第11話 特訓

 それからしばらくして、訓練を復活させた。

 笑えるが。本人の希望により。まあまずは、静流と愛し合うところから。


 何かが変わったのか、静流に聞くと、あなたの愛が挿入時から頭の中に流れ込んできて気が狂うと言っていた。

 そのリポートを聞いて、研究班の出浦がやって来て。行為の最中に、静流の頭を開くと言って大騒ぎし、俺にぶん殴られた。


「それが駄目なら、僕を抱いてくれと大騒ぎを始めた」

 それを聞いてぎょっとしたが、女だった。

 静流がこいつ女だよ。趣味に没頭し、痩せすぎて、内蔵周りの脂肪が少なく、ガバガバでとか言って。そちらの仕事からは、疎遠になっていたらしい。

「まあ理由をつけて、研究に没頭していただけだよ」


「それって、あれだよね」

 静流と顔を見合わせる。

 まあ彼女の言う、喪失感というのは、バルーン現象というものだろう。本当なら、そこまで行けば。数秒でいってしまうがタイミングが悪く。先に進めなかったのだろう。

 それなら別に、不感症でもないし良いだろうと。


 別の部屋で、待っていると言って。出て行った静流だが、すぐに戻ってくる。出浦から苦情が出たが強引に参加。

 2人で、共謀し懇願するまで、前戯で攻め。ひたすら途中で止める。

 うん。中は膨らんでいる。

「どうだい。おまえの好きな実験だよ」

 静流はのりのりでお預けを繰り返す。実に、8時間後。出浦紡(つむぐ)は盛大に色々な物を垂れ流し気絶した。


「えっ。これは一体?」

 おれは、一瞬。本当に一瞬だけだった。


「実験は終わったようだから、シャワー浴びて、真面目に愛し合いましょ」

 上機嫌な静流と一緒に、部屋を出る。


 さてそんなハプニングがあったが、体の中でのナノマシンの活性と変化状況を、自身で感じる訓練をする。

 暖かい。心臓から熱量を持った物が流れ広がっていく。

 この放出も、意識的に行う。


 必要な量を、足へと回し。踏み込む。

「ぐわっ」

「大丈夫?」

 静流が様子を見に来る。


「一発で、足の皮が剥げた」

 踏み込み一つで、靴のソールが剥げ、ついでに足の皮まで剥げた。

 血が滲んでくるが、手を当て修復するイメージと、強化するイメージを足の裏に集める。

 5分ほどで、痛みがなくなる。


「これは力が強すぎだ。装備だけじゃなく。骨格から含め、筋肉や血管まで強化するイメージが必要そうだな」


「そうね、普通のシューズじゃ耐えられそうにないし。バスケットシューズ的な形で包み込まないと」

「それで力を入れると、足首が折れないか? まあ真っ直ぐは良いが、ターン時など。かなり負荷がきそうだ。ちょっと、弱く効かせるから。組み手の相手をしてくれ」

 そう言って、静流と対峙する。


 鋭い踏み込みで、フェイントから、足払い。

 こっちも、足払いを躱したところで、再度踏み込み。拳をそっと流して軌道をずらし、脇腹をくすぐる。

「ひゃん」

 そう言いながらも、体をひねり、蹴りが腰の高さで変化して頭へとやってくる。


「そんな大技は、駄目だよ」

 やってきた足の。足首をつかみ、自分の体を一旦くぐらせ。

 静流の、軸足を払う。

 無論。転倒し。俺の胸の中に倒れ込んでくる。


「なんと言うことなの。全くもって、通じないなんて」

「もう少し、試合おう」

 このナノマシン。効果が絶大で、ほんの少しだけで。良いことが分かった。

 あまり、強化すると、自身の力で自分が壊れる。


 静流と対峙し打ち込んで貰い、後出しで払う。

 しかもその場から、動かず。


 乱打、それもスピード重視。

 拳、肘、膝、遠慮なくガンガンと攻撃が来る。

 それをなるべく、動き始めた瞬間に止める。

 一見すると、攻撃の読み合いだが、こちらは、見てからの反応。

 そのスピードをどんどん上げて行く。


 静流が突然。攻撃を止める。

「だめよ。鼻もそうだけど目も。毛細血管が切れているわ」

 よく分からないが、目や鼻から血が流れているようだ。

 タオルを受け取り、拭いて、はじめて状態が分かった。

 目はそうでもないが、鼻はちょっと多いな。イメージして修復させる。


「ちょっと顔を洗ってくる」

 そう言って洗面所へ行き顔を洗うと、目の白目部分が真っ赤になっていた。

「これって、眼球そのものの。圧力が上がっているのか? 緑内障とかだいじょぶだよな」

 未知の技術。どうしたって色々と不安はある。


 鏡を見ながら、目の損傷を修復していく。

 真っ赤だった白目が、きちんと白くなっていく。


 それと同時に、視界が揺らいだことに気がつく。

 うん? 今のは揺らぎ目に何か損傷か? 顔を振りながら、眼球の状態を確認する。

 特に問題はないようだ。


 ならさっきの揺らぎは、ふと思い。

 発汗をイメージして、マシンには、光の屈折を変えるイメージをする。

 目を大きく見せたり、鼻筋を変える。

 背後の、光が前に抜けるように屈折構造を考える。


 うーん微妙だな。だが訓練すれば、使えそうだな。

 その日から、光のコントロールや、他にも使えないかひたすら探す研究も始める。


 そして、その晩から静流からの申し入れにより、向かい合い打ち合う形の特訓が日課となった。

 なぜか、裸で。

 これは、攻撃時。筋肉の初動に対する研究だそうだ。

 何を打つとき、何処が動き始めるか。

 そのため、打ち方も色々な流派のパンチ。つまり当て身を色々試す。

 だがまあ。すぐにふざけ始め、じゃれ合いとなり。夜は更けていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る