第25話 侵入計画

「問題はだな。目的が、敵の本拠地。どうするよ」

「「「任せた」」」

 中根を除く全員が、中根に向けて言い放つ。


「うぉい。何だよ。その見事にそろった答えは。一瞬任せとけって、言いそうになったぞ」

 中根君お冠。


「いやだから、行って良いよ」

 俺が言う。


「さすがの俺でも、キツいな」

 中根君。腕組みまで始める。


「なんだ。普段あれだけ言っているのに、出来ないのか」

 俺がさらっと言う。


「いや。そりゃ。どうしてもと言うなら、行かないことも無いが」

 言質はとった。

「「「じゃあどうぞ」」」

 皆がそろう。


「おまえなあ。去年はあんなに、素直でかわいかったのに」

 そう言った瞬間。

 中根の顔。すぐ横を、ナイフが通り過ぎる。


「すまん。手が滑った」

 当然言ったのは、静流。


 硬質の壁。金属が入っているはずだが、ナイフは根元まで刺さっている。

 スタスタと歩き、柄を握り理解する。

 ああ、そうか。気を纏わせて投げたのか。

 静流は鼻息荒く。今も全身から、気が吹き出している。


「流生の教育係は、私なんだが。何か文句でもあるのか?」

 流れるような動きで、中根の首元にナイフの先が、チクッと刺さる。


「いだっ。刺さっている。おい。しゃれにならねえ。文句なんかありませんです」

 ふっと、ナイフと共に気配が消える。

 中根が後ろを振り向いたときには、すでに自分の椅子へ戻ってきている。

 正面に向き直り、それを見て中根がさらに驚く。


 最近になって静流も、紡の気配隠蔽を覚えたようで、本当に皆。

 気配がないんだよ。


 シャワーとか浴びているとさ、鏡に映る自分の背後に、突然手が数本映るんだ。

 びっくりするよ。


 それはさておき。

「じゃあ仕方ない。計画を練るか」

 皆が頷く。


「最初に、中根が正面から榴弾を持ち。腹にダイナマイトでも抱いて陽動のため突入。爆発はなるべく建物の奥でするように。その間にだな。この見取り図を見てくれ」


 どこから入手をしたのか、地図が出てくる。

 しかも、トラップの注釈付き。


「うん? 中根どうした?」

 おまえ、どうしてまだ居るんだという感じで、静流が中根を睨む。

「いや、さっきの陽動どうこうは、冗談だろう? 作戦を聞いているだけだが」

「これから、行うのは、作戦としても。沈着冷静に、任務を遂行しなければ駄目だ。分かるな。おまえみたいな暗くなった瞬間。下ネタを吐きながら、あまつさえ。手まで出してくるような奴に、務まると思うのか? あげく尻を触られて、声を出したらこっちが悪者だ。何が我慢した先に、真の快楽があるだ。馬鹿者め」

 さっきから、手に持ったナイフが、無茶な軌道を描いている。

 危ないな。


「おまえ数年前に俺が言った台詞。よく覚えているな」

「あの頃は、初心だったからな。必死で勉強をしていたんだ。どこまで本気でどこから冗談かも判断つかずな」

 それを、静流が言ったとき。その言葉が記憶にあることを思い出す。


「あれは、中根の教育か。つまらんな」

 俺がついそう言うと、ナイフがピタッと止まる。


 顔が青くなり、かくかくとしながら、静流がこちらを向く。

「あっいや。あれは本当だ。紡そうだよな」

 突然話を振られ、紡も驚く。

「何の話?」

「あっほら。エッチのとき、いく寸前で幾度も止められて、我慢できなくなってから最後わーっていくと良いよな」

 静流の顔が青くなったり、赤くなったりしながら、必死で説明をする。


「あーうん。そうね。寸前で取られて、置き去りにされ。目の前で見せられるのも。なかなか良いわよ。今度逆で試しましょ」

 そう言うと、静流の動きが止まる。


「いや。そこはさ。公平にせめて」

「と言うことは、不公平だと思いながら、していたと。ほー。まあ私も二番手だからと我慢もしていたけれど。流生。静流は我慢をするのが、好きなんだって。好きなことを存分に味あわせてあげましょ」


「まあそれは。考えておく。さて、いつもの下水道は使えないんだよな」

 静流が完全に固まったので、図面と注釈を読んで、紡がチェックをしていく。


「うん。完璧」

「出来たか?」

「うん。手が無い。まともにいくのは無理ね」

 図面を追いかける。


「ここから、こちらへ」

 そう言って図面上を、手でなぞる。

「穴を掘って真っ直ぐ行けば良さそうだけれど、ここを見て」

 図面に、細長い何かが書かれている。建物の4隅に刺さっている?


「何だこりゃ?」

 中根が首をひねる。

「地面の抵抗値か、音。つまり振動を拾っている」

 紡が4隅から、徐々に大きくなるように、連続的に半円形を書いていく。

「だから、穴が掘れない?」

「あらまあ」

 俺と中根がのけぞり、背もたれに倒れ込む。

 静流はうつむき、呪詛を吐いているが。


「普通ならね」

 そう言って、紡がにやっと、笑みを浮かべる。

「静流の言った、我慢大会をしましょ。黙ってひたすら濡れ濡れになるの」

「そうか、なるほど。音と抵抗ね」

「そうそう」

 俺と、紡に見られ、静流がビクッとする。

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