第33話 功罪

 アルル王国の討伐隊本部、フィークスたちを送り出したライオットたちはある人物に呼び出されていた。

「なぁ、ほんとにいかなきゃダメ?」

「あの人都合のいい頭してるから、ライオットがまじめに話そうとしても意味ないんだよ。それにこのタイミングで呼び出すってことはどんな話か大体わかるからな」

「ゲイル、そういう言い方はやめろ。今回は俺だってちゃんと言うこと言ってやるさ」ライオットは意気込んでいた。

「わかってるさ。だが話が通じてなければそこまでだ。それこそフィークスたちと一緒に行ったほうがよくなる」

「さぁ、着いたぜ。この部屋だ」ライオットがノックする。

「うむ。はいりなさい」声を聞き部屋に入ると、そこには髭と衣装は豪華な小太りの男がいた。

「クラルタ小隊長、本日はどのようなお話で」ライオットが言うと、

「ふむ、君たちだけかね?確かもう一人いたはずだが?」

(ルチェスも正式じゃあないけどいるだろ、わざとだな?)ハックは心で悪態をついた。

「フィークスは現在、龍帝軍に奪われた封印の魔石を奪還するためにシャタペ山に行っています」

「隊員が一人で?勝手な行動をしていいのかね」

「国王には許可を得ています」

「討伐隊には何の報告もなしか?」

「隊長、副隊長両名が不在の今、組織が不透明な状態でのこうした重要任務は王国に直接相談すべきだと考えました」

「そもそもだ!なぜ君たちの部隊がそんな重要なことをしているのかね?部隊の身分をわきまえないか!」

「フィークスは神話にもある武器を手に入れました。この任務には適任かと、」

「そのようなことを言っていない!部隊として位の高い我々が行くべきなのではないか!ということだ」やっぱりそうだ。この人ははじめっからフィークスの行動の事じゃなくて自分の昇格の事しか考えていないのだ。前々からこんなだが、ライオットたちがグリンヘックなどで活躍を見せてからは性懲りもなくこちらをいびってきたのだ。いつもならゲイルが流すのだが、今回は有言実行。ライオットが反論した。

「そういうのならば、なぜ小隊長は何の対応もなさらないのでしょうか?」

「う、うぬう、」

「それに出世の事ばかり考えているようですが、発言にはくれぐれもご注意ください」

「ぐぬぬぬぬ」

「話はそれだけのようですね。それでは」そう言ってライオットたちはクラルタの部屋を後にした。

「ちゃんと言えたじゃん。見直したよ」

「今は身分とか階級なんて気にしてる場合じゃない、みんなで乗り越えなきゃならないんだ。それなのにあの人は」

「ああゆう人絶対いるよな。それでなんでかうまくいくときもあるし、嫌になっちゃうぜ」

「それはそうとして、フィークスたち大丈夫かな」

「順調に行けば今ごろ戦ってるはずだ」

「頼むぜ、この国の事もそうだけど、俺たちはフィークスが無事に帰ることを祈ろう」

「まったくだ」ライオットたちはそう言ってフィークスたちの安全を祈った。

 そんなフィークスたちはシャタペ山を登り、ついに、ルストブルム神殿にたどり着いた。あちこちの柱がボロボロに風化してきているのが見てとれる。しかし、それだけではない。あちこちの壁についた跡がここで何かしらの戦いがあったことを想起させる。昔も封印の魔石をめぐって争いが起きていたのだろうか?神殿の最奥にたどり着くと、祭壇で黒くまがまがしい光を放つ封印の魔石とそれに何かを詠唱しているギルベルトがいた。

「追い詰めたぞ、ギルベルト!!」フィークスがそう叫ぶとギルベルトは「ついに来たか。忌まわしき希望よ。あの時の勘は間違っていなかった。復活まであと少しというところだったが、肝心なところで邪魔をしてくれたな」

「お前のせいで俺の村は破壊しつくされた。なぜだ。なぜ俺を狙った⁉レダンは答えなかった、だから!」フィークスは必死に訴えた。すると、ギルベルトもまた目つきが変わった。そして次にギルベルトから語られたのはフィークスにとって衝撃の一言だった。

「お前のせいで、か。それはこちらも同じことだ!貴様の持つ希望のちからがわが先祖、龍帝を滅ぼしたのだぞ!」

「な、なんだって!」

「我ら龍帝軍は、古来より世界を支配していた。だがそれは希望のちからをもったものによって打ち砕かれたのだ!生き残った者たちはひっそりと隠れて生き延び、ついに素質のある私が生まれた!だが後にこの世界に希望が生まれたという予言があった。それが貴様だ!永年の一族の恨み!ここでついに断ち切る!」そう言うとギルベルトは空中から剣を引き抜いた。これが彼の得物だろうか。

「我が一族に伝わる龍帝剣アデルマード。これでもって貴様を葬ってやろう!」

こちらに向かってくるギルベルト、他の四人には構わず、フィークスに襲い掛かるギルベルト。龍剣と龍帝剣、二つの剣が激しくぶつかり合う。アデルマードは剣というよりも大剣で受け止めるだけでも手いっぱいだ。

「力は上々。レダンを超えてきただけのことはある」だが弾き飛ばすまでには至らない。

「くっ!」一度後ろに下がるフィークス。

「無駄だ!」間髪入れずに魔法が襲ってくる。しかし、これはトーマスによって弾かれた。ルチェスも弓を射るが、これは大剣を利用してガード。さらにそのままこちらに突進攻撃を仕掛けてくる。突進の勢いのままぶつかった神殿のものであったろう柱はガラガラと崩れてきた。ボロボロだとは言え、かなりの質量をもつ柱を崩す力は相当なものだ。さらに、ギルベルトは魔力を剣に込め、魔法剣に強化した。これにより、ギルベルトの攻撃は追撃にまで及ぶようになる。大振りだが隙が見当たらない。

そんな時、ルチェスが

「みんなどんどん新しい技を使えてる、俺だって!」そう言うとルチェスは全身の毛を逆立たせた。

「なんだ?そこの獣人は今さら威嚇でもしているのか?」そういった直後、ルチェスはギルベルトに詰め寄り、いくつもの残像とともにギルベルトを爪でもって切り裂いた。

「なにっ⁉」致命傷にはならなかったものの、この攻撃にはギルベルトも驚いた。ルチェスの生んだ隙に今度はトーマスが

「見事だルチェス君!」今度はトーマスがギルベルトに向かっていった。魔法を盾で弾きながら突進。大剣でガードしているところにぶつかるがトーマスには盾のほかに槍もある。このパーティだとトーマスは攻撃を防いで隙を作り、仲間たちのカウンターをさせるような役割が多かったのだが、それは盾を武器としているから、槍と盾の二つを持っているトーマスはまさに攻防一体である。ギルベルトもガードはできるが攻撃が出る速度では突き攻撃であるトーマスのほうが有利だ。このままでは不利と考えたギルベルトが距離をとり体験を構え攻撃態勢に入る。しかし、そのタイミングをついてフィークスがギルベルトに切りかかった。ルチェスの攻撃も合わさり、なかなかのダメージになったようだ。後ずさりしたギルベルトは魔力をため、魔法を打ち出した。これにセティとエルダが同時に魔法で迎え撃つ。一人では勝てなくとも二人なら、対抗できる。二人の攻撃が押していき、ギルベルトに命中した。さすがにイザベーナのようにはいかずともここまでの攻撃はギルベルトの意識を変えるには十分だった。

「ふふふ、ようやくこの力を使うほどの相手が現れたか!」そう言うとギルベルトは力をため始めた。そして光がその体を包む。次にフィークスたちの前に現れたのは、龍のような翼と角をはやしたギルベルトであった。

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