第17話 ガイドの帰還
次は、俺と同じ。施設からの仲間候補脱出補助。
静流も当然参加。
運転手だけが、暗視スコープを使い。
真っ暗な中を、トラックで疾走する。
適当なところで、二手に分かれ。攻撃を始める。
「おい。ぼけっと突っ立つな」
仲間から注意が来た。
「へーい」
「誰か来た?」
「来るとしてもまだよ。自分のときを思い出して」
言われて思い出す。
道を探せとか、感じろとかそんなことを言われて、躊躇していたら吹っ飛ぶところっだったっけ?
「そうだな、大変だった」
「うん? あれ、誰か来た」
静流が、無線で連絡。人発見と警戒と言っている。
誰かが叫ぶ。
「остановка」
そうだ。ロシア語で止まれだよな。
意味が分かって、止まれば撃つのだから。とんでもない話だ。
対象は、手を上げながら走ってくる。
おや?あいつは。
「やあ、久しぶり」
そう声をかける。
「おふっ。おお。生きていたか」
本人は、ゼイゼイというを切らしながらも、そう言って、なんとなく手が出たのだろう。
腹に向かってくる、拳を掴み。体を崩して投げてしまった。
「久しぶりなのに、ひでえ」
そう言いながら、息がまだ整っていない。
「すまない。つい手が出た」
手を伸ばし助け起こす。
「何だ。誰かと思ったら、中根か。つまらん」
「静流。知り合いか?」
「ああまあ。一応潜入のプロだな」
「つれないな。俺とおまえの仲じゃないか。せっかく帰ってきたんだ」
中根が嫌らしそうな目で、静流の全身を見ながら、そんなことを言う。
「知らんな。つまらないことを言うと、締めるよ」
そう言いながら、にらむ。
「おお恐」
そんなことを言っていたが、帰りのトラックに荷台で、あることないこと俺に言いふらし。あげく、静流に締められ。本当に落ちた。
「あのな、こいつが言っていたのは、本当だが。任務なんだ」
「俺と一緒なんだな」
「あーうん。教育は必要だしな。もう、今はすべて断っている。から。うん」
なぜか泣きそうな顔で、静流が言い訳をする。
「分かっているさ」
そんな、ほのぼのムードだったが、運転席から合図が来る。
赤外線スコープを取り出し、後方を見る。
「装甲車が一台」
「了解」
静流が、中長距離用の対戦車ライフルのHEAT弾装填済みのライフルを取り出す。
こいつは、弾頭が装甲に着弾すると、へばりつき内部で炸薬が爆発する。
そして、その炸薬の爆発する威力で、後部に詰めた弾頭があいた穴へ向けて、さらに打ち込まれる特別構造をしている。
だが、表面に力場的なシールドがあるのか止まらない。
「くそ。止まらない」
静流がうめく。
「落ち着いて。奴らが止まれば、迎えに来るように運転手に言って」
そう言って、荷台から飛び降りる。
「ちょ。ばか流生。流生~」
向かってくる装甲車へと、全力で走り、相対する。
向こうの速度は、未舗装路だし60~70km/hだろう。機械的はもっとスピードが出るが、衝撃を吸収しきれないほどのアップダウンがある。乗車をしている人間が耐えられないだろう。
こちらも同じくらいで突っ込んでいく。
多分向こうからは、人間が突っ込んできているのは、見えているはず。
多分爆弾を抱いているか、そこらだと思っているのだろう。
上部小銃が動き始める。
マークされたか。
気を使い、周辺にシールドを張り巡らす。
3点バーストで発射される弾を、手の甲ではじき返す。
どうだ。そろそろ、焦ったか?
目前に迫ってきた俺を、躱そうとハンドルが切られる。
左側を抜けようとする車体。
位置的にフェンダーとドアの間。
Aピラーの下辺りになったが、思いっきり気を込めて殴る。
腰高な足回りがネックになったのか、横転して転がっていく。
「速度は、落ちていなかったからな。結構転がったな」
一応横倒しで腹を出しているが、車体底のアンダーカバーに向け。力がパネルを撃ち抜くタイプのパンチ。鎧通しをお見舞いする。それでも30cm位は、車体が横滑りをする。
これは離れた相手に、打撃を通すことができる。古の技である。
そして、車体はパタンと背面に倒れる。
周囲を見回し、他にいないことを確認する。
「丁度裏返しになったし。しばらく起こせないだろう」
空気に干渉して、風を巻き起こし、タイヤの跡を消していく。
トラックの後ろに、一応ブラシがついているため、タイヤ跡はあまり残っていないが、念のためだ。
「最近完全に、人間離れしてきたな。忍術じゃなく魔法だな」
目の前にやってくる、トラックの荷台に飛び乗る。
「怪我はない? 大丈夫?」
「大丈夫。最近。大分、力の使い方を覚えたし」
「そう。なら良いけれど。無茶しすぎよ」
そう言って、寄り添ってくる。
「何だよ。そういう事か、ちょっと目を離した隙に盗られちまったか」
落ちていたはずだが、騒動の間に気がついたようだ。名前は中根だったか。
「何よ? あんたと付き合っていた覚えはないわよ」
冷たく、静流は言い放つ。
「まあ。そうだが。そうか。俺は結構本気だったんだけどなあ」
やれやれという感じで、告白をしているようなので、とりあえず謝っておく。
「そりゃ、すまない」
「おっ。返す気になったのか?」
「それはない。それに百歩譲ってそうなっても、あんた。泣く羽目になるぞ」
「なっ。そんなにか」
静流が大きく頷く。
中根は、がっくりと手をつく。
「技を教えてくれ」
「やだよ。男を抱く趣味は無い」
俺が茶化して言うと、中根もいやそうな顔をする。
「俺だっていやだよ。わずか1年半で。化け物め」
そうして基地に戻り、出浦紡の変わり様を見て、さらに中根は驚くことになる。
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