第15話 お互いの思い

 意外と、奇跡とか運命という言葉は、使われるし重要だ。

 自分以外の意思が働いていると思えば、許容してもらえる。

 絶対ではないけれど。


 何とか成功のようだ。

 テキスト、様々だ。


 完全に浮かれた彼女と、買い物を済ませ。

 彼女の、家へとお邪魔をする。

 最初は、手を繋ぐのにも躊躇をしていたのに、この時には、腕まで組んできていた。

 多分無意識だろうが。

 

「適当に座って」

 そう言いながら、奥へと向かう。


 少しして、出てきたときはホームウエアだろう。

 かなりカジュアルな格好になった。

「私だけごめんね。料理をすると匂いが着いちゃうから。ネクタイも緩めてね。これ飲んでいて」

 そう言って、グラスとアルコール入りの飲料が、目の前に置かれる。


「ありがとう」

 そう言って、ニコッと返す。

「うふっ」


 そう言って、台所へ向かう。



 ――誘っちゃった。――

 文子は、32歳だが、こうして男性を家に招待するのは初めての経験。

 それに、連日の残業で、かなり怪しいテンションになっていた。

 きっと頭の中では、ドーパミンやなら何やでまくって、異常事態となっていただろう。そのため、普段なら気がつく。多少のおかしさなど、意にも介さない。そんな状況となっている。着替えもそう。かなり薄手の服。かなり、体の線がめだつ。


 どう考えても、見ず知らずの男性の前でする格好ではない。


 何を作ろう。買い物をしながら一応メニューは決めた。

 一人暮らしも長く、レパートリーはそこそこ多い。

 だが、今日は失敗したくない。

 自分で食べるだけなら、あらしょっぱいとか言って、すますのだが。


 今日は駄目だ。


 簡単な突き出し。

 ほうれん草の、和えものとか、冷や奴など。

 無難な物から出し始める。

 完全に、居酒屋メニュー。

 山芋の、短冊まで出したところで、色んな方面でまずいと気がつく。


 他には、鰻の蒲焼き。これは惣菜だが、牡蠣。アクアパッツァでも作ろうかと思ったが、どう考えても、無意識に亜鉛を多く含むような。精の付く材料ばかり。

 まあ、ローストビーフの野菜巻きとかも作るし、お酒のあてには手早くできるし良いわよね。

 そう自身を、納得させる。


 そしていよいよ、飲み始め。

 愚痴を言い始めると、的確な分析と対象方に関するアイデアが、彼の口から出てき始める。

 驚きが隠せない。

 部下よりも、よっぽど優秀。


 対して、自称上島貢の中身。流生は焦っていた。

 基本知識は覚えていたが、困っときの対処方は、完全に地頭の領域。

 アルコールを飲んでも、どんどん目はさえてくる。


 食べているものの味も分からない。だが、そんなそぶりは見せず。微笑みを絶えず浮かべて、間で、料理に関する感想も含む。


 そして、穏やかな雰囲気だが、文子もテンパって落ち着くことはできない。

 会話し、時間が進むにつれ、貢への評価はどんどんあがり。

 彼は、まさに運命の相手。

 そんな気持ちが高ぶり、押さえが効かなくなってくる。

 そして、体がほてり、喉が渇く。一気に飲んでいく。アルコールなのに。


 台所に立ちぼーっとしながら、牡蠣のアクアパッツアを皿へ移すときに、自身の手にかけてしまう。

「熱っ」

 そして、器が落下。


 その物音に、すぐに反応し、台所へ貢がやってくる。

 すぐに状況を判断。文子の背中側から覆い被さるような体勢だが、右手を取り流水にあてる。

「大丈夫?」

 そんな優しい声が、自身の左耳。彼の呼吸も聞こえる。そんな、すぐそばで、ささやかれる。

「あっ。うん。大丈夫。大丈夫」

 彼に答えながら、何とか自身をおさえるために、大丈夫を繰り返す。


 背中に触れる、彼の体温。


 彼は、左手で器用に器を片付けている。

「あっ。あの。大丈夫なので」

 そう言って、しまう。


 あっ。彼の顔が離れてしまう。

 思わず、彼を捕まえ。キスをしてしまう。

 受け入れてくれたのだろう。彼の舌が自身の口腔を蹂躙する。

 文子の弱いところを探るような。

 何を期待させるような、情熱的なキス。


 そして、さっきまで水につけ濡れていた手を、彼の背中に回してしまったことに気がつく。

「あっ。ごめんなさい」

「ああ大丈夫。君の手は。どう? 大丈夫」

 そう言って、優しく手がなでられる。


「ちょっと、ピリピリするけれど」

「保冷剤はある? 少し巻いておこう」

「あっ。うん」

 小さめの保冷剤を巻き付け、治療? を済ませる。

「これは、残りは器に移し。2人で食べれば良いね」

 そう言って、牡蠣のアクアパッツアが運ばれる。


 そして、すぐに彼が気がつく。

「右手、それじゃあ食べ辛いね。そちらへ失礼するよ」

 そう言って、向かい側から隣へと移動してくる。

「あーん。言ってくれれば、欲しいものを運んであげよう」

 そう言って、意地悪な笑顔を浮かべる。子供っぽい表情を見せる彼。

「ダイニングじゃ、ちょっとあれなので、リビングのローテーブルの方に移動しましょう」


「分かった」

 彼女には座っていてもらい、俺が運ぶ。

 すると、彼女はさっき座り込んだソファーではなく。

 なぜか、床に座り込んでいた。

「どうしたの?」

「ソファーだと、テーブルまで距離があるし、こっちの方が良くない?」

「そうだね。確かに」


 そして、彼女が行動に出たのは、すぐ後だった。

 僕たちは、一線を越える。

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