第2章 退屈な毎日

第7話 いつもとの違い

 朝いつものように、準備を行う。

 ざっと顔を洗い、食堂に行く。


 唯一と言って良い。他人とのふれあいの場所。

 ここでは、男女なども分けられず。ごちゃ混ぜ。

 だが常に監視はあり、ハラスメントや一方的な性的行為があると捕縛され、独房での反省が始まる。


 労働役先輩の言葉を借りれば、1分以内に事を済ませばできると笑っていた。

「どんだけ早いんだよ」


「まあそんなもんだ。ちなみに独房は、水とオートミールだけになる。死ぬぞ」

「ああ分かった。農場で見たけど、ここの食品。本当に大丈夫なのか?」

「馬鹿野郎。遺伝子操作しまくって、怪しいものの実験場がここだ。この一見肉に見えるのは、大豆か、食用ネズミ。後はミミズだな。あーなんだか、新型の芋虫も増えたって言っていたか」


「へえ。全部昆虫かと思ったけど」

「昆虫は、以外と加工が面倒だろう。潰して、殻をのけて、滅菌と乾燥。育成は自動化できるが。ああここ限定なら、まとめてミキサーかもしれないが」

 そう言って、いやそうな顔をする。


「この前、新型大豆見ましたよ。見た目トウモロコシですが、一本に実が10個くらい付いていて不気味でした。普通、さやというか、実は、3個くらいですよね」

「あれは、大豆と言うが、トウモロコシだ。実のタンパク量を増やしたものだ」

「そうなんですね。もう何が何だか」

「あの仕切りの向こうは、ここから出られない奴らだけが、作業しているが、昆虫を餌に育つ。食中系の食用植物が育っているって噂だぜ。それが、夜中に動き回るってさ。小説に出てくる。リアルトレントだって言ってたぜ」


 まあ普段、顔だけで名前も知らないが、知り合いと話をする。

 怪しいもの、偽物野菜。偽物肉。原料不明なパン。変にクリーミーなスープ。そんなものを食べながら。

 無論作業内容はしゃべってはいけないが、都市伝説的なくだらない話は、OKのようだ。



 作業はさっき言った、農園か、外縁部収容所から10km範囲に柵があるが、破損。意図的なものを含めチェックする。

 無論高圧の電圧がかかっているため、触ってはいけないし、重量並びに振動のセンサー付きだ。触れば、すぐに爆発物を背負ったドローンがやってくる。


 無論再開発地なので、こっち側は、荒れ地だが収容所の反対側。つまり本土に近い側は、道路が敷設されている。

 それが、もう一つの作業。


 この3つを、適当に割り振られる。

 あの奇妙な朝食後に。



 そして、そんな事にも。数ヶ月あれば、意外と人間は慣れる。

 チェックしていなかったから、正確な日数は不明だが。

 ああ。スケジュール管理は、必ず当日が基準。今日が今日。日にちや曜日は入っていない。無論、過去も表示されない。


 変化があったのは、いつだろう。


「隣良いか?」

「ああ好きに使え。俺のものじゃねえ」

「長いのか? 若そうなのに、やさぐれてんな」

「ここにいりゃそうなるよ。更生とか一切関係ないからな。昔の刑務所とは違う。収容所だからな」


「あーどうするかな」

「何がだ?」

「あーうん」

 そう言って、うっとしい顔が近付いてくる。


「あんたって、源清さんの息子だろ」

 その瞬間。俺は、最大限の警戒をする。

 そして、木製の薄いスプーンに、気を流し強化をする。


「ちょ。そんなに警戒するな。気まで練り込んで、おっそろしい奴。お父さんから言われて様子を見に来ただけだ」

「父さんから?」

「ああ俺たちとも、実は縁が深くてね」

「あんたら何者だ?」

 そこまで聞いたところで、いつもの奴がやってくる。


「いよう。お友達ができたのか?」

「ちっ。犬が」

「えっ」

 そう言ったきり、顔が離れていった。


「あんまり内緒話をしていると、目を付けられるぜ」

「おまえにだろ。新人監視担当さん」

「何のことだ? 知らんな」

 そう、言ったっきり黙ったが、表情の変化は見た。


 そうだったのか。

 ここへ来て、3日後くらい。

 一方的に話しかけてきた変な奴。


 気を遣わなくてよく。毎日のように相手をしたが、そうだったのか。

 無論。今までの会話で、個人的なことは、言ってはいない。だが、それもこの先。気を許すことになれば分からない。

 危ないところだ。


 お父さんの知り合いと言ったな。この場でどれだけ信じられるか不明だが、助けられたのは確かなようだ。

 『俺たちとも、実は縁が深くてね』達と言うことは、何か組織? 父さんが? そんなこと。まあ未成年の子供に、しゃべるわけないか。


 しかしそうか、世の中怖いな。

 未希といい。こいつといい。信じられる奴はいねえ。

 リスクを考え、自宅でお勉強は正解なのか。


 学校で習ったのとは違う。歴史資料の中。

 甘言にだまされ、キッズナップが戦中は大量に出た。

 前線基地に向かい、敵国から帰ってきた。いや開放か。解放された子供たち。体に爆弾を巻いてた話が残っていた。


 そういえば、あれを見たのは、ネット上じゃなかった。

 家のライブラリで、クローズド。つまりスタンドアローンなPC環境だった。


 家の中に、バイオチップCPU。第8世代ブレードサーバや光ストレージ? いや光は、持ち出し用のホログラフィックだったっけ? 記憶装置は、生体チップ。ゼノボットタイプだったよな。とにかく、そんなものが家にあるって、父さんの仕事。一体何をやっていたんだろう。


 僕は、何も知らない子供だったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る