RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~
相生蒼尉
第1章 『RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~』
1 プロローグ 少年はヒロインたちと出会った。だが少年はダンジョンを望んだ(1)
ゲーム知識チートで生きる。
僕がそう考えたのは、ここがVRMMOアドベンチャーRPGであるDW――ダンジョンズワールドの世界だと気づいたからだった。
前世で、いつ、どのようにして死んでしまったのか、は、思い出せない。
それなのに、自分が暮らすこの町の名が、『平坂市桃喰町』であると知った小学校1年生入学時。頭の中に流れ込むように、小学生よりも大きな姿をした、従姉のはるかちゃんくらいの人たちの学生生活がスライドショーのように浮かんだ。思えばこれが前世の記憶のオープニングのようなものだったのかもしれない。
はるかちゃんは当時、高校生だった。だから母に尋ねた。
「ねえねえ、かあさん。ボクのうちからいちばんちかいこうこうって、どこ?」
「アキヒロは気が早いのね。高校生になるのはまだ何年も先なのよ?」
「うん。それくらいしってるよ! それで、いちばんちかいこうこうはどこ?」
「国立のヨモツ高校が駅の北側、平坂山の方にあるね。レベル、高いみたいよ。有名な高校だからすごいところだけど、おかあさんが思うにアキヒロには関係ないかな。ある意味では有名な人が卒業生の中にはいるけど、アキヒロは有名人になりたい訳でもないでしょう? おかあさん知ってるもの。なりたいのは犬のトレーナーさんだったよね? だからもし高校生になる時は、家からの距離とか遠慮しないでどこを選んでも大丈夫だからね。近い必要はないわよ? 全然ないわよ」
「かあさん、ぼく、まだいちねんせいなんだけど……」
という返答の途中で、一気に前世の記憶の一部がリロードされたのだ。
――国立ヨモツ大学附属高等学校。平坂ダンジョン群直近に建設されたダンジョン科のあるダンジョンアタッカー育成校。DWのチュートリアルと基礎ステータスアップとジョブ獲得のために最初の3年を過ごすところ。本当にゲーム時間としての3年ではないけど。
実際には……いや、実際じゃなくてゲームでは、授業とかテストとか行事とかはクイズゲームとか格闘ゲームとか横スクロールの走りゲームみたいなミニゲームの形で終わりだし、いくつかのイベントといくつかのダンジョンをNPCとパーティー組んでクリアすれば卒業で、在学中にジョブを手にしてチュートリアルを終えて、『……巨星は堕ち、そして、ダンジョンアタッカーたちの群雄割拠の戦国時代が始まる!』というナレーションで世界各地のダンジョンに挑むMMORPGの舞台に飛び出していく。そこからが本番。
「マジか……」
「え? どうしたの、アキヒロ?」
「あ、ううん。なんでもないよー、かあさん」
あはは、と母には笑ってみせながら、僕は心の中で真剣に考えた。
……ここがDWの世界なら、ひょっとして、同じ学校に、彼女がいる、のか?
平坂桃花。『聖女』となる、ヨモ大附属での主人公パーティーメンバー候補の一人。入学前経歴、私立イザナギ幼稚園、平坂市立桃喰小学校、国立ヨモツ大学附属中学校ダンジョン科。かつて華族と呼ばれた旧名家である平坂家の分家の三女。もちろん、カワイイ。ただし、普通の女の子っぽい外面を見せているのに、実は丁寧語のお嬢さまが本性という二重人格みたいなキャラ設定は、プレイヤーには賛否両論だったヒロイン。
当然、翌日に。小学校入学2日目ではあるけど、校内を探し歩いた。
各教室の入り口の扉の窓に、クラス名簿と座席表が貼ってある。昨日から、まだ剥がしてないのだろう。そして、隣の隣のクラスの名簿、1年4組で、平坂桃花の名前を発見。見つけてしまった。僕は1年2組だった。
教室を覗いて、きらきらでさらさらなストレートの黒髪でちょいと長めのボブ、ぱっちり黒目のお人形さんみたいな純日本的美少女を目撃した。あ、これ、間違いない。
……いたよ……しかも、同学年だよ。完全にタイミングもDWとカブってる。
しかし。ここで、ヒロイン級の女の子と幼馴染関係になって……なんてことは考えない。
でも、ここがDWの世界なら……。
勉強と運動は重要だけど、まずはお金を貯めないと! アイテム用に!
それが僕の基本方針となった。DWのためなら、いくらでも努力ができそうな気がする。
河川敷での早朝ランニングと、ダッシュ。これを欠かさず。毎日。
勉強は授業をちゃんと受けて、図書室や図書館で知識を増やす。小学校の間はかなり簡単でも、それで油断すると中高とレベルが上がってついていけなくなるのは困る。
お年玉は全部貯金。毎月のお小遣いも貯金。時々もらえる親戚からのお小遣いも貯金。
父、母、伯父、伯母、祖父、祖母のお手伝いや肩もみとかで、小銭を稼ぐ。
廃品回収でマンガなんかを発見したらこっそり個人回収。父や母ではマンガの出処が問題になるので、両親が忙しい時を狙って、伯父に頼み込んで古本屋で売却。やや犯罪行為だけど、ここは頑張りどころ。ごめんなさい。よいこはマネしないでね。
自動販売機を見つけたら釣銭忘れをチェック。見つけた小銭は回収。
誕生日プレゼントとかクリスマスプレゼントとかは、できるだけ現金を要求するけど、現金はちょっと……とか言う伯母からは高値で売れそうなゲームとかをもらって売却。伯父がすんごい微妙な顔しててもそこはスルーで。あ、一応、1回は遊んでから売ります。最低限の礼儀として。
学校生活では、二度、小学校3年と5年で聖女ヒロインと同じクラスになったけど、ほとんど会話することもなく安定のスルーで。
そんな聖女ヒロインとの最接近状態が5年の林間学校でのカレー作りの班が一緒だったこと。ただし、会話は「鈴木くん、たまねぎ、切れた?」「うん」「涙出なかった?」「うん」「ありがとう」で、おしまい。たぶん、カレーを食べる時の「いただきます」は会話ではないと思う。ひょっとしたら、僕は「うん」としか言ってないので、それも会話とは呼べないかもしれない。その程度の、関係。
気づけば6年間、運動会では毎年リレーの代表選手になるくらいは足が速くなったし、6年では先生から中学受験はどうか、と言われるくらいに勉強も頑張った。というか、小学校レベルの勉強は前世で大卒の記憶持ちには簡単過ぎた。
小学生向けの学校のテストで百点とったら百円、という細かい小遣い稼ぎも母と祖母の二股で倍稼いだのは美味しかった。母性での甘やかしに感謝です。
ただ、母はやはり母。甘やかすだけではない。
「アキヒロ、いつもはあんまりしゃべらないのに、ダンジョンのことになると、びっくりするくらい長くしゃべりだすでしょう? おかあさん、本当は、ダンジョンに入るような仕事には就いてほしくないけど、附属中からそれを経験することで、早目にアキヒロが自分に合った仕事かどうか、考える機会になればいいのかなって思うのよね。その方が進路変更も簡単だし。おかあさん、先生に聞いて調べてみたけど、厳しい附属高と違って、附属中なら、すごく安全に配慮して、ダンジョンに入れるのよ。1年生なんて、夏休みまでいっぱい訓練して、それでやっとのことで、ダンジョンに入るんですって。ほら、ダンジョン、ダンジョンって言ってるだけのアキヒロに、そんなの耐えられるの? それでもいいなら、附属中だけは、行ってみてもいいと思うの、おかあさんは。どう、アキヒロ?」
1学期の面談で先生と話した母が、応援しているのか、否定しているのか、どちらか判断がつかない言葉を夏休み直前の夕食で長々と話し出したことは一生忘れないと思う。
ただ、附属中ダンジョン科からのスタートだと、まだアイテム用の貯金が足りないので……ゲーム知識にない附属中でのスタートダッシュを選ぶか、ゲーム知識が活かせそうな高校受験を選ぶか、で、半年ほど悩んで、高校受験に賭けることに決めた。
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