第16話「会敵」

「――起きろ、マディエス」


「…………!」


 体を揺すられて目を覚ました。辺りはライトで照らされているのみで薄暗い。そうだ、ここは洞窟の中だ。


「あれ? どうして寝てたんだっけ……?」


 辺りを見回すと、トソウさんが立っており、ザレンドさんとトワが倒れている。僕を起こしたのはトソウさんみたいだ。


 えーと、僕たちは賜術の国に行くために洞窟に入って、しかしジェアルたちが入った洞窟とは違う洞窟で……。


「トソウさん、ジェアルとオリクレアはどこですか?」


 今度はザレンドさんを起こそうとしていたトソウさんに尋ねた。


「わからない。俺もさっき目を覚ましたばかりだが、その時には既にここにはいなかった。しかし、ここは……」


(いなかった……? なら、2人だけで洞窟を出たのか? つまり、集落に戻って……)


 再び洞窟内を見回してみると、あることに気付く。


「……? あれは……黒い、結晶……?」


 僕の知っている洞窟にはあんなものはなかった。ならここは……。


「ここがジェアルソールの言っていた洞窟に間違いない。意識を失っているうちに賜術側から入れる洞窟と、賜学側から入れる洞窟を移動したみたいだな。原理は知らん」


 トソウさんも、僕と同じことを考えているらしい。しかし、そうなるとジェアルたちはやはり先に洞窟を出てしまったのか……? なぜ? 僕たちを起こせなかったから、外の様子を見にでも行ったのだろうか。


 なんにしても、ザレンドさんとトワを起こして、早くここから出よう。


「……んん……? うお、びっくりした! 真っ暗闇に真っ黒な髪で、びっくりしますって!」


「知らん。さっさと起きろ」


「んー……? うわっ、マディエス!? びっくりした! 顔、近いって!」


 トソウさんがザレンドさん、僕がトワを起こすと、2人ともなんだか似たようなリアクションで目覚めた。


 とりあえず2人にも今わかっていることを共有したが、やはり洞窟から出るしかないということになった。幸い、荷物もバッテリーもちゃんとある。一体どういう原理で洞窟を移動してるのやら……。


 洞窟内は一本道になっており、片方は黒い結晶で行き止まりになっており、おそらく道が続いている方向が賜術の国であると信じて進んだ。


 しばらく進むとーー。


「! 光、漏れてない? とりあえず、外には出られそうだね!」


 本当だ。しかし、光が入るということは既に日が出ているということ。気を失ってから、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。


 明るく照らされている範囲にまで歩を進める。ずっと暗い空間にいたため、太陽がとてもまぶしいが、目が慣れてきたため辺りを見渡してみる。


 そこは、木々が生えた広々とした土地だった。僕たちがいま出てきた洞窟は、山の麓にあったようだ。


 ……見渡す限り――特に何もなかった。草木は生えているが、建造物なんかは何もない。集落の中では、これほどまでに人工物のない空間はありえない。つまり、ここは……。


「ここが、賜術の国……?」


 風に草木がなびき、日差しに照らされているここは少し暖かい。穏やかな空気感だった。座ってしばらくぼーっとしていたら、きっとすごく心地いい。しかし、そういうわけにもいかない。


 ジェアルとオリクレアは、洞窟内にもいま見える範囲にもいなかった。となると、そろそろ2人の行方を真剣に考察しなければなるまい。


「……とりあえず、方角を確認してみたが……。俺たちが出てきた洞窟が北で、洞窟のある山は東西に続いている。となると、ジェアルソールの言っていた通りの地形だな」


「本当なら、このまま山を東に沿って医術会とやらを目指す予定だったみたいだが……どうする? とりあえず2人のことは棚上げして、予定通り東に進んでみるか?」


 ザレンドさんが言う。しかし、そもそも2人の行方の可能性として考えられるものは?


(僕たちが目覚めないから先に医術会に向かった? ……いや、それはないだろう。確認したが時間はあれから3時間ほどしか経っていなかった。置いていくには早すぎるし、まず集落の人間なしでは交渉できないだろう)


(なら、おじさんとおばさんの様子を見に行ったとか? ……可能性としてはあるだろう。そこまで距離があるわけではないようだし、僕たちが起きそうにないからその時間を無駄にしないために、急いで行ったのかもしれない)


 ……しかし、これはどちらの場合もジェアルとオリクレアだけが、かなり早く意識を取り戻したことが前提になる。そうだとしたら、2人と僕たちの違いは、賜術の人間か賜学の人間か、ということ……?


 でも、そもそも2人は意識を失った状態であの洞窟で僕に発見されたんだ。そうなると、2人だけすぐに目を覚したとする根拠はないだろう。


(あのときどれくらい意識を失っていたのか、確認しておくべきだったな……)


 ……他の可能性としてはやはり、2人は意識を失ったまま誰かに連れ去られたとか? しかし、誰が、なんのために? 僕たちだけ洞窟を移動させ、2人はそのまま集落側の洞窟内に残したとか? ……それでも理由がわからない。


 洞窟の奥に行けばまた意識を失って戻ることができるのか? なら、それを試してみる?


「2人は集落から入った洞窟に残されたのかもしれません。だから、今度は山を越えて一度集落側に戻ってみるのはどうですか? それなら意識を失うことも、はぐれることも――」


 僕が今後の提案をしていると、トソウさんがいきなり僕を押しのけて後ろに出た。何事かと振り返ってみると、トソウさんは何やら黒い盾を構えていた。どこから出したんだ? 賜学の装備は使わないって聞いたけど……。そもそも何事?


 トソウさんの向いているほうを見てみる。すると、木の後ろから何かが出てきた。あれは……人だ。青い髪色をした男が出てきた。


「まじかよ、完全に不意打ちだったんだが……。今のを防がれるんじゃ、俺1人で4人も仕留めるのは厳しいな……」


 よく見ると手には銃を持っている。


「お前たち、あいつは俺がどうにかする。先に東に向かえ」


「え!? でも、あの人いま銃撃ってきたよね!? 銃を持つ相手を1人で相手にするのは危ないです!」


 そう言ってトワは剣を展開しようとするが、トソウさんは止める。


「お前ら、あいつの銃に反応できなかっただろ? 俺はできるから問題ない。あいつも全員相手にするのは諦めたようだ。それなら、俺1人での方がやりやすい」


 そう言うとトソウさんは盾を構え直した。


(……どうする? あいつは僕たちを本当に諦めたのか? そもそも、なんで攻撃してきたんだ? いや、なんにしても賜術の国の人なら敵対するのはまずい――)


「マディエス、トワ、行くぞ! ここはトソウさんの言うとおりに! また撃ってこないとも限らない!」


 ザレンドさんはそう言うと僕とトワの手を引っ張って走り出した。……仕方ない、とりあえずいまは離れるか……!


 僕たちは、銃を撃ってきた男とトソウさんを残し、東に向かって走り出した。

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