第20話 困難は続く

 山本さんを背負う。

 今回は、完全なナチュラルプロテクション。赤外スコープでまず登り、途中音響に切り替えて場所を特定。

 また赤外で、這い上がっていく。


 距離だけを測っているのか、音も取っているのか危険性はあるため、無音をキープして上がっていく。


 赤外は単純で、遮断タイプ。


 問題は、温度センサー。

 この地下水路は温度が低い。36度の温度は目立つ。

 フルにシールドをしているが、どうしたって体温は上がっていく。



 その中で、中根は焦っていた。

 岩の表面は、長年地下で流水により洗われた、なめらかな表面。

 各センサーを埋め。配線を埋め込んだときに、作られた溝は。樹脂製の何かで埋められ、非常になめらか。

 つまり、手を掛けるところがほとんど無い。


 その岩肌を、滑落しないための確保も取れず昇って行かねばいけない。


 それをだ。あの小僧。

 軽いとは言え、1人人を背負って登る。

 自分がミスをすれば、2人とも怪我ですめば良い方だ。

 すぐに、敵もやってくるだろう。


 そして、驚きなのは、静流と出浦だ。

 見事に、小僧の後ろをトレースしながら昇って行く。


 俺もついていくが、指など掛けるクラックも出っ張りもほとんど無い。

 手に吸盤でもついていそうな勢いだ。


 中根の思う通り、3人はずるをしていた。

 筋力は当然。ナノマシンを利用した気により、活性化して強化中。

 そして、岩に対して分子レベルの干渉を起こし。手や足をくっ付けていた。


 その方法は、濡れた岩場を移動中に流生が発見して、静流と紡にやり方を伝えてあった。

 そして、ナノマシンのプラントを移植していない、中根と凪には教えていない。当然聞いても使えないが。


 そうして、驚異的な安定感で昇りやすさだけを見て昇って行く。



 気がつけばセンサーだらけの岩。およそ12~13mあった岩を完登した。


 少しへこみになった、岩が組み合わさった段差へ、背中の凪を下ろす。

 続いて昇ってきた、静流と紡を引き上げる。


 随分おくれた中根を、皆で待ちながら休憩し、気を巡らせ疲れを取っていく。

 静流はまだ不慣れなので、外から手を当て。気を使い調整していく。


 ここからは見た感じ、組み合った岩だ、昇っていけそうだが、質の悪いことに音響センサーの波が、岩の間から生えている。


 少し、昇ってのぞき込むと、何か板状の? 圧力センサーか? 駄目だこりゃ。昇りやすそうな所には、全部あるのだろう。

 

 そうしていると、中根が上がってきた。


 小声で、説明する。

「この先、スタンス(足がかりや手がかり)の所。圧力センサーが貼ってある」

「何だと、スメアリング(べったり乗せず、点で足等を置く)はできそうか?」

「なんとか?」


「キツいところを昇ってきて、楽ができると思ったら、そんなことを。まあ俺でもするがな」

「性格が悪いですよね」

「そうだな。おい」

「静かに」

「ちっ。おい。先に行け」


「ルートは?」

「そんなもの簡単だろ。センサーにかからず、楽で最短。だ」

 その言葉を聞いて、あきれる。


「先、行きます?」

「望月。俺は君を認めているんだ。頑張れ」

「それは失敬。でも目が笑っていますよ」

 そう言うと、あわてて目を隠す。手が触れ、中根は赤外用マスクを、かぶっていることを思い出す。

 

「けっ。さっさと行け」

 周りでは、皆が笑っている。


「じゃあ、またおんぶだな」

「すみません」

 暗くて見えないが、静流と紡が、うらやましそうに指をくわえていた。


 エッジに指が、掛かるか掛からないかで、慎重に昇って行く。


 つま先も、同じ。


 センサーと、センサーの間を縫うように移動していく。


 これは、目に意識を集中すると、意外と明るく見えたのを発見したからから。

 そして、5m位先に、赤外による動体センサーが、こちらを向いていることを発見する。


 あちゃー。どうする。右一杯にトラバースするか。


 寄ってみて、これでもかと、圧力センサーが貼ってるのを見つける。


 ちょと、下がり。直接静流に説明する。ついでに目のことも。

 下に追いついてきた、紡にも説明するが、中根はまだ来ない。

 エッジを使わず、さっきの一枚岩と同じように登り始める。


 その頃、中根は困惑していた。

 さっきの一枚岩よりはましだが、人を背負って何ちゅうスピードだ。

 全然追いつけない。

 あの小僧はまだ良い。

 静流と出浦。特に出浦は、研究者でひ弱なはず。

 一度抱いたことがあるが、すぐにヘロヘロになって、ひたすらやめてを繰り返していた。


 それが、すでに尻が見えない。

 なんだよ。

 殿の楽しみが、何もないじゃないか。

 後ろから、なでながら押してあげるはずが、俺が一番足手まといかよ。


 そんなことを考えていると、右足が滑る。

「うおっ」

 あわてて、右手の中指に加え、薬指も掛ける。

 そっと、体を持ち上げ。のぞき込む。


 センサーは、なかった。

 ほっと一安心。


 ふと、数m先に、お楽しみのお尻が、見えたような気がしたが、すぐに消えてしまった。

 何かあったのか?


 その後、慎重に昇り。

 理由を理解した。

 あいつら、どうやって昇ったんだ。

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