第6話 予想外
森へ入れば、すぐに見つかった。
森の景色が、一部ズレている。
「お待たせしました」
「いいえ。大丈夫よ。それよりも、聞きたいことがあるの」
「はい何でしょう?」
「無線の情報とこの場所。どうやって知ったの?」
「ネット上に散らばった情報を、集めて到着しました」
「ネット? ちっ何処の馬鹿よ。AIが検索しているのは知っているでしょうに。分かったわ。ありがとうじゃあね」
「いえ。ちょっと待ってください。私を仲間に。レジスタントに」
「しっ。そんな単語を言わないで。何処に耳があるか分からないし。あなた端末を持って、いるのでしょ」
「持っています」
「まだ学生でしょ。さっきに彼氏と一緒に。いちゃついていなさい。その方があなたの為よ」
「でも私」
そう言うと、ため息を付く。女性。
「いい。潜入任務のために、見知らぬ相手に体を使うこともある。そんなことがあなたに出来るの?」
「それは。今は出来ませんが。そのうち心を決めて」
「できるの? 彼が好きなんでしょう」
「そうですけど」
「悪いことは言わない。活動は、あなたがきっと思っているよりずっと辛いし苦しいものよ。おやめなさい」
「わたし、中林未希(なかばやしみき)です」
「中林?」
奥に向かおうとした揺らぎが止まる。
「あの彼は?」
「えっどうして」
「彼の名前は?」
「望月流生(もちずきりゅうせい)です」
「そう。望月の。じゃあ。やはりおとなしく暮らしなさい。あわてなくて大丈夫。先祖からの情報を。成人後に読ませてもらいなさい。幼いくノ一さん」
「ちっ。離れろ。レジスタンスが、こんな所で何をしている」
あっ。流生。何とか彼を抑えようとしたけれど、逆に私が、レジスタンスのお姉さんに突き飛ばされてしまう。
「この野郎」
流生が認識阻害シートを引っぺがす。ああまずい。
お姉さんの姿を見て、流生の動きが止まる。
何今の動き。チクッと胸がする。
お姉さんにいきなり顔を殴られ、流生が川に向かって転がり落ちていく。
「ちぃ」
下で流生が叫んだけど。もう遅い。逃げ始めていた。
流生が私の方へ駆け上がってくる。
「大丈夫か?」
「うん大丈夫。でもどうして?」
「帰りが遅いから、気になったんだよ。それより、あいつレジスタンスだろう。どうしてこんな所に」
流生がそう言って、手に持った認識阻害シートを見たとき、私は引き留めてしまった自分を責めた。
キャンプの片付けをして、家へ帰っているとき。端末からアラートが流れる。
『緊急避難命令。速やかに家へ帰り待機』
あわてて、二人で走って帰る。
ああ。認識阻害シートを取られたから、警戒網にひっかかったのね。
悪いことをしちゃった。でも、あの人が言った言葉。頭の中で繰り返す。
『望月の。じゃあ。やはりおとなしく暮らしなさい。あわてなくて大丈夫。先祖からの情報を。成人後に読ませてもらいなさい』
先祖からの情報? 私がくノ一? 確かに、おじいちゃんの家は。伊賀にある。
それに、望月の。と言うことは、彼のこと。いえ実家ね。距離は近いし。
家に帰る途中、治安部隊がすでに警戒線を張っていた。
「端末と手のひらをここに」
素直に従う。
「出ていた目的は?」
そう問われ、流生が答える。
「単位取得の為。サバイバル訓練です」
「2人共かね?」
「そうです」
そう言うと、隊員さんの表情が和らぐ。
「手助けは、していないよね」
にやつきながら聞いてきた。私は頭の中に彼にもらった魚がふとよぎる。
「その辺りは、きっちりしました」
流生がそう言うと、うんうんと頷く。
「では。早く帰りなさい。警戒中だ。怪しい者は見ていないよね」
「ええ。みて……」
流生がそこまで言ったとき、私は彼に託した。
私の思い、きっと彼なら分かってくれる。
きっと、理解して。私が好きなら。お願い私の願い。
「彼が手引きをしたのを、見ました」
私が言った、その瞬間。捜査官の雰囲気が変わる。
「本当かね。冗談でしたは、通じないよ」
「証拠に彼は、認識阻害シートを持っています」
それを聞き、捜査官は銃に手をかける。
「持っているなら出しなさい。まあ。本当に持っているなら、持っているだけで、有罪だがね」
俺は片手は上げ。左手で、ポケットから。
認識阻害シートを取り出す。
捜査官は、確認し。すぐに流生の端末は、没収された。
連れて行かれる流生に託す。繋がりを。お願い。理解して。そう思いながら、私は流生を見送る。
私は、解放され家へと帰る。
流生のお父さん達に、顛末を説明する。
「そうか。疲れただろう。休みなさい」
その夜。
「なんだか予想外だな」
「ああ。未希ちゃんが、こそこそしていたが。流生が捕まるとはな」
「ああいや。多分に未希が暴走をしたのだろう。ご子息には苦労させるな」
「いいや。まあ昔から言うじゃないか。かわいい子には旅をさせろと。あの鈍感馬鹿には、いい修行だろう」
「少し、前倒しにするかね」
「ああじいさん。まあいいだろう。3年もすれば出てくる。出てこず。どこかに行けば気づきがあったということ。それはそれで、手が省けるさ」
「望月家は厳しいなあ。うちは娘だし、甘やかしすぎたかな?」
「いや十分才女だ。後はあいつ次第」
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