第14話「最終確認」

「……そうか、ザレンド王も同行するのか……。権者たちの許可はまぁ、得られないだろうが、本来俺が意見していい相手ではないからな……。王の同行は秘密にしておいた方がいいだろう」


 家に戻り、外での出来事をダルタさんにも話したところ、乗り気ではなさそうだったがザレンドさんの同行を容認してくれた。昔からダルタさんは、ザレンドさんに対して負い目を感じているかのような態度をとる。単に僕の勘違いで、集落の王だから敬意を払っているだけかもしれないが……。


「ああ、そういえば君たちが外に行っている間に連絡があった。君たちの賜術の国への出発は3日後に決まった。政事の関係上、この日数が限度だそうだ。急になってしまうが、問題ないか?」


「! いえ、むしろそんなに早く対応してもらえるのは俺たちからするとありがたいです。……しかし、ザレンドさんにも伝えなければな。3日後は急だし、なるべく早く伝えた方がいいと思うが、どうする? 近く距離に住んでいるなら、いまから伝えに行くか?」


「いいや、わざわざ直接伝える必要はない。賜学を使えば、離れていても会話できる。マディエス、君から連絡してやってくれ」


 なぜ僕が? まぁ、いいのだけど。


 自分で連絡すればいいのにと思いつつ、僕は耳の装置に手を当てる。賜学の装備は脳内の信号も体外から読み取ってくれるため、思い通りに操作できる。


(ザレンドさんに連絡……。さっき会ったばかりだし、忙しくて迷惑になることもないかな)


 ザレンドさんに発信するように操作する。すると、僕の装備からザレンドさんの装備に情報が送られ、ザレンドさんが通話を許可すれば離れていても会話ができる。


 少しすると、ザレンドさんに回線がつながった。


『マディエス、どうした? なんか言い忘れたことでもあったか?』


「そんなところです。すごい急で申し訳ないんですけど、賜術の国に出発するのが3日後に決まったみたいです。大丈夫そうですか?」


『本当に急だな!? うーん、でもわかった。間に合うように準備するよ。わざわざ連絡ありがとうな。他にはなんかあるか?』


「そうですね……。ザレンドさんの同行を権者が許すとは思えないので、内密にしようということくらいですね」


『あー、確かにそうだな。ダルタさんもそこにいるんだよな? 権者として立場もあるだろうに……。まぁわかった。こっそり付いて行くことにするよ』


『ダルタさんには、俺のことは気にしないでいい、あなたに責任はないって伝えといてくれ。……それじゃ、俺はこれから準備するからもう切るぞ、またな』


 ザレンドさんは、そう言って回線を切った。


「急いで準備すると言っていました。あと、ダルタさんに責任はないから、俺のことは気にしないでいい、と伝えろとも」


「……」


 ダルタさんは目を瞑って難しい顔をしている。


「……ただマディエスが1人で喋っているだけだったが、それで遠くにも届くのか……。それなら、それで賜術の国にも話しかければ……」


「それは無理だよ。相手も賜学の装備を持ってないとできない」


「そうなのか……。なら、俺たちも使えないのか?」


「無理だと思う。2人は集落のネットワークに認証されてないからね」


「そうなるのか……。なら、付いて来てくれるという、トソウさんと……トワさん、だったか? 彼らとはいつでも会話可能なのか?」


「この集落ならね。外はどうなんだろう……? ダルタさん」


「……集落の外は無理だな。近くなら直接無線でできるだろうが……。なんにしても、トワはともかく、トソウは賜学の装備を身に着けていないから無理だな。集落の外で賜学の通話はあてにしないほうがいい」


 そうなのか。しかし、トソウさんは賜学の装備を身に着けていない? じゃあ普段身に着けているのは偽物ということ? それでどうやっていままで生活してきたんだろうか。


「なら、トソウさんには3日後に出発することをどうやって伝えるんですか?」


「研究権者のメゾメルから伝わっているはずだから問題ない。それより、向こうに行ってからの動向をより細かく決めておいた方がいいんじゃないか? まだ全てまとまったわけじゃないだろう?」


 そうだった。話し合いの途中で僕が賜学を見せると言い出したせいで中断してしまった。でも、それで新たな同行者を得られたから、無駄ではなかっただろう。どこまで決まったのだっけ?


「そうでしたね。えーと、まず集落からフラメリアルに出たら、山に沿って東に進み、医術会に行く。そこで可能ならば『不治の病の療法確立の可能性』を提示して医術会に後ろ盾になってもらいたい。うまくいけば、そのまま中央都市で各国の認可を貰えるように活動する。……医術会と決裂した場合は、正直現地で決めるしかないと思う。最悪医術会に敵対される可能性もあるだろうし、フラメリアルを脱出しなければならなくなるかもしれない。その場合、他の国に助けを求めるしかなくなる」


「最終的に認可を貰うこと自体に失敗したら……。マディエスたちが集落に戻ることを最優先に動こう。俺たちが巻き込んだんだからな。オリクレア、それでいいだろ?」


「……兄さんがそれでいいなら、私もそれでいいよ」


 別にそこまで気負わなくてもいいのだが……。始める前から失敗した時のことを決めなくても……。


「ジェアルソール、そこまで気負わなくていい。どうせ短期で終わる任務ではないんだ。ずっと先の失敗した時のことで、いまから気を張る必要はない」


 ダルタさんも僕と同じ考えらしい。ジェアルたちに余計な負担をかけないほうがいい。向こうでは彼らが考え、それに基づいて行動することになるのだから。


「……そうですね。成功させることを第一に考えながら向こうでは動こうと思います」


 そうだ。賜術の国からすればデメリットはないはずなんだから、順当に行けばうまくいくはずなのだ。


 ……ところで。


「『賜術の国で認可を貰う』と言うけど、中央都市にしても各国にしても、具体的にはどこで誰に貰うの? 五権者のような人がいて、五権者会議のようなものがあるのかな?」


「ああ、そういえば話していなかったか。各国にはそれぞれ頭領がいてな。俺たちの国のフラメリアルだと、ジュエナル・フラメリアという人物がそうだ。他の国にも名前は知らないが、頭領がいる。そして、中央都市なら頭領本人でなくとも、それに準ずる重役がいるだろうから、そいつらと交渉する……ということになるだろうな」


「あっ、なるほどね……。とにかく、中央都市を目指すのが一番効率がいいってことか」


「ああ、そのはずだ」


 ……それなら、僕にはもう確認したいことはない。他にも何か決める必要のあることはあるだろうか?


「正直、俺がまとめられるのはこれくらいなんだが、何か他に確認することはあるか?」


 ダルタさんも、オリクレアも何も言わない。僕も特にないし、話し合いはこれで終わりか。


「何もないな? なら、3日後に備えて体を休ませよう。トソウさんとトワさんへの伝達は、ダルタさんに任せていいですか?」


「ああ、それが一番手っ取り早いだろう」


「でしたら、よろしくお願いします」


 こうして、僕たちはこの日の話し合いを終えた。


 そして、1日、2日と準備をして過ごし、賜術の国に出発する日を迎えた。

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