第4話「情報のまとめ」

 話が付いた後、トソウさんはさっさと家から去ってしまった。いったい何の用件で来たのやら。ダルタさんも、その後自分の部屋へ行き、それきりだ。


 僕とジェアルとオリクレアは、自分たちで共有した情報をまとめることにした。



 *



 まず、賜学しがくについて。賜学とは、僕たちの集落で用いられている学問だ。高度の科学技術であり、病気や怪我の治療、軍事における武器や防具、情報管理や建築なんかにも用いられる、汎用性の高い技術だ。


 次に、賜術しじゅつ。これは、ジェアルたちの社会では当たり前の技術のようだ。端的に言えば、火を熾したり、ものを冷やしたり、肉体を強くしたり病気を治したり、というのを道具を用いずに行えるらしい。


 実際に見せてもらったが、本当に手から火や冷気を発していた。どういう原理なのかは、教育を受けていない2人にはあやふやなようで、体内で生成される『原動力』というものを操っているらしいが、感覚的なことしかわからないそうだ。


 ちなみに、髪の色は賜術の属性に依存するらしい。火を操れるジェアルの髪は赤、冷気を操れるオリクレアの髪は水色、といった具合に。ということは、僕にも原動力とやらを操って火を起こしたりできるかもしれない。感覚による部分が大きいとかで、全然できる気はしなかったけど。


 そして、彼らの国についても教えてもらった。国というのは、集落がたくさん集まって、さらに大きな集団になったようなものらしい。僕たちの集落よりきっとずっと大きいのだろう。


 彼らは、フラメリアルという国の北側の田舎に住んでおり、この集落はさらにその北の山にあるとか。そして、国はフラメリアル1つではなく、東にサンディアル、西にケミアル、南にコロドニアルという、合わせて4つの国があるそうだ。


 4つの国は50年前まで戦争をしていたが、今は終戦し『賜術連合国』という1つの国になっているらしい。……集落が集まって国ができ、国が集まってさらに大きい国になるとは、生まれてからずっとこの集落にいる僕にはよくわからなかった。


 最後に、これから攻略しなければならない課題でもある、この集落について。この集落は、5つの部門に分けて統治機構が形成されている。その部門とは、『密事』、『軍事』、『人事』、『政事』、『研究』の5つだ。それぞれの部門に指揮者である権者が居り、その5人の権者による決定が、この集落の意思だ。


 五権者会議では、議題は提案した権者以外の二権者の賛成で可決される、つまりは多数決。密事権者はダルタさん、研究権者はトソウさんと親しいメゾメルさん。だから、ダルタさんが賜術の国の不治の病の研究をするという議題を出し、メゾメルさんが賛成してくれるとすれば、最低あと一権者が賛成してくれれば、僕たちは賜術の国に行くことができるということだ。


 正直、賛成する権者がいるのかは不安だ。ダルタさんの反応からして、権者たちは賜術の国の存在を知っているのだろう。それなら、集落より大きな基盤である国に帰属しない理由はないはずなのに、僕たちは山の中の集落に隠遁している。ダルタさんの反応を鑑みても、意図的に接触を避けてきたとしか考えられない。あるいは、ダルタさん以外の権者も賜術の国の存在を知らないのか……。


 まぁ、まとめる必要のある重要なことはこれくらいだろう。他にも、『賜術連盟』や『使徒』のことも聞いたし、集落のガラス工芸や『王家』の話もしたけど、いま必要な情報ではないため割愛。



 *



 と、いくつかの情報を共有してきたのだが、その中で重要なことではないがとても衝撃的だった情報がある。それは、ジェアルたちの年齢だ。14歳の僕も周りより小柄で、そんな僕より背の小さい彼らを、僕はせいぜい13歳ほどで、何にしても年下だと思っていた。


 だけど、実際は彼らの年齢は、20歳だった。どうみてもそんな年齢には見えない。本当だとしたら、敬語を使うべきなのは僕になるし、いまさらこの見た目の2人に敬語に切り替えるのはやりにくい。絶対なにか理由があるはずだと思ったが、やはり理由はあった。そしてそれはやはり、賜術によるものだった。


 彼らの寿命は、200歳ほどらしい。賜学による医療がある僕らの集落でも、150歳まで生きれば規格外の長命だ。


 しかし、彼ら賜術の国の人々は、医療を受けなくても200歳くらいまで生きられるものらしいのだ。それは医療のなかった大昔から変わらない。賜術により怪我は度合いによるが即座に回復するし、そもそも体が頑丈で、怪我自体そうそうしないらしい。


 また、病気にもかかることがまずないようだ。体内に病原菌が入っても、原動力により発症する前に滅せられるし、発症しても動けないほどにはならない。


 もっとも、50年前まで戦争が続いていたこともあり、そこまで長く生きている人は多くないらしいが。


 正直、髪の色で彼らに共通点を見出していたが、僕に彼らのような便利な体質はない。もしかしたら、全くの無関係という可能性もあるのだろうか。


 ……いや、今考えてもわからないな。わからないから調べたいのだから、無関係だとしてもそれはそれで1つの答えを得れるのだから問題ない。


 なんにしても、どうやら僕たちと彼ら賜術の国の人々は、根本的に生物として異なっているようだ。僕たちの外見の年齢を基準にすると、だいたい13歳まで普通に成長し、そこから20歳ほどまではあまり変化せず、その後数年で成人体格まで成長し、それ以降は緩やかに衰えていくらしい。


 つまり、いま20歳の2人は、今後数年で一気に僕より大人になるということだ。今後どういう付き合いになるかは全く分からないが、とてもやりにくい……。


 もっともジェアルと、オリクレアは渋々っぽい態度だったが、敬語を使わなくていいと言っている。なので、それに甘えさせてもらうとするかな。



 *



 情報をまとめ終わった僕たちは、とりあえず今後について決めることにした。ダルタさんもその日全く部屋から出てこなかったというわけではなく、しばらくして出てきたので、4人で今後について話し合った。


 まぁ、話し合った、といえるほどたくさん取り決めをしたわけでもなく、ジェアルたちは認可をもらえるまではうちで暮らすことになったことと、いきなりだが明日、五権者会議で不治の病の研究を申し出ることとなった。

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