第31話 情報と、ちょっとした絶望

 現場に到着、例の公園。

 認識阻害シートを全員がかぶり、京都行政中央管理センターを囲むように配置についていく。


 連絡通路へたどり着く。

 他の部隊は、他方面の連絡通路と地下道へ潜る。

 この周辺は、地下道にもセンサーやカメラがあり。潜るなら、現場で再び降りるしか出来ない。まあどこに行っても警戒網からは逃げられないけれど。


 連絡通路脇で、拠点を設置。

 拠点に控え。部隊に指示を出していると、ふと彼女のことを思い出す。

 だがあの時。俺の顔は、別人だったはず。今、会ってもきっと気がつかないだろう。


 そんな勘は当たる。

「連絡通路警戒中、女を一人捕縛したそうです。職員だと思われます。どういたしますか」

「連れてきてくれ。部署によっては、案内をしてもらおう」

「はっ」


 噂というか、フラグというか、まあこういうこともある。

 こんな時間まで、仕事する人間は少ないからな。

「あや」

 と言いかけて、口を 噤(つぐ)む。

 

 その違和感に、静流が反応する。

 上から下まで彼女を眺めると、ボディチェックを始める。

 妙に念入りに。

「ふーん。まあ良いわ」

 満足したのか、静流が離れる。

 心持ち、文子。彼女の顔が赤い。


 周りを囲まれ、身体検査を受けているけれど、この女の人。女が好きなのかしら、妙なところに微妙に触れる。彼との一件があってから、私の体は若返ったように敏感になっている。反応しちゃう。文子は必死で、明日の予定を頭の中で反芻する。


 やっと、離してもらえた。


「失礼。職員の方?」

 側に居た、随分若い男が聞いてくる。

 本当に若い。レジスタンスも人手不足なのかしら? どう見ても未成年?

 でも、この空気感。

 戦場に、身を置くせいか、纏う雰囲気が似ている。

 じゃあ、あの人も、近くに居るのかしら?


「失礼。質問をしているのだが。素直に答えてくれれば、ありがたい」

 だが、文子は自分の思考の中に沈んでいる。反応が無く、何かを考えているのが分かる。

 流生は仕方ないと、軽く頭を振る。


 文子の頬に両手を添え、彼女に問いかける。

「文子。君が何に思いを馳せているかは分からないが、こっちを見て、質問に答えてくれないか」

 この時、気を巡らせ記憶を呼び覚ませる。


 文子の中に、彼とのたった一度の、夢のような体験がよみがえる。

 ふと、気がつくと、自身の頬に手を当て、真っ直ぐに見てくる男の子。

 その子の瞳を見る。

 纏う空気、手から伝わる暖かさ。

 これは知っている?


 距離感と、温度。

「あなた……」

「失礼。質問に答えていただきたい」

 目が離せない、彼とは全然違う。でも、私の体が喜んでいる。探し求めた物を見つけたように。あなたなの? 彼は。


「いいかな?」

 質問しようとした、彼の言葉を遮る。


「すみません。一つだけ良いでしょうか?」

 そう聞かれて、流生は彼女のIDカードを手慰みながら答える。

「なんだ?」

「あなたは、彼なの?」

 そう聞かれても、流生は否定をしなかった。


「どう思う? こっちとしては、君の協力が欲しい。それ次第かな?」

 あなたは彼で、話が通った?? じゃあ。やっぱり。


 今度会ったら、騙したことを責めて、一発ぐらい、頬に張り手をして。

 最初はそう思った。


 でも次第に、今度会ったら嫌というほど、抱いて貰おう。

 そう思うようになり、ずっと彼のことを思い続けていた。


 でも急激に、記憶は薄れ、体の記憶ばかりが残るのみ。

 自身で、慰め。大きさを。深さを。思い出そうとしたが、それも薄れていく。努力をしても駄目だった。

 それがさっき。急に。霧が晴れたように、思い出された。


 彼が触れた瞬間。


 体がきっと、彼を覚えていたとしか思えない。

 文子は、当然。彼の申し出を受け入れる。


 そのすぐ脇で、静流達が、ニヤニヤ顔で見ていたことに文子は気がつかなかった。

 その顔に、彼女が望んだ答えが書いてあったのに。


 彼女が見つめるのは、ただ、流生の横顔。


 でも本当に彼なら、子どもみたいな彼が、あんな。

 きっと童顔なだけで、年はきっと近いはず。

 じゃないと、色々私の心が。お父さんの方が年が近ければどうしよう。


 作戦を進める流生達の脇で、ぽつんと座り。放置されているうちに、どんどん考えは絶望? へと進んでいく。


 ――えっ。私ってば、ひょっとして、淫行したの?――

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