第12話 お見合い

 ミカンちゃんの相手も無事に決まり、前々からエイジさんが彼女の発情期を年明けの二月に合わせて調整してくれていたので、そのあたりで種付け予定だ。


 なお、種付け料の支払いは、受胎確認後になる。とはいえ、確認までに半月以上かかるので、回数が重なればその分、出産時期がどんどん遅くなるし、できたら一回か二回でジャストミートしてほしい。がんばれ、ブラックヤマト君!



 というわけで、今日は待ちに待ったミカンちゃんとブラックヤマト君のお見合いです。まぁ、お見合いっていうか、そのまま当日中にベッドインなわけなんだけど、しかもスタッフたちに囲まれながらで、ミカンちゃん不憫。


 お互いに気に入らなかったら、どうしようかと思ったけど、繁殖部屋に入ったミカンちゃんはブラックヤマト君を一目見て、キュイッキュイッと高い声で鳴いて興奮しているようだった。


 ミカンよ、お主やはり面食いであったか。ワシの目に狂いはなかった。


 ちなみに、ブラックヤマト君は、牧場主さん曰く「なんでもイケる口だから大丈夫」とのこと。種牡竜しゅぼりゅう生活も楽じゃないね。


 牧場主さんからは「竜主ドラぬしさん、交配の見学できるよ」と言われたけど、ミカンちゃんのいたしてるところを見るのも忍びないので、エイジさんと外で待つことにした。


 五分ほどで、ミカンちゃんがスタッフさんに連れられて出てくる。無事に事故などなく終わったとのこと。


「ヤマトも気に入ったみたいで、結構仲良くやってたから、期待できると思いますよ」


 最後に牧場主さんからそうサムズアップされて、私たちはブラックヤマト君の牧場をあとにした。



◇◇◇



 一ヶ月後、獣医さんにミカンちゃんの妊娠検査をしてもらう。ちなみに、この獣医さん、普通の人間の頭をしている。渡来人かと思ったら、ご両親が渡来人らしい。


 超音波検査と直腸検査が終わると、獣医さんはニッコリと笑ってくれた。


「今のところ、胚も心拍も異常は見えないし、安心してくださって大丈夫ですよ」


 ブラックヤマト、すげぇな。奴の気位の高そうな「フンッ」という顔を思い出す。


 とにかく、エイジさんも私も、これでホッと一息だ。第一関門突破である。


 作業が終わった後で、事務所で獣医さんに紅茶とケーキをお出しした。いつもは忙しそうだけど、今日はこのあと予定がないらしい。私は彼に気になっていたことを質問することにした。


「ご両親って一緒にこちらへ転移してきたんですか? それとも、こちらで出会われたんですか?」


 不躾な質問かもしれないけど、私も当事者だし聞いておきたかった。


「ああ、両親は二人とも転移してから政府機関で働いてたので、それで出会ったみたいですよ」


 ぐぬぬ。科学者で転移局から政府職員コースなのか。やはり、ご子息が獣医になるくらい頭が良いとなると、ご両親も優秀な方のようだ。できたら、渡来人の知り合いが欲しかったんだけど。


 そんな私の質問の意図をくみ取ったのか、彼は『渡来人コミュニティ』の存在を教えてくれた。SNSとかもあるようなので、調べてみよう。


「あ、とりあえず、母を紹介しましょうか? 女性だと美容院とか困りますよね」


 そうなのだ。目下の悩みは、美容院。さすがに、半年近く切ってないので、そろそろ切りたいのだけれど、ヘアカタログを見てもモデルさんが動物頭で、どんなヘアスタイルか不明なので、すごく困っていた。


 彼はその場でお母さまに電話をしてくれて、お母さまも連絡先の交換を快諾してくださって、マジ感謝だった。そのほかにも渡来人用の診療科がある病院などの情報も合わせて、色々と教えてもらう。


「そういえば、ドラゴンの出産って、卵かと思ってたら違うんですね」


 恐竜映画などで、そういった描写があったので思い込んでいたけど、哺乳類と同じように殻なしで出産するらしい。


「あはは。それ、両親も言ってました」


 やはり、渡来人はみんなそう思うよね。ドラゴンは、似てるけど爬虫類や鳥類ではないのだ。うん。


 あれ? いままで疑問に思ってなかったけど、渡来人とこの世界の人って、子どもできるのかな?


「そうですね……前例聞いたことないかな」


 質問してみたが、回答は予想通りではあった。まぁ、異種族ですよね。私は、特に子ども欲しくないけど、エイジさんどうなんだろう。


 無理やり結婚しちゃったけど、全然そのこと考えてなかったわ。もし、子ども欲しいなら、申し訳ないことしちゃったな。代理母制度とかあるんだろうか。


 その後もペチャクチャと喋り続ける私の質問に、獣医さんは気前よく答えてくれて、カラス頭のカジノ支配人さんに続く、友人の獲得に成功した。でも、そろそろ女性の友達もほしい。



◇◇◇



 お風呂からあがって、自室でテレビを見ながらビールを飲んでいると、扉をノックをされた。居間は柴犬義父が占拠していて昼夜問わず酒を飲んでいるので、基本的に食事以外は自室で過ごすことが多い。


 訪問者は、エイジさんだった。寝るにはまだ早い時間だし、珍しいなと思いつつも、私は彼を部屋に招き入れる。


 ところで、彼は根が真面目なのか、引っ越し初日に私が明け透けに頼んでから、二日に一回私の寝所を訪れてくれた。なぜか毎日じゃないのが、エイジさんっぽいと感じ、すごく面白い。


 ソファーに座った彼の横に私も座り、彼がなんだか難しそうな顔をしていたので、私はテレビを消す。


「あのさ。立ち聞きするつもりはなかったんだけど……」


 お? なんじゃ? 藪から棒に。私は首を傾げつつ、彼の話を聞く。


「ユズさんがやっぱ同じ渡来人の男がいいっていうなら、オレ離婚するし……。子どもがほしいだけなら、その……精子提供とか考えてもいいと思ってるし……。だから、なんていうか……悩んでるなら、他人に相談する前に、まずはオレに相談してほしいというか……いや……あんまり役に立たないかもだけど……」


 おう? んー? 獣医さんとの話、聞いてたってことかな。でも、聞き捨てならぬ言葉が最初の方に聞こえたの。


「離婚……エイジさんは、そんなすぐに離婚できてしまうのですか……」


「え? いや! 違くて! それは、ユズさんが同じ渡来人の男がいいってなった場合の話で……」


 慌てふためく彼を見て、へへっと私は満足げに笑う。この世界に飛ばされてきてから色々な幸運があったけれど、やっぱり最大の幸運は一番最初にエイジさんに出会ったことだよなぁ。


 彼の膝の上に、ゴロンと私は頭を乗っけた。


「フフフ。私たち考えてること同じですねぇ。私も代理母制度をさっき調べてました」


 そのあと、「もしこの先欲しくなったら、養子もいいかもね」って話をしつつ、少しいつもより早いけど、二人でベッドに入ってモゾモゾ仲良くしました。えへ。

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