第10話 自身の改造

 静流は10歳くらい上だった。

 基地に帰ると、すぐに根回し。

 無事。僕の教育係に就任。


 そこから、彼女に遠慮は無かった。

 日常、彼女の仕事が無いときは、24時間中。

 意識喪失以外は、休憩や睡眠は無い。


 ひたすら、やる。

 食事の時も、風呂もトイレも関係ない。

 人間は、男も女も同じ生き物だと、俺は理解した。


 そして、鍛えれば鍛えられること。

 触覚、味覚、聴力、視覚、匂い。すべての変化に神経をとがらせ、相手の変化を見る。無論、感度の良いところ、鈍いところ。

 すべての、扱い方を習う。


 代表的なのは、舐めていると、女性側の体内。酸性がアルカリへと変化をする。

 その時の、感じ方と攻め方。

 それはもう。


 自分の方も、意識的に、堅さと持続時間をコントロール。

 そんな事ができるなんて、知らなかった。

 ふれ方。

 くすぐったい所から、快感まで、圧力を感じ、相手の体温や発汗。相手の反応で状況を理解する。


 なんてことを、研究し自身の体にたたき込む。


 3週間くらいで、他の体術。エッチじゃ無く戦闘訓練を開始。

 基本から応用。

 無手から、道具。

 子供の頃からやっていた、気の鍛錬も一歩進める。


 最先端のトレーニングマシンを使い、鍛えあげる。


 そして、3ヶ月した頃。

 静流に、泣きが入るようになった。

「流生とすると、普通の女になる。自身のコントロールができない」

 そう言って、教育係から離れなくなった。

 矛盾する話。


 でも、涙を流し。

「年上だけど。あなたが好きなの」

 そう言って、僕の胸で泣く。


 つまり。普通の女に、なってしまったと言っていた。



 そして僕の方は、最大の試練がやってくる。


 朝呼ばれて、研究棟へ顔を出す。

「おーい。流生。君、人間をやめないかい?」

「はっ?」

 そんなことを言われても、全く理解できない。


 会話の相手は、研究班の人。

 名字は、出浦と言うらしい。


「いやまあ。人間鍛えても限界がある。それを何とかしようと。ずっと研究していた。その結果。無理と結論づけた。まあ諦めたのは、薬品と機械補助による戦闘サイボーグ。まあ一部では、サイバネティックスとも言う技術だね。どうやっても、生身の細胞が、負荷に耐えられず破損。一度力を出せば、修復されるまで数ヶ月動けない。それで僕たちは考えた。リアルで無理なら、ファンタジー。人類魔法使い計画を実行しようと考えた」


 いや。彼は終始真面目。

 酔っても居ない。


 僕の前に、赤く光る。石のようなものが置かれる。

「賢者の石。無論コードネームで、実質はバイオナノマシーンの結晶型プラント。この中で必要なバイオナノマシーンを作製する。無論人体の体温がエネルギー源。材料は本人の細胞を貰う。つまり一度稼働すれば生きている間はずっと動く」

 ここに来てやっと、自身の功績に酔う感じが見える。

 彼の自信作なのだろう。


「バイオナノマシーンは、何ができるのです?」

「何でも。意識を読み取り。物理現象として具現化する」

「それは、物理における万能細胞のような物ですか?」

「うん。良い、たとえだね。それを貰おう。良いかね」

「えっ。まあ良いですけど」


「じゃあ。埋めようか」

「えっ。どうしてそんな話しに?」

「きみ。大きなことを果たすんだろう。それに比べれば、小さいこと。術後、リポートは出してね」

「そもそも、拒否権はないのね」

 ぼくは、そのまま手術室へ連れて行かれる。

 昨夜から、何も食うなというのは。もう決定していたんだな。


 明るい光の下。意識を手放す。



「政府から、通達が来ました。前回敵国の攻撃があり、作業中の望月流生が巻き添えになり戦死。拘留期間を減額し、年金が出るそうです」

「そうか。無事に天国についたかな」

「そうですね」


「望月から、連絡が来た。流生君の戦死報告が来たようだよ」

 私はそれを聞いて、不覚にも意識を失ってしまった。

 私の軽はずみな行動で。

 簡単な話は聞いたが、爆弾が雨のように降る中をくぐり抜け、彼らの元に無事たどり着けなければ死ぬだけ。

 政府の、発表があったのなら、施設を脱出しただけ。


 その後の情報は、おいそれとは来ない。

 こちら側の施設と、向こう側はほとんど連絡が取れない。

 基本戦闘緩衝地帯。何処の国からも見放された場所。



「おーい。まだ酔っているのか」

「ああ。頭痛と吐き気がある」

「まあ数日は、安静にしておけ。それと禁酒だ」

「飲んでないよ。未成年だし」

「未成年? ここには、そんなルールは無い。飲みたければ飲めば良い。ただ数日は禁酒だ」

「分かった」


 少しまた眠ったようだ。

 目が覚めたら、心配そうな静流の顔。


「おはよう」

「おかしな所は無い?」

「ああ大丈夫だ。つっ。突っ張る感じと痛みが出たな」

「切ったから。しばらくは、痛むかもしれないって。鎮痛剤要る?」

「あるのか? じゃあ、射ってくれ」

 オートインジェクターで、鎮痛剤を射って貰う。


「眠れそうなら寝て」

「ああ分かった」

 目をつぶると、鎮痛剤が効いたのか意識が落ちる。


「どうかね」

「今は、麻酔が切れて、痛みが出てきたみたい。鎮痛剤を射ったら、また寝たわ」


 それを聞くと、出浦は笑い出す。

「レジスタンスの中でも、鬼と呼ばれた君が。まるで乙女のようじゃ無いか」

「なに? あんた死にたいの?」

「いえ。申し訳ありません」

 それだけ言って、出浦が退室するのを確認する。


 静流は、またベッド脇に控え、眠っている流生の顔を、幸せそうに眺め始めた。

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