第31話 白銀に立つ黒
フィークスたちはようやく見つけた古い山小屋に犬ぞりを止めた。昔、ここに巡礼していた者たちの名残だろうか。
「さて、ここから先は歩きだな」
「俺たちもついてくぜ。少しくらい戦力になるかもだしな」
「助かるよ。ありがとう、二人とも」こうしてフィークスたちは神殿を目指してシャタペ山を登り始めた。ほんのわずかに残る登山道を進んでいく。すると、周りの針葉樹林がめきめきとなり始めた。次々と木々をなぎ倒しながら、何者かがこちらに近づいてくる。犬ぞりとは違う重々しい足音、がその姿を一瞬視認できなかった。というよりも、吹雪に同化して見えなかった。生物の保護色というのは、落ち着いてみれば簡単にわかるし、こんな体色で大丈夫なのかと疑いたくなるものもある。だが、大自然の中で探してみるとやはりなかなか見つからないものだ。いま目の間にいる。というかいた“それ”はさながら吹雪が生み出す雪の壁にでも擬態していたのだろうか。イエティ、雪山に生息する巨大な猿人型の魔物だ。
「くそっこんな時に足止めかよ、」ルチェスが言う。するとそこでアッジとウスタがフィークスたちの前に出た。
「どでかいのが相手かいつかのだど野郎みたいだな」
「あんたに恨みはねーが、俺たちが相手しなきゃならねーな!!」
アッジはイエティの目に向かって目くらまし攻撃をしかけた。
「ここは俺たちで何とかしておく!お前らは先に行け!」
「わ、わかった!」二人の言葉に後押しされ、フィークスたちは先へと進んだ。
「さてと。送り出したはいいけど、俺たちにとってこの手の相手は相性最悪だぜ?」
「確かに、けどやるしかねえだろ。俺らがやられちゃ、ワンころたちが困る!」
「え?フィークスたちじゃないの?」
「いや、犬はどうなるんだって話よ」
「俺らが死んでも何とかフィークスたちが連れ帰るでしょ」
「え⁉もしかして、俺ら、ここで死ぬ?やだやだやだ!」アッジが駄々をこねる。
「つべこべ言ってるとホントにおっちぬぞ!」ウスタが言うと二人の頭上からイエティの拳が振り下ろされた。
「うおおおお!!?」
「っぶねー、」
「ウスタ、目ぇ覚めたわ。絶対に何とかしなきゃな!」
「そらそうよ!あいつらより犬たちよりもまずは自分の事っしょ!」そう言って二人は、この大物の前に立ちはだかるのであった。
先へと進むフィークスたち。とはいえ相手は王国でも屈指の雪山の一角、一筋縄では進めない。フィークスたちは途中にあった山小屋でもう一度休憩することに。そんな小屋の中で、ここに来るまでに考えたことを話した。
「なぁ、龍帝軍は最近、俺の希望のちからを狙ってるんだよな」
「そんな風だったわね。それがどうかしたの?」
「俺の住んでいたポル村は、龍帝軍に襲撃されて燃やされてしまったんだ。その時、あいつらはすでに希望のことを話していたんだ。もしかしたら」
「自分のせいで村が燃やされたかもしれないって?」
「う、うん」
「フィークスさん、」そうなのだ。あいつらが昔から希望のちからを狙っていて自分を狙ってきていたなら、あの事件が起きたのはフィークスのせいということになる。
「仮にそうだったとしても、あなたはそれを必要以上に思い悩むことはないんですよ?」
「トーマスさん、だけど、俺がいなければエルダさんの父親は、無事だったかもしれない。そんな自分と一緒に来るなんて」
「確かに、お父さんは犠牲にならずに済んだかもしれない。ですが、それがあなたの出生を否定する理由にはならないと思います。お父さんが死んだのも、ポル村が襲われたのも、結局は龍帝軍が攻撃したからです。それを自分のせいにしてはいけません」龍帝軍の行動動機がフィークスの希望のちから(この時はおそらく希望のかけら)だったとしてもポル村を襲ったのは龍帝軍の決断だ。物事の原因を深く考え込むとよくないのはこういう点にある。次第にいかに自分の責任にしようかを考えるようになるのだ。自分が全ての元凶にしてしまいたい気持ちは、案外誰にでもあるのかもしれない。
「それでも、自分のせいだと思うなら、やっぱりここで復活させるのを阻止することが一番の罪滅ぼしになるんじゃないですか?」
自分のせいで大勢の命が奪われたのなら、今度こそそれを止めなくては、これは、過去の自分がなしえなかったこと。一人でも龍帝軍の魔の手から守ること。今度こそやり遂げなくては。仲間に励まされ、フィークスは改めて決意を固めるのであった。
山小屋から出発したフィークスたち、山は変わらず雪に閉ざされており、フィークスたちは一歩一歩先に進んでいった。しばらく進んでいくと中腹の少しだけ開けた場所に出た。そこには、雪で真っ白な世界と対をなすような漆黒の鎧がフィークスたちの行く手をふさいでいた。
「黒騎士---レダン」吐き出すようにつぶやくフィークス。
「やぁ、フィークス君。こんなところまで本当に来るとは」
「ふざけた態度はやめろ!なぜ、なぜ、討伐隊を裏切った!俺の中にある希望のかけらが一体何をしたっていうんだ」
「...」黙るレダンを前にフィークスは続ける。
「ネオハーツの事を教えたのもあんただ!その時の言い方を思い出せば、あれはどう考えても俺に希望のかけらがあるとわかっているような口ぶりだった!なぁ、教えてくれよ。あんたは一体何なんだ!」必死に訴えるフィークスにレダンは、城の地下の時と同じ口調で
「君に話しても無駄だ。が、いいだろう。少しだけ話してやる。私は昔、それでもまともな討伐隊だったのだよ。だが、ある日私は出会ったんだ。“あの方”に。そして私はあの方の計画のために君を利用したんだ」
「あの方?ギルベルトの事か?」
「いったはずだ。君に話しても無駄だ、と。精々、あの世で謎解きにでも励むんだな!」そう言うとレダンは、持っていた槍を構えた。どうやらこちらが本命のようである、
「来るぞ!」フィークスがそう言うや否やレダンは槍に魔力を込めて一閃。魔法の斬撃を繰り出してきた。
「あぶない!」
「これからだ!ルチェス援護してくれ!」フィークスがレダンとの距離を詰めていく。それをルチェスとセティが援護。迫りくる魔法攻撃を打ち消しながら進んでいく。が、あの時の杖とは異なり今回の相手は槍だ。間合いに関してはまるで歯が立たない。魔法をかき消せても槍の範囲に入ったが最後だ。攻め込むことができなければ意味がない。
「エルダ様!私の盾に魔反射を!」
「えぇ!」そう言うとエルダはトーマスの盾に呪文を詠唱。魔反射の力を得た盾でもって強引にレダンの間合いに入ろうとする。しかし、
「今回は、城じゃないんだ。ただ攻撃を反射されてばかりもいられないな!」そう言うとレダンは一瞬でフィークスたちの視界から消えた。
「ど、どこへ行ったんだ⁉」見失い必死で探す。次の瞬間
「トーマス危ない!上だ!」ルチェスが気付く。上を見てみるとなんとレダンが槍を構えてトーマスの脳天めがけて降りかかってきたのだ。慌てて
盾を構えるトーマス。しかし、重力の加わった一撃はすさまじい威力だ。
「ぐぬうううう!!」力の限り受け止めるトーマス。やっとの思いで弾き飛ばす。
「くくく、やはり希望とともに歩んできたものたちだ。いいだろうこちらも少し本気を出そう!」再び魔力を槍に込めるレダン。
「まずい!みんな離れろ!」すさまじいオーラを察知したフィークスは全員に交代を促す。少し遅れたセティを連れて何とかかわそうと逃げる。
「食らえ!<焦槍>!!」レダンは再び槍を一振りした。するとそのあたりに強烈な電撃が走った。白かった地面は薙ぎ払われた場所が黒く焦げていた。
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