第9話 嵐の夜に

「分かったか?」

 ここは食堂。


「正解かどうかは、分からない。だがまあ、自身で納得はできた」

 そう言うと、彼はにやっと笑う。


「そうか。じゃあ一緒に遊ぶか?」

「ここじゃ、たいした遊びはできないから、どこか広いところが良いな」

「そうだな。その方が楽しいな。きっと。いつになるか分からないが、遊べる場所まで、道ができるだろう」

「その道が、見られれば良いが」

「見えるさ。きっとな。頑張れよ」

「ああ。せいぜい、真面目に作業を行うさ」

 かれは、ぴらぴらと手を振り出て行く。


 そして、奴がやってくる。新人監視担当。本当かどうかは知らない。

「なんだか、顔がにやけているぞ」

「ああ。あんた以外の顔見知りだからな。名前すら知らんが」

「何の話を?」

「相変わらず。ここじゃ。トウモロコシかクラスターの話だ。他に何か、話題にできそうな話はあるのか?」

「大事な物が抜けている。虫だ」

 わざと、いやそうな顔をしてみせる。


「そんなに嫌うなよ。美味しいスープだっただろ」

 ゆっくりと、自分のトレイを見る。

「本当か?」

「さあ、どうだろうな。クリームスープ。クリーミーなら、小麦粉だろうがミルクだろうが、腹に入ってしまえば栄養になる」


 奴から、目線を外さず一気に皿を持って飲み干す。

「まあいい。気にしなければ食い物だ」

「違いない。俺たちは餌といっているがな」

「そうか」


 席を立ち部屋へ帰る。


 そして、どのくらいの月日が流れただろう。

 10日くらい?


「おう元気か、今日は寝るだけか?」

「いや。今から警備だと思う。この所ずっと畑だったからな」

「そうか良かったな。多分今晩から、嵐が来る。道を見つけるには良い晩だ」

「はっ? ちょ」

「じゃあな」

 そう言って、いつもの様に、手をぴらぴらさせ。消えていった。


 今晩。嵐?


 なるほど。あれは、レジスタンスの。


 やはりその晩は、警備だった。


 ヤバイ金網の近く。



 遠くから、サイレンが聞こえる。

 やがて、帰還命令が、聞こえ始める。


 やがて、明るくなるところが、ちらほらと見え始める。

 さて俺。見極めろ。失敗すれば死あるのみ。


 クラスターは、円形に爆煙が広がる。

 不発弾を踏んでも、直撃も終わり。


 金網が吹き飛び。道ができるが、あそこに足を踏み入れれば終わり。


 どこだ。見ろ。閃光で目がくらんでも見ろ。


 あれか?


 金網が吹き飛び、周辺が明るくなる。

 10mほどの間隙。真ん中ではポール。金網を支える支柱が1本立っている。

 様子を見るが、爆撃はそこを離れる。


 ええい。行け。

 俺は、そこを目指し走って行く。

 爆撃部分を大きく迂回するため、時間がかかる。

 ちっ。綺麗に金網が倒れず残っているが、回り込み爆撃跡を踏まないように、走る。走る。辛くても止まっちゃあ駄目だ。真っ直ぐに。ひたすら。


 背後で、抜けたところが爆破された。

 やば。もう少し躊躇すれば吹き飛んでいた。

 そうか、抜けがばれないように。


 あの野郎。もう少し説明をしてくれよ。吹き飛ぶところだ。


 どのくらい走っただろう? 5kmは越えたはず。

「остановка」

 はっ? なんだ。 分からない。もう一度聞こえる。

「остановка」


 あーロシア語か? 駄目だ。なんだ。敵だったのか。俺は死ぬんだな。

 何が嵐だ。ヒントじゃなかったのか。失敗だ。


「馬鹿野郎」

 つい叫ぶ。


「大体。皆そういう反応なんだな」

 何だと? 悪いか。立っている奴らに近づき。顔が見えだした。

 ニヤニヤと笑ってやがる。

「今日は一人か?」


 やっと気がつく。日本語。

 助かったのか?


「おまえだよ。『остановка』は止まれって言う意味だ。まあ止まれば撃つがな」

「ひでえ。言葉を知っているだけなら。どうすんだよ」

「殺しはしないさ」


 そうして、おれは。無事? レジスタンスに合流した。

 もう。息ができない。全力疾走の距離じゃねえ。


 不覚にも、倒れ込み。気を失った。



 うん? なんだ。

 ふにふにと柔らかい。

「あん。もう。起きな」

「うん?」

 今の場所は、トラックの上か。


「うーん。よく見れば、かわいいわね」

 その声で、目を開き周りを……。

「すみません」

 あわてて、右手を。胸から離す。


「うんまあ。いきなりだから驚いたけど。気に入ったのなら良いよ。僕ちゃん名前は?」

「流生。望月流生(もちずきりゅうせい)です」

「あたいは、静流。上月静流だよ。歳は内緒。まだ時間がかかるし。おっぱい吸う?」

「っ。いえ。すいません」

「謝っているのか、断ったのか。微妙な言葉」

「いえ結構です」


「そうかい。この家業をやっていると、恥じらいが無くなってね。すまないね。したけりゃ言ってね。若い子の手ほどきも仕事だし。やっぱりかわいい子の方が、私も良い」


「そんな。必要な事が良くあるんですか?」

「基本は、潜入と情報だから。仕事になれば必須だよ。信用を得るのに一番楽だからね。よし帰ったら。専属で手取り足取り教えてあげる。よろしくね。流生。名前も似てるしバッチリだ。ねっ」

「はあ」

「かわいいから、立派なたらしにしてあげる」

「はあ」

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