第11話「力試し」
とりあえず、僕たちは賜術の国で賜学による不治の病の研究をする認可を貰うために、『中央都市』を目指すことになるようだ。しかし、ジェアルによると、まだ問題は山積みらしい。
「都市の中心である中央都市……。位置するならそれは4国の中心地だろう。俺たちの国フラメリアルは、実際南に行くほど発展している。どうやらここ10年ほどで北東方面も活発化しているようだが、俺はよく知らない。まぁ、それは今はいい。」
「つまりだな。なんにしても俺たちは、フラメリアルを最北から最南まで縦断しなければならない。その上で、完全に無頼で移動するのはリスクが多い。賜術の国には、各国の兵士がいるし、『賜術連盟』もある」
……『賜術連盟』。昨日ジェアルに聞いた話だ。賜術連盟とは、『賜術士』が所属する組織であり、4国にとらわれることなく賜術士に任務や役割を付する組織だとか……。
「各国の兵士だけでなく、賜術連盟も警察業を請け負っているから、道中出くわす可能性がある。その上で、そいつらは賜学の存在を知らない可能性が高い以上、賜学なんて意味のわからないことを言う俺たちは実力行使の対象になりかねない。しかし、そこで戦闘になれば中央都市で認可を貰うどころの話ではなくなる。最悪、全員捕まったり殺されたりする可能性だってある」
……賜術の国はそんな物騒なのか。僕たち集落は、賜術の国から来た彼らに危害を加えるようなことは無かったのに。
「そこで、フラメリアル国内、ひいては中央都市で各国からの認可を貰えるまで、俺たちを庇護してくれる存在――後ろ盾が欲しい。それで、その候補として挙げられる組織は『医術会』くらいだから、集落から出たらまずは医術会に向かおう」
医術会。賜術の国に存在する医療機関のことだ。賜術連盟と同様、特定の国に縛られることなく医療を行う組織だそうだ。
そういえば、昨日情報の共有をした時にも、おじさんとおばさんを医術会に連れて行き不治の病だと診断されたと聞いたが、そもそも医術会や賜術連盟の拠点はどこにあるのだろうか?
「医術会は各地にその支部がある。俺たちの住んでいるところからだと一番近い支部は東側にある。だから、フラメリアルに出たらまずは山を東に向かって進もう。活発化している北東に向かえば多少人も増えるだろうが、協力を得ることができれば、無頼で都市に向かうよりはずっと安全だと思う」
「賜術連盟の拠点に関しては、どこにあるのかは知らない。どのみち、都市に行けば賜術士には鉢合わせるだろうから、知らなくても危険度は変わらないと思う」
そう言われれば確かにそうだ。しかし、ジェアルはなぜそこまで賜術士に遭遇することを警戒するのだろう? 事実僕らは部外者だから、賜術士の任務の範囲内なのは間違いないのだろうけど、出会うこと自体をそれほど危険視するものなのだろうか?
「ん? ……それはまぁ、あれだな。俺たちは賜術士ではないけど、賜術は使える。でも、マディエスたちは使えないだろ、賜術」
「うん。でも、賜学があるけど?」
「いや、しかしな……。結局は生身の人間なんだろ? それでは、賜術の使い手から身を守ったり逃げたりするのが……厳しいだろう? 俺たちも、賜術のプロ相手に何人も庇いながら逃げるとなると、かなり厳しいからな……」
……なるほど。つまりジェアルは、賜学では賜術の災禍から身を守れないと思っているのか。そういえば、賜術がどんなものなのかは見せてもらったけど、賜学の兵器は見せていなかったな。
「……ジェアル、それなら賜術でも戦えるところを見せてあげるよ。……でも、賜術みたいに火そのものをコントロールしたりはできないから……。そうだね、少なくとも身を守れて、逃げることができれば懸念はなくなるんでしょ? 今から外に出て、2人の賜術を全部かわしてみせれば納得してくれる?」
「……まぁ、どのみち医術会に頼ってみるという方針は変わらないと思うが……。うまくいかなかったときの立案のための判断要素にはなるか……。しかし、本当に大丈夫か? 俺たちと違って生身だ。少し被弾するだけで相応のダメージを負うが……」
「賜学の装備はそんなにやわじゃないよ。それに、当たらなければいいんだから。ダルタさん、少し外に行ってくるけど、いいよね?」
「……問題ないと思うが、気を付けるんだぞ」
ダルタさんも許してくれたので、僕たちは外へ出た。
*
僕たちは家の外の広々とした場所まで来た。自分で出した火は自力でほとんど消せるらしいが、一応草木の少ないところへ。
「それじゃあ、俺が炎で攻撃するから、それを全部避けてみてくれ。それができれば、問題ないだろう」
20メートルほど離れた位置に立つジェアルが言う。ちなみに、オリクレアは参加しないらしい。なんでも、凍らせることはできても、それを溶かすのは苦手らしいのだ。
ジェアルの火で溶かせばいいと思うのだが、賜術は他人の賜術には作用しにくいらしい。一体どういう原理なのかさっぱりわからない。不治の病と共に、賜術についても研究を進めてほしい。
「それじゃ、始めるぞ!」
そうこう考えていると、ジェアルは開始の声とともに、自身の手の前に人の頭ほどの炎を発生させた。炎はそのまま僕の方へと直線的に突っ込んでくる。
これなら、目視で避けられる。そう思ったのだが……。
僕の胸の前まで迫った炎は3つに分かれ、1つはそのまま直進、2つはそれぞれ左右に分かれて進んだ。
これでは、左右に避けるというもっとも簡単な動作では被弾してしまう。頭部や下半身ならば、屈んだりジャンプしたりすれば躱せるだろう。しかし、体幹はずらしにくい。
……あ、ダメだ。
直進する炎を直前で右に躱そうとした僕は、見事にジェアルの目論見通りに動いてしまったようだ。炎の1つは僕の胸部でぼうっと音を立ててはじけた。熱気が顔まで届く。顔は装備で覆っていないため熱かった。
「マディエス、大丈夫か!?」
ジェアルが慌てて叫んだ。しかし、問題ない。賜学の装備は熱にも強い。今ほどの火力なら、地肌に当たらなければ問題はない。これで、賜学の装備の強度は十分だとわかるだろう。しかし、完全に油断してしまった。これでは、足手まといだと思われるのも仕方がない。
「大丈夫! ほら、キズ1つないよ」
そういって手を広げてみせる。でも、これではジェアルの懸念は晴れないだろう。だから、もう1回やらせてもらうことにする。
「けど、今は油断したから当たったけど、避けることもできるってちゃんと見せるから、もう1回やろう」
「……本当か? ……確かに、俺の火力を防いだくらいでは正直安心できないな。俺も全力じゃなかったが、賜術士の火力はもっと上だ」
「わかった。もう1度試してみよう。でも次当たったら……いや、どのみち方針を変えることはないから、特に何もないな……。まぁ、そうだな。フラメリアルでは、なにより目立たないように気を付けてくれ」
いまはありていに言ってただ力試しをしているだけだ。なにかに影響するわけでもない。それでも、自分の実力はちゃんと評価されているほうがいい。
そう思い、僕は目を閉じて集中する。音からも意識を逸らす。ジェアルが開始の合図をするだろうが、それも僕の耳には届かない。周囲の状況を把握するのに、光も音も、必要ないのだ。
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