1 プロローグ 少年はヒロインたちと出会った。だが少年はダンジョンを望んだ(2)
そして僕は平坂市立平坂北中学校に進学し、附属中へ進学した聖女ヒロインとは中学校が別になった。もともとほとんど関わりはないけど。5年から届くようになった年賀状くらいの関係? しかし、今度は――。
「やっぱり、いるのか……」
同じクラスに、設楽真鈴を発見する。『侍』となる、ヨモ大附属での主人公パーティーメンバー候補の前衛で避けカウンタータンク。入学前経歴、げんき保育園、平坂市立柿不喰小学校、平坂市立平坂北中学校。濃紺の長い三つ編みお下げと、前髪にちょろりとアホ毛。同じく濃紺の瞳。文系の見かけなのにスポーティーというギャップの剣道少女。そばかすさえもカワイイ、二人目のヒロイン。
もちろん、クラスメイトとして最低限の、あいさつ程度の関係で、基本的にスルーだ。ヒロインと中学校でお付き合いしていましたー、なんて、そんなことは考えてもいない。そんなことよりお金だ。
朝は新聞配達のアルバイト。もちろん、全部貯金。基本的に休刊日以外は全部頑張る。元旦も、だ。中学生がアルバイトなんておかしい? そんなことはない。聖女ヒロインが年賀状配達のバイトしてるの見かけたことがあるからな。新聞配達の帰りにウチの郵便受けに入れてるトコ、この目で確実に見たからな。
あの子、名家のお嬢さまのはずなのに、名家だからこその修行か何かなんだろうか? 厳しい家で育ったから、附属中で3年間首席だったのかも。
1年生の1学期中間テストでは5教科五百点満点で学年トップとなった。
その情報がクラスメイトたちに知られて、それからは定期テスト予想問題を作成、販売して稼ぐ。よく当たると評判で、現金がなければ読み終わったマンガ、やり尽くしたゲームなどでの支払いもオッケー。ありがとうブック○フ。いろいろとトラブルもあったけど、これで大きく稼げた。
小学生の頃とは違って、定期テストや実力テストで学年トップクラスを維持すればお小遣い三千円、という約束を母、祖母と個別に結んで個人的ダブルインカムで稼ぐ。
小学校の時の百点百円の延長だ。これは粘り強い交渉で中2では五千円、中3では一万円にランクアップさせた。難しくなるからですね、当然でしょう。塾に行かずにこの好成績なんだから、保護者として納得してほしい。お金ぐらいは。
もちろん、自動販売機を見かけたら釣銭忘れは必ずチェックするのは変化なし。小銭なめんな。
中学校といえば部活動。ダンジョン関係で将来性があると考えられる剣道部は侍ヒロインがいるので残念ながら避けて、割と短時間集中の活動だった陸上部に所属し、基本的な身体能力をしっかりと鍛える。
そんな日常で僕についたあだ名は最速の守銭奴。なんで?
守銭奴と言われたせいか、僕が金を持ってるという噂が流れ、校舎裏で怖い先輩にカツアゲされそうになったこともあるけど、僕は全力ダッシュで逃げ切った。もちろん職員室に駆け込んで先生にチクりましたとも。ざまあ。
修学旅行のお小遣いも、1円たりとも使わない。思い出? 何それ? 金になんの?
班別自主研修という名の自由行動では、班のメンバーが寺社仏閣に入ってから出てくるまで外で一人だけ読書待機。
昼食の時も、ホテルの朝食でおかわりをして用意した手作りおにぎりで済ませて、店の外で一人読書待機。
ホテルに戻った夕方には班長だった女の子がガチでキレててちょっと怖かった。僕のせいだというのだろうか。よくわからない。
もちろん、家族へのお土産は買わなかった。妹にジト目で見られたけど。
侍ヒロインとの最接近状態は中3での2学期中間テスト。このテストは時期的に推薦入試に影響が大きい、らしい。
中3のクラスは別だったけど、侍ヒロインがテストの予想問題を買いに僕のクラスまでやってきたから関わるハメに。「鈴木くん、噂の予想問題、売ってほしいんだけど」「どれ?」「社会と理科」「ひと教科五百円。ふたつで千円」「……マンガとかでもいいって聞いたんだけど?」「千円分の価値があれば」「えっと、これ……」と恥ずかしそうにマンガの単行本を十二冊ほど、紙袋ごと差し出す侍ヒロイン。
汚れなどがないか、発売日はいつか、チェックしようとパラパラと開いたら「うわーっ、見ないで!」「は? 汚れとか、買い取り価格に関係するし」「えー……」と、侍ヒロインのそばかす顔が赤い。くそ、そばかすカワイイぞ、コラ。
ちょっとエッチなラブシーンもある少女マンガ『ドキ☆ラブ ダンジョン学園 ~ラブ・クエスト・モーニング・キッス~』全十二巻は、男子に見られるのは恥ずかしいらしい。僕からすると金になるかどうかが全て。
パラパラと中身を確認しながら、「……誰にも言わないでよね?」「うん」「絶対だからね?」「うん」と生返事で流していると、「絶対に秘密だから!」と言われて秘密の共有みたいなことになったのは誤算だったけど、十二巻完結のセットでしかも人気作らしくて、高めで売れたのは幸運だった。ありがとうブ○クオフ。
もちろん、売る前に家で一度は読破した。成人指定ほどではないけど、最終回では夜中にベッドインしてバージンロスト、朝チュンでキスとかもしてたし、そこにいたるまでの過程でも最後まではいかないムニャムニャが結構あって、中学生にはかなりエッチな感じだったのでドキドキしたのは一生の秘密だ。体は中学生でも中身は大人なのにな。
さらには廃品回収で見つけたこのマンガのノベライズを読んで、売らずに部屋の本棚に残しているのも内緒だ。たまに気分転換に読んでいる。文字情報って、すごい……。マンガで視覚化されたイメージが脳内にあるから余計に……ごほんごほん。脳内アニメが放映されたりしてません。はい。あくまでも夜の、ちょっとした気分転換です。
侍ヒロインは剣道で2年連続全国大会出場、3年で個人全国ベスト4の3位という剣豪女子。準決勝は大接戦で、負けたけどその相手が優勝した。その実力は日本一と同等という噂。侍ヒロインは推薦で国立ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科へと進学した。一芸って大事だな。
僕は一般受験で、筆記はトップクラス、スポーツテストも好成績で、およそ三百倍という倍率を突破して無事に国立ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科に合格した。
入試の合否はともかく、なぜトップクラスだったというその内容がいち受験生にわかるのか、と? 当然の疑問だろうと思う。
まあ、単純に、3月の卒業間際に中学校へ電話連絡で新入生代表あいさつだか宣誓だかの打診があったから、たぶんトップか、トップクラスの成績だったのだろうという訳だ。もちろん、代表なんて目立つのは嫌なので校長先生に言われた瞬間にコンマ秒で断った。高校へお断わりの連絡を入れた校長先生が「断られたのは初めてだと言われたよ、鈴木くん。もったいない……」と言っていたので、ひょっとしたら入試はトップなのかな、と。
母が命の危険がある附属高のダンジョン科への進学にはかなり強くいつもの長い話で反対したけど、最終的には僕の百万円を超える金額を刻んだ預金通帳を示しつつの、安全性を高めるダンジョン攻略プレゼンを聞いて、母はぽかんと口を開けて屈服して折れてくれた。心が。「本当に似た者母子だよ」と父がフォローしてくれたので、うやむやになったけど。でも、心配してくれてありがとう。感謝です。それでも、僕は行きます。そのために9年間も準備してきたんです。
こうして僕はリアルとなったDWの舞台に立つ権利を手にした。
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