーン。


 私のさっきの稲妻を感じたくだりなんだったん?


 ちょっと運命感じるネーミングだったのに……。



 結局、その日も決められずに寝たけど、翌朝事務所に行くと、エイジさんの字で書かれた竜名登録申込書が私の机の上に置いてあった。



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 希望竜名 ジャックポットユズ

    父 ブラックヤマト

    母 ミカン

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