RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~
5 鳳凰暦2020年4月10日 金曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校占有・平坂第7ダンジョン――通称、小鬼ダンジョン、1層(1)
5 鳳凰暦2020年4月10日 金曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校占有・平坂第7ダンジョン――通称、小鬼ダンジョン、1層(1)
今日は素晴らしい日だ。なぜなら、初ダン日だからだな、うん。
小学校1年生の時に、この世界がDWの世界だと気づいて9年。待ち焦がれたこの日。
午後の授業は初のダンジョン実習なのだ!
……とはいうものの、このダンジョン実習では、ゴブリン1匹、が目標。うん。
でも、この実習を終えたら、とりあえず小鬼ダン――ヨモ大附属が占有している、ゴブリン系統しかポップしない、3層構造の平坂第7ダンジョン――は、ほぼ自由に入れるようになる。もちろん授業中にサボってとかはダメです。
そんなことを思いながら、教室で大人しく座って、授業はまじめに取り組み、休み時間は読書ぼっちで午後のダンジョン実習を待つ。
……え? なぜぼっちなのか、だと? それを知りたいというのか。それは――。
実は昨日の高校生活の2日目。1時間目のロングホームルームでまずは自己紹介から。
座席の位置のせいか、なぜかトップバッターだった僕。
「鈴木彰浩です。よろしくお願いします」
シーン…………。
ええ? 拍手とかないの? するでしょ、普通?
「……なあ、鈴木」
「はい」
「それだけか?」
「はい」
「いや、なんか、あるだろ、趣味とか、出身校とか、特技とか、抱負とか」
「……いえ、特には」
「そ、そうか……す、すまんが浦上、こう、なんだ、手本ってヤツを見せてやってくれ」
「はい」
弓ヒロインの浦上さんが立ち上がって一礼。顔を上げてにっこり笑顔。美人の笑顔ってすごいな。
「昨日は僭越ながらみなさんの代表として宣誓をさせて頂きました、浦上姫乃です。出身はF県の山寺市立寺前中学校です。中学校では弓道部に所属していました。この学校では中衛や後衛としてアーチャーを目指して頑張りたいと考えています。どうか、この3年間、よろしくお願いします」
ゆっくりと美しい所作で礼をする浦上さん。言葉遣いも昨日僕に絡んできた時とは違って、とても丁寧だな。
僕はパチパチパチパチ~っと全力で浦上さんへ拍手を送った。それに釣られて、教室全体からも拍手が鳴り響くようになる。さっきの僕の自己紹介の時とは違う。いい感じだ。
……うん。自己紹介には拍手だよな。うんうん。きっと、これでクラスのみんなが仲良くなれるはず。
そう思ったのに、なぜか礼を終えた浦上さんからすんごくにらまれた。なんで?
でも、それ以降の自己紹介には拍手が降り注いだ。うん。犠牲者は僕だけで済んでよかった。
その後のガイダンスでは、いろいろと説明があった。初心者のうちはダンジョンでの戦闘は5回だけ、なんて謎の制限の説明もあったけど。まあ、この世界なりにその理由はあるみたいだ。主にSP関係だな。
その説明の中には他にも、訓練場の利用についての説明があり、昼休みや放課後も使えるとわかったので、僕は滅茶苦茶テンションが上がってしまった。
そして、その時間が来ると、昨日ヒロインたちに絡まれた反省を生かして、ダッシュで教室を飛び出して訓練場を目指した。
初日に借りたショートソードを右に、メイスを左に構えて、ひたすら素振りを繰り返す。
放課後も暗くなるまで素振りをして、教室にカバンを取りに戻ると、黒板に『クラス親睦会はカラオケ『YOU and ME』に集合! 17時スタート! 道がわかんない人は鹿島まで!』と書いてあった。
ちなみに黒板の上にある時計は18時47分だった。もちろん教室にはもう誰もいない。
……いや、今から行っても無理だよな。そもそも、僕、カラオケとか、行ったことないし。特に歌に自信がある訳でもないし。お金、もったいないし。
あと、陰キャはカラオケなんかに行かないのが普通だろう。うん。そうだそうだ。
そう考えた僕は、そのまま家へと帰ったのだった。
――という感じで、今日は朝から、クラスの雰囲気がもうね、知り合いがいっぱいなんだな、これが。昨日までと違ってクラスに会話が溢れてるよ。全国から集まった他人のはずなのに、どうなんだろうな。
僕以外では、浦上さんとか、あと何人かが静かに教科書に目を通したりしているけど、こんな美人はぼっちでいてもぼっちに見えない。さすが弓ヒロイン……。
そもそも、誰がカラオケに参加したのかも知らないし、僕だけが行かなかったのか、他にも行かなかった人がいるのか、怖くて聞けない。聞く相手も、いない。たぶん。
だから、心を午後からのダンジョン実習に集中させて、テンションを上げるのだ!
そういう訳で、昼休みにはダッシュで教室を飛び出し、超早歩きで訓練場を目指しつつ、母の愛が籠った爆弾おにぎりを食べた。
訓練場では素振りでギリギリまでイメージを固めて、午後からの集合場所に遅れないように装備を整えて、小鬼ダン前の広場を目指す。
……あ。もうとっくにみんな、集まってる。僕が最後だ、これはまずい。でも、時間内だからセーフだよな?
これ、誰にも声をかけてもらえない、ぼっちの哀しみというものだろうか? ぼっちの放置? それとも痴呆のぼっち?
くだらないことで頭の中をぐるぐるとさせながら、僕はクラスの列の一番後ろに並ぶ。
「……全員そろったな。時間より少し早いが、始めようか」
僕がクラスの一番後ろに並んだの見た学年主任の先生がそう言うと、全体がシーンと静かになる。
……うう。遅れた訳じゃないのに、僕が最後に来て、それと同時にスタートしたら、なんでみんなを僕が待たせてたみたいな罪悪感が湧くんだ?
みんながこっちを見て、『おまえが遅いから……』って言ってるような気がする。誰もこっち向いてないけど。
「いいか、昨日説明があった通り、今日は全員ゴブリンを1匹、仕留めてもらう。附中ダン科以外の者はこれが人生初のダンジョン戦闘になるだろう。ただし、一人で戦うのではなく、附中ダン科出身者がタンクを務めて、もう一人が倒すようにするから安心しろ!」
附属中のダンジョン科出身の生徒は、もう既に中学校でダンジョン戦闘を経験している。
だから、今回は、他のみんな――推薦入試や一般入試で入学した僕たちみたいな生徒や、附属中普通科からの転科進学をした生徒――は、経験者にお世話をしてもらうってことだ。
「それと、ゴブリンを倒して魔石を手にした者は、ダンジョンを出て、この広場に戻ってもらう。ただし、一人で戻るんじゃなく、二人、初心者が魔石を手にしたら、附中の経験者が1匹倒して、3人で戻ってきてもらう。安全のためだから、経験者は帰りの世話もしっかり頼むぞ」
……ほうほう、なるほど。安全面も考えてるんだな。
「あと、人生初の魔石は、こっちのテーブルにいる業者が記念の指輪にしてくれるからな。附中ダン科の連中は懐かしいだろう? ダンジョンから出たらこっちのテーブルで申し込むように」
学年主任が指し示したテーブルのところにいる業種の人が二人、ぺこりと頭を下げた。
おお、なんというサービス精神。
確かに、人生初の魔石は、換金せずに記念品にするのはアリだろう。そもそもここの1層のゴブリンの魔石は換金しても百円なので、まあ、なんとも言えないんだけど。
「それじゃあ、1組から入るぞ! 先生について2列で進め!」
……くっ。学年総勢百四十名で4クラス、だから各クラス35名。僕は列の一番後ろ。2列になって進めば、最後尾の僕は一人。
そうか。ここでもぼっちか。どうでもいいけど。
前の二人は女の子、その前の二人は男の子と女の子だ。どっちも、仲良さそうにおしゃべりをしながら歩いている。いや、別に悲しくはないけど。
ダンジョンの入場口には、駅の自動改札みたいなのをごつくしたヤツが設置されている。小鬼ダンの入場口にはそれが二つ並んでいる。だから2列なのかもしれない。
ダンジョンカードをピタっとして、開いたゲートを通り抜ける。そして、そこからさらに2、3歩進めば、何か、表現しようがないもやっとした空気を通り抜けることになる。これが、ダンジョンと外との本当の境目だと言われている。
ゲームのDWでは、ちょっとした抵抗感があったぐらいだったのに、この世界では、もっと、体全体にまとわりつくようなぬめりを感じた。これがリアルダンジョンか?
ぞくり、と武者震い。うん。武者震いです。怖がってはないです。
軽く息を吐きながら、左足で風の簡易魔法文字を足元に、右足で火の簡易魔法文字を描き、スキル名を口にする。誰にも気づかれないように、小さく、小さく、囁くように――。
「アクセル……」
――足元から全身へと広がるわずかに温かい空気の感じ。心臓が早鐘を打つ。そして、スキル使用時の酔いしれるような万能感。
……使える! スキルが! マジか!
第1階位スキルで、すばやさ1.2倍のバフスキル『アクセル』が僕を包む。
これが! リアルになったDWのスキル! くぅ~っ! 楽しい!
やれる! ゲーム知識チートで!
僕は興奮を噛みしめるようにアゴに力を入れて、少し遅れてしまった前の女子二人との差を詰める。二人はまだ、おしゃべりに夢中だ。
20メートルくらい進んで、最初の分かれ道を右へと行くらしい。どっちでもいいけど。
僕は静かに長めの呼吸を繰り返しながら、耳は物音に集中させるように意識する。会話が聞こえてくるけど、それ以外の音が重要だ。ダンジョンで油断してはいけない。
「やっぱり鹿島くんかな?」
「えー、月城くんっしょ? どう考えても」
「そうかなー、なんか、目つきが怖くない?」
「ないない」
……いやマジで、くだらない話、してますねー。
そして、僕たち、最後尾も、最初の分かれ道へと差し掛かる。その瞬間――。
かさっ……。
――わずかな、ほんの小さな音が、左の道から聞こえた。
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