第32話 魔法剣
「あっぶねー、」フィークスとセティは何とか攻撃の範囲から逃れていた。もう少し遅れていたら、大ダメージは必至だったろう。
「こんな程度で驚いてくれるのか?随分と安上がりだな」こちらを挑発するレダン。戦闘の経験は明らかにレダンのほうが上だ。ここからどうやって攻めていくか。フィークスとセティをエルダが回復魔法で急速治療させる。強敵との戦いではちょっとした綻びで全てが瓦解することもある。備えを万全いしておかなければならない。回復をしてもらっている中で
「エルダ、セティ、考えがあるんだが」とフィークスが伝えようとっしたその時、
「ほらほら!ぼうっとしてるんじゃないぜ?勝負はまだ始まったばかりなんだからよ!」体制を崩したフィークスたちをめがけてレダンが突っ込んでくる。
「させるか!」しかし、そこはトーマスと短剣を構えたルチェスがそれを遮った。
「ちっ!邪魔をするな!」豪快で、守りの堅いトーマスと小回りが利き隙のないルチェスの二人を一度に裁くことはレダンでも手を焼いているようだ。なにより、フィークスにとって脅威だった槍の薙ぎ払いはトーマスには受け止められてしまうし、ルチェスにはその小柄な体躯によって命中させるには軌道を意識する必要がある。が、そんなことをすればかわされたときに対応が追い付かない。もちろんレダンも薙ぎ払うだけが能ではない。しかし、槍の強みを生かせる技を選択肢から弱めることができるのは有効だ。しかし、レダンは一度距離をとった後、余裕を取り戻して
「おっと、俺が飛べること忘れてないか?」そう言うとレダンは再び空中に飛び上がった。ルチェスも弓で応戦するが、空中では槍も振り回し放題。矢を的確に払いのけていく。しかも、レダンが槍を振り回せば回すほど、槍の軌道が線となって見えるようになってきた。戦いの中で敵の動きが見抜けるようになることはあるが、今回はその類ではないようだ。電撃だ。空中から降下しながらレダンは槍に魔力をため、先ほどの焦槍を仕掛けようとしているのだった。一点での刺突と異なり、空中からの薙ぎ払いとなればトーマスの盾でも防ぎきれないかもしれない。
「希望とともにここに来たことを悔いるんだな!」そう言ってレダンは二人めがけて槍を一閃。しようとしたところで何者かがそれを受けとめた。
「貴様なぜ!威力ではこの私が勝っているはず!」受け止めたのはフィークスだ。飛び上がり剣でレダンの槍を受け止めたのだ。地上では距離として間合いの有利をとられるが、空中では相手もその一撃に集中しなければならない。槍をぶんぶん振り回せばかえって隙ができてしまうからだ。
「それに貴様の剣、なぜ炎をまとっている!」フィークスの剣はレダンの雷をまとった槍のように炎が燃え上がっていた。
「あんたのそれと同じさ。セティのボルケーノを剣にまとわせたんだ」フィークスの使えるファイアーだけでは電撃と違い、剣に纏わせておくことはできない。しかし、ボルケーノなら細かい火を剣を軸にして回らせることで一時的に魔法剣のようにすることが可能だ。
「エルダの強化魔法も力になった。これがなきゃ間に合うかも危ういし、ここであんたと剣を交えても力負けしてしまう。2人が時間を稼いでくれてよかった」とはいえ、未知数な部分もあった。フィークスが今まで使っていた剣は高度はあるが魔法伝導性が低い。そのため、魔法をまとわせることはできなかったのだ。ベルエグがどんな材質でできているかまではわからないが、炎も纏えないようなものではないだろうと思い、この作戦に至ったのだ。結果的には成功したが、この最後の部分が欠けていたらフィークスは魔力の面で打ち負かされ、地面へと落下。そのままトーマスたちと焦槍の餌食になっていただろう。仲間たちの力を借りたフィークスは次第にレダンを押していき、ついにはその剣ではじき返したのだった。レダンは一気に地面へと落下した。
「くっやるな、だが」流石にこれだけではレダンは倒れない。少しよろめいただけで再び立ち上がる。もう一度体勢を立て直してこちらに向かってくる。
「行くぞみんな!」フィークスはトーマスとルチェスとともにそれを迎え撃つ。二人もすでにエルダに強化魔法をかけてもらい、用意は万全だ。先ほどのように2人が動きで翻弄しながらフィークスが攻め立てていく。間合いに入ることができれば後は剣さばきがものをいう。接近できれば剣を持ったフィークスのほうが有利だ。さらにセティのつけてくれた炎の力も残っている。鎧であっても魔法攻撃は応えるだろう。レダンの隙をついてフィークスが一撃を叩き込む。
「ぐああぁ!」なおも戦おうとするレダンに
「食らいなさい!<シャイン>!」エルダが光の中級魔法、シャインを放った。光の柱が一直線にレダンに襲い掛かる。とっさに電撃魔法で応戦するが、打ち負かされてしまう。そのままレダンは雪山の壁へと激突した。
「やったか?」ルチェスが言う。しかし、油断は禁物だ。
「いや、まだだ」フィークスが仲間に注意を促した。その瞬間、レダンの身を埋めていた雪が内側から電撃によって吹き飛ばされた。
「うわっ⁉」強烈な閃光が当たりを包んだのち、フィークスたちの前にはものすさまじい魔力を隠そうともしないレダンがいた。レダンはその魔力を再び槍にため始めたもう一度焦槍を使おうとしているのだ。ベルエグにかけてもらったボルケーノはすでに効果が弱まっていた。今更ファイアーではこれっきりだとしても力が足りないだろう。
「フィークス!もう一度!!」セティが呼びかけた。がそんな時間はない。レダンが攻められて焦っている今こそ大技を叩き込む何よりのチャンスなのだ。それに先ほどボルケーノを纏って戦った際にフィークスは炎とは別の力を持っていることに気づいた。それは最初からベルエグが持っていたものではあったろうがフィークスが気づいていなかった。
(ベルエグ、お前の力を貸してくれ!)フィークスが念じるとベルエグが光輝きだした。そして弱まっていたボルケーノの力も再び燃え上がる。
「どういうこと?まさかフィークスもボルケーノを」
「いや、恐らく違います。おそらく龍剣ベルエグは魔法剣だったのでしょう!」トーマスが驚く。
「行けるのか⁉いや、行くしかない!兄ちゃんいけー!やっちまえー!」ルチェスの声がフィークスに届く。レダンも魔力をためきったようだ。
「焼き払え!<焦槍>!」電撃が槍の穂先に集まる。それに対してフィークスは
「行くぞレダン!<火龍斬>!」剣と槍がぶつかり合い。すさまじい魔力が当たりを包む。二人はそのまま固まった後、
「うおおおおおおお!!」フィークスが力の限り剣を奮いレダンの槍をはじいた。体制を崩したレダンにフィークスの渾身の一撃が振り下ろされる。剣は赤黒い魔力を帯び、それでもってレダンを切り裂いた。
「ぐああああああ!!」再び雪山に吹き飛ばされるレダン。ドゴォォンと雪のない岩壁に激しく体をぶつける。
「はぁ、はぁ」息も絶え絶えになっていた。フィークスはレダンのもとへ向かい、
「終わりだ、レダン」そう言うとレダンはあっさりした口調で
「思ったより熱くなっちまった。だが、こんなところでやられるなんてごめんだね。悪いが退散させてもらうぜ!」そう言うとレダンは、あの時と同じように空間に穴をあけ、そこへと逃げ込んだ。
「くそっどこ行ったんだ!」
「探しても無駄だ。もうこの辺りに気配がない」ルチェスが言った。
「あれだけの一撃を受けたんだもの。もうこっちには攻められないわ。それより急いでギルベルトを止めなきゃ!」
「あぁ、そうだな。セティ」
「私の魔法で回復します!終わったら急ぎましょう!」エルダに回復してもらって一行はルストブルム神殿へと急ぐのだった。
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