第8話 お誘い

 少し、話を思い出しながら作業。

 今日は農作業。


「食虫植物ね。うまく行けば。敵を食って、自分たちの食料が増えるのか?」

 気持ち悪い話だ。


「そんなことを言っていると、独房だぜ」

 今朝の、あの男だ。


「珍しいな。同じ作業なんて」

「たまたまさ。誰かが体調を崩して、俺が回された。本当は飯を食って、寝るはずだったのに」

「そうなのか?」

「ああ」

 そう言うと、にへっと笑い話を続ける。


「作業しながら聞いてくれ。本当はあんたの両親は、成人後。向こう側からあんたも参加させようとしていた。予定外で急遽前倒しになったがな」

「俺のことを本当に知っているのか、試させて貰って良いか? 政府側なら意味のない情報だが」

「いいぜ。捕まった原因でも、説明しようか?」

 そう聞いて、少し考える。


「ああ、説明してくれ」

 またこいつは、にへっと笑う。


「あの日。あんた達は、前の晩から幼馴染みと乳繰り合って良いことをした。だが彼女はどこからか、俺たちへのアクセスを果たし、俺たちは、その情報をどこから取ったのか聞きに行った。でまあ。それはきちんと経緯を聞いたんだが、どうしても俺たちの活動に参加したいと。ごねてな」


「参加したい? 彼女が?」

「ああそうなんだよ。仲間は、彼女が中林家の人間だと分かったので。帰って成人まで、おとなしくして貰おうとしたのだが、なかなか頑なでね。もめている間に、おまえが来て。仲間を引ん剥いちまった。彼女、引ん剥かれたって泣いてたぞ」


「引ん剥いたって。人聞きが悪い。認識阻害シートじゃないか」

「ああ。おかげで丸裸。センサーに引っかかっちまった。顔は多分登録されただろう」

「そうか。あの後。警報が鳴ったな。すまなかった。だけど、彼女はどうしてあんた達と」

 そう聞くと、表情が曇る。


「なんだ? お前は、今のいびつな社会が良いのか?」

「いや面倒だが、そこまでなのか?」

「おまえ。頭が悪いのか?」

 首をひねりながら、真面目な顔で聞いてくる。


「何だよそれ?」

「ヒントだ。自由は一切なく。搾取され、さらに責任を、押しつけられる。いびつな社会。それが、今の状態だ。理解できそうなら、また声でも掛けろ。じゃあな」

 一旦移動しかかり、またこちらを向く。


「ああそうだな。今。この収容所と向こう側。どう違う? 考えろ。人間考えずに、仲良しこよしで集団の意識に流されれば。思考は停止して腐るぞ。サラブレッドの坊ちゃん」

 そう言って、ぴらぴらと手を振り。どこかへ行ってしまった。


「なんだよ。俺が何も考えていないみたいに」


 そうして、決して自然界にない植物たちに、追い肥を与え。水を掛けていく。



 部屋に戻り考える。

 国民審議。これにより、有権者の政治への参加率は100%。


 参加? 審議は参加なのか?

 奴が言ったように、責任を負わされているだけ。

 昔で言う議院内閣制と違い、新しい法律関係は軍が決め布告のみ。

 そういえば、その審議は、したことがあるのか?

 俺の記憶にはないが、それは最近始めたから?

 いや。くだらない小競り合いの審議だけ。


 本当の法律に、立法に対し国民は関わっていない?

 そうか。せいぜい行政。法に基づき政策を行なう。その一片のみ。

 判断と責任。それと負担のみ。そこで皆が面倒になり。思考を放棄している。

 あれ気がつけば、町内会のルール程度?


 いや、死刑制度の時などは…… ああ。国としては、どっちでも良いことなのか。

 重要なのは、経費を審議をすることで、国民になすりつけた。


 国による、視線誘導?


 アナウンスされている、国と国民半々は嘘。

 なのか?


 家の端末が欲しい。

 そうか、表には出ない情報。

 『サラブレッドの坊ちゃん』奴の言った言葉。

 家はもしかして、情報を握っている?


 そういえば、家も、中林家も何かそんな組織だと聞いた覚えがある。

 フィクションによく出てきた、Ninja。有名な名前に隠れ古より続く。

 派手なアクションは、表向き。本当に重要なのは情報。




「ねえお父さん」

「なんだ、未希」

「先祖からの情報ってなに?」

「ああ聞いたのか?」

「えっ?」


「レジスタンス。会ったのだろう?」

「うん。会って話をした」

「早まったな。その失敗で、流生君を失ったな。軽はずみな。若さからの大失敗だな」

「うん。おじさんとおばさんにも、悪いことをしちゃった」


「あわてなくても、そこに行き着くはずだったが。まあ良い。流生君を助けるためにも勉強をしなさい」

 そう言って、お父さんの部屋へ連れて行かれる。


「この端末をあげよう。外のネットには繋ぐな。まあ専用OSと、AIが障壁を組んでくれるから問題はないが。まあ、完全装置は非常用くらいに思っていた方が良い。完璧はないからな。未希。勉強をして、もっと良く知ることだ。何もかも。その上で判断をすれば良い。一歩一歩な。焦るな」

 お父さんは端末をこちらに差し出したまま、見たことがない厳しい顔をしていた。


「うん。勉強する」

「さて彼は、どうかな?」

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