1 プロローグ 少年はヒロインたちと出会った。だが少年はダンジョンを望んだ(3)
国立ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科の入学式の日。クラス分けで1年1組になった。1組で良かった。4クラス分も名簿を見るとか面倒だし。
教室の前の座席表で、廊下側の1番前の席に名前を発見。鈴木が1番の位置とか、座席って名簿と違ってあいうえお順じゃないんだな。みんなの名前、覚えるのに苦労しそう。最初は名前順にして、名前を覚えた頃に席替えすればいいのに。面倒な。苦手なんだ、名前、覚えるのは。
座席表を見ていると、ひとつ後ろの席に浦上姫乃の名前を発見。入学前経歴、F県の山寺市立寺前中学校。保育園や幼稚園、小学校は不明。『弓姫』となる主人公パーティーメンバー候補で、アーチャーだ。DWの三人目のヒロイン。
赤茶の髪を後ろでひとつにまとめて流す。瞳は茶色。身長は百七十二センチと女子にしては高めで、鼻筋の通った美人タイプ。
ちなみに聖女ヒロインは僕の席の隣の隣。教室中央右側の一番前だ。教卓前は意外と先生に気づかれないポジション。そして、侍ヒロインは窓側の一番前。季節によって暑かったり寒かったりしそう。
もう学園に入ったんだから、ヒロインたちとほんの少しくらいは絡んでも大丈夫なのかもしれないけど、主人公を中心とするみなさんにはいろいろな苦難をしっかりと乗り越えてもらわないと困るので、鈴木という名のモブとしては可能な限りスルーでいきたい。僕は僕でダンジョンをひたすら楽しむのだ。くくく。
指定された席に僕は大人しく座って、読書をしながら待つ。
人が集まり、教室の中央では会話が広がり、ざわめきが起きる。おそらく附属中の出身だから、知り合いなんだろうと思う。好きにしてください。
一瞬だけ、本から顔を上げて、弓ヒロインはまだかな、とちらりと後ろをみるけど、いない。しばらくすると、弓ヒロイン以外は全員座って、教室には空席がひとつだけ。
どうしたんだろうか、と思っていると、先生と一緒に、弓ヒロインが入ってきた。入学初日に転校生なのか? そんな馬鹿な? でも、おお、やっぱり美人。さすがは弓ヒロイン、と思った瞬間、切れ長な弓ヒロインの茶色の瞳がキッと鋭く細められた。
……あれ? 僕が、にらまれた、ような? なんで?
なんだか不穏な空気を感じたけど、僕の横を抜けた弓ヒロインが後ろの席についた。前で紹介されなかったから転校生ではないらしい。そりゃそうか。
教壇のところに立った先生が、入学式会場への入場の仕方を説明して、座席の順に廊下に並ぶように指示を出した。今、教室で座っている縦並びの状態が、入学式会場のパイプ椅子では横並びになっているらしい。
僕のポジションは新入生の最前列の一番右だそうだ。しかも、会場へ一番に入って、最後に出るらしい。入場については僕が間違ったら、後ろの人は全部間違うようなので、頑張ろう。
拍手が溢れる中、無事に入場して、ダンジョン科の入学式が始まる。
お偉いさんのあいさつの中に、ヨモツ大学の学長さんとか、文部科学省の局長さんとか、経済産業省の局長さんとかがいるのが、国立ヨモツ大学附属高ダンジョン科の凄さかもしれない。普通は校長とかが一番上じゃないかな?
「新入生代表、宣誓。新入生代表、浦上姫乃」
「はい!」
僕の隣に座っていた弓ヒロインが元気よく返事をして、立ち上がる。
……ああ、新入生代表だから、先生と一緒に教室に来たのか。なるほど。練習とか、宣誓文の確認とか、してたんだろうな。
壇上に上がった弓ヒロインが堂々と宣誓を終えて、拍手を浴びながら戻ってくる。うわあ、超目立つ。断って正解だった。美人な弓ヒロインならいいけど、モブな僕では痛い視線が集まりそうだ。
パイプ椅子の前で弓ヒロインが回れ右をする、その一瞬。茶色の瞳が鋭く細められる。
……あれ? また、にらまれた?
一度も、入学前は会ったことはないし、今のところ、一言も、会話したことがない。にらまれる覚えはないし、そんなはずがない。
……気のせい、だよな?
なんとなく、不安な気持ちになりながら、入学式を終えて、退場する。退場時は、僕が一番最後に出る。弓ヒロインの背中を見つめながら。会場を出る寸前、回れ右をして、深く礼をする。最後に出る生徒の役割だと事前に先生から言われていた。
礼をすると、拍手がより強く、大きく、会場内に響いた。
教室に戻るまでにちょっとした騒ぎがあった。誰かが倒れたらしい。式典とか、朝礼とかなら、よくあること、かな? パイプ椅子があったから貧血とかではないだろうし、体調がもともと悪かったのかもな。ま、別のクラスの人みたいだけど。
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