第5話 思惑

 とっさに、流生を、捜査官に売ってしまった。

 でもこれで、彼はこちらへ、きっと来てくれる。

 私のためなら、きっと。

 おじさんとおばさんには、悪いことをしちゃったけれど。

 きっとこれで。良いよね。


 私が、レジスタンスのことを、知ったのは12歳くらい。

 昔の、歴史を習っとき。

 当然大戦の前。

 世の中が、平和だった時代。

 

 授業の後。もっと詳しく知ろうとして検索し、ふと目にしたあるページ。

 隠しリンクを見つけ、アクセスする。


『人の手により、改悪された決まりは、人の手により元に戻せる。一人一人の小さな力が、大きなものとなる。今のシステムは、軍が実権を握っている以上。本当の自由は取り戻せない』

 そんなことが、書かれていた。


 自由。自由って何? 私たちは、成人。18歳を超えるまで、実質家から一人ではでられない。無論家族の許可があり許されたとき。そうね。流生と二人の時は、なぜか許された。流生も、一人の時には、許してはもらえないと言っていたのに。おかしいね。家族にそこを聞いても、実習だからとか、曖昧な返事。


 さて、今現在のシステム。実際審議に、今のやり方を変えろと投書しても。審議としてかかることがないと、書かれていた。隣家の音が気になるとか、そんなことまで審議対象となるのに。


 それから私は、時間を見つけては、彼らのことを探した。

 でも小娘に、簡単にアクセスできるほど、簡単ではない。

 かといって、安易に『レジスタンス 連絡』などのキーワード。検索したら、1時間もかからず捜査官は、やってくるだろう。それに彼らとて、そんなに馬鹿ではないだろう。


 サバイバルや歴史。関わりがありそうなページを、ひたすら巡る。縦読みや、ちりばめられた数字。アルファベット。関係ありそうなものを探す。


 そして、一つのページにわずかな期間だけ、出た案内。

 ある山奥の家が、台風の後。法面の崩落ではなく、道路自体が崩落した。

 道を修繕するための費用負担は難しく、集落を放棄する。

 奥には、3軒家があるが、家財も運べないため。自由に使ってくれと言う案内。


 道がなく、家に行けないのに自由に使え? こんなの誰も……。本当に?


 住所を、見る。

「へっ。なんで」

 この住所。分かる。だって。


 

 流生のおじいさんが住む家。幾度か行った甲賀の山奥。

 そこよりも、たぶん山奥だけど。


 13歳。サバイバルの時。

 私は、いくつかの情報にあった、連絡用具。

 振幅(AM)変調のラジオを自作。

 戦争前のロストテクノロジー。当然、低出力で構造も比較的簡単。

 それを持って、訓練に向かった。


 そして見事。受信し。周波数を手にいれた。

 内容から、彼らのことを確信。

 モールスだと思っていたが、音声で通信していた。


 家に帰った後、少ない情報集めて送信機を作った。

 そして今回。訓練時にテントを建て色々準備をすると、時間が無くなり泣く泣く流生に魚を分けてもらう。


 食べられるように処置をして、振り塩をして焼き始める。

 その間に、伝えることを考える。

 迎えてくれるなら、合流しよう。でも。


 同じく、火にあたっている流生を見る。

 昔から知っている。優しいお兄ちゃん。

 訓練で泣くたび、そっと助けてくれた。

 それでも。


 私はテントに戻り。彼らの会話に割り込み。

 少ない言葉で素性と、希望を伝える。

 無論。今いる場所も。

 回答は。

「あす」

 その一言。


 きっと私は、明日で流生と会えなくなる。

 ちょっと、片面が焦げてしまった、魚をかじる。

 涙がなぜか流れ、両親達にもきっと迷惑を掛ける。

 心の中で謝りながら、涙と鼻水まで垂らしながら、ちょっと苦い魚をかじる。


 心を決める。少し顔を洗って、流生の所へ。

 焦げそうになっている魚を、少し火から離し、うとうとしている彼を見る。

 ここでの、幾つもの思い出。

 初めての、キャンプから、火起こし。

 そして、自身の体と、異性としての流生。


「ふふっ。いつも一緒ね」


 彼が気がついた。

「どうしたんだ? さっきのじゃ、足りなかったのか?」

「んーん。まあ。少ないけど大丈夫。ねえ。流生って、私のこと好き?」

 答えは分かっている。多分私と同じ。でも今は、言葉が聞きたい。

 やさしくて、大好きな流生。


「うんまあ」

 中途半端だけど良いか。

「じゃあ。何があっても信じてね」

 私は、あなたに差し出し。あなたから。最後の思い出と、ぬくもりをもらおう。


 キスをし。

 彼を、自身に受け入れる。

 痛みと、代えがたい幸福感。

 受け入れているのが、分かる。

 声には出さないけれど、幸せ。

 ごめんなさい。明日でお別れ。


 あなたは、きっと成人後。

 マッチングシステムに登録し、私では無い誰かと子供を育てる。

 幸せにね。


 やってしまった。彼の上で寝るなんて予想外。

 冷静に、心を出さず。涙を流さないように。

 テントへ戻り、服を着ながら通信機のスイッチを入れる。

『お疲れみたいね。見ちゃったわ。いいの?彼』

『はい。何処へ行けば』

『すぐ近くの、森にいるわ』

『行きます。じゃあ』

 通信機を切り。


 持てるものだけ持って、森へ急ぐ。

 今は、流生を見ない。

 見ると、きっと足が止まるから。


 心の中で、私は叫ぶ。

 ごめんなさい。流生。

 ごめんなさい。お母さん。お父さん。

 ごめんなさい。おじさん。おばさん。

 ごめんなさい。

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